ピンチをチャンスに変えて
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年01月15日 11時30分42秒
リブラネスタの住宅街の一角にあるベーカリー・ミュラースからは今日も香しいパンの香りが漂っていた。
「あれ、今日はパン売り切れなのかい?」
常連のおばさんが困ったように問いかける。
「おば様、後30分待てますか! 今オーブンの中なんです!」
工房から顔だけだし、ルアンナ・ミュラーが答えた。
「あら? いつもより遅いんだね」
「ごめんなさい! ちょっと、トラブルがあって……」
ははは、と苦笑いを見せるルアンナに、おばさんは首を傾げる。
「大丈夫なのかい?」
「はい、なんとか。でも、いつもの米粉パンはないんです……」
「あら、そうなのかい? それは残念だけど……確かにいつもと違う匂いがするね」
スンスンと鼻を鳴らすおばさん。奥から漂ってくるのは嗅ぎ慣れない匂いだった。
「あ、わかりますか? さすがおば様。実は珍しい粉で焼いてるんです」
「珍しい粉?」
「ええ、実は――」
常連のこのおばさんにならと、ルアンナは事の経緯を語り始めた。
●数時間前
「えっ、米粉が入ってこないんですか!?」
「すまんなぁ。何でもシャルガネ居住区からの道中で雪崩があったらしくて、馬車が止まっちまってるんだ」
出入りの粉屋のおじさんが申し訳なさそうに話す。
「どうしよう、もう在庫の米粉も残り少ないんですよね……」
「小麦じゃダメなのか? 前々から気になっていたが、パンと言えば小麦だろう?」
と、おじさんはルアンナに問いかける。
「もちろん小麦パンもおいしいですね。それはわかっているんですけど……」
「こだわり、か」
「ははは、そうですね、そうなんです。こだわりです」
照れたように笑うルアンナに、おじさんはうんうんと嬉しそうに頷いた。
「職人として実に立派だとは思うが……申し訳ない。無いもんは無いんだ。どうする?」
「そうですねぇ……やっぱり小麦で――」
と、答えかけた所でルアンナがはっと何かを思い出す。
「おじ様、この間、珍しいものがあるっておっしゃってましたよね?」
「あ? ああ、あれの事か?」
ルアンナに言われ、おじさんは先日の出来事を思い出す。
珍しい粉が手に入ったがどう使えばいいかわからず、ルアンナに相談に来た事があったのだ。
「今日って持ってきてたりしますか?」
「ああ、一袋だけならあるぞ。何かうまい使い方思いついたのか?」
「はい、あれからちょっと考えてたんですけど、試してみたいパンを思いついたんです!」
「ほぉ」
あんな粉で? と、おじさんは微妙な表情を見せるが。
「なので一袋ください、トウモロコシ粉!」
ルアンナは自信ありげに微笑んだ。
●
「――なんてことがあったんです」
「へぇ、それで」
「あ、丁度できたみたいです。おば様、ご試食されますか?」
「いいのかい?」
「もちろんですっ!」
おばさんの問いかけに、嬉しそうに答えたルアンナ。丁度焼き上がったオーブンを開けた。
「……うん、行けそう」
小麦や米粉とは全然違った焼き上がり。膨らんではいるのだが、どちらかと言えばスポンジのようだ。だが、匂いは良好。切り口から仄かなトウモロコシの甘い香りが漂ってくる。
「熱いので気を付けてくださいね」
ルアンナは小さめに切り分けたパンを皿に乗せ、おばさんに差し出した。
「どうでしょう……?」
「……うん、美味しいね。ちょっとパサパサしてる感じだけど、甘くて香ばしくて米粉のパンとはまた全然違った美味しさだね。これ売ってもらえるのかい?」
おばさんの評価にルアンナは、カウンターの下でグッと拳を握った。
「ありがとうございます! でも今日は売るほど作っていないので……あ、この試作のでよければ持って行ってくださいっ!
●
「いつもの場所までお願いしますね」
「おう、任せとけ」
青年が差し出した手を掴み、ルアンナは御者台の横に座る。
この青年はいつもこの時間に、ルアンナの目的地方面へ馬車を走らせるので、焼きたてパンを運賃に便乗させてもらっていた。
「……ん? 今日は変わった匂いがしてんな」
「あ、わかりました?」
バスケットにかかっていた布を取り、ルアンナは中身を見せる。
「黄色いパン?」
「ふふ、おひとつどうぞ」
と、ルアンナは手綱を離せない青年の口に、あーんと一切れ放り込んだ。
「……お、甘ぇな、このパン」
「少しお砂糖が入ってるんです。お味はいかが?」
「うまい! なんかパンっていうよりお菓子みたいだな?」
「あ、そうかもしれませんね。今度、生クリームでも乗せてみましょうか」
「なんだよ、ケーキ屋に転職か?」
「ふふ、兼業ですよ」
そんな風に青年と話しながら馬車に揺られていると、馬車は目的地に到着する。
「今日もありがとうございました。これお礼です」
「おう、いつもありがとな!」
「こちらこそ」
運賃代わりの包みを渡し、ルアンナは青年と別れた。
「いつも違うパンだけど、気に入ってもらえるかしら」
不安と期待が入り混じる中、ルアンナは小料理屋『金の腕』の扉を開けた――。
「あれ、今日はパン売り切れなのかい?」
常連のおばさんが困ったように問いかける。
「おば様、後30分待てますか! 今オーブンの中なんです!」
工房から顔だけだし、ルアンナ・ミュラーが答えた。
「あら? いつもより遅いんだね」
「ごめんなさい! ちょっと、トラブルがあって……」
ははは、と苦笑いを見せるルアンナに、おばさんは首を傾げる。
「大丈夫なのかい?」
「はい、なんとか。でも、いつもの米粉パンはないんです……」
「あら、そうなのかい? それは残念だけど……確かにいつもと違う匂いがするね」
スンスンと鼻を鳴らすおばさん。奥から漂ってくるのは嗅ぎ慣れない匂いだった。
「あ、わかりますか? さすがおば様。実は珍しい粉で焼いてるんです」
「珍しい粉?」
「ええ、実は――」
常連のこのおばさんにならと、ルアンナは事の経緯を語り始めた。
●数時間前
「えっ、米粉が入ってこないんですか!?」
「すまんなぁ。何でもシャルガネ居住区からの道中で雪崩があったらしくて、馬車が止まっちまってるんだ」
出入りの粉屋のおじさんが申し訳なさそうに話す。
「どうしよう、もう在庫の米粉も残り少ないんですよね……」
「小麦じゃダメなのか? 前々から気になっていたが、パンと言えば小麦だろう?」
と、おじさんはルアンナに問いかける。
「もちろん小麦パンもおいしいですね。それはわかっているんですけど……」
「こだわり、か」
「ははは、そうですね、そうなんです。こだわりです」
照れたように笑うルアンナに、おじさんはうんうんと嬉しそうに頷いた。
「職人として実に立派だとは思うが……申し訳ない。無いもんは無いんだ。どうする?」
「そうですねぇ……やっぱり小麦で――」
と、答えかけた所でルアンナがはっと何かを思い出す。
「おじ様、この間、珍しいものがあるっておっしゃってましたよね?」
「あ? ああ、あれの事か?」
ルアンナに言われ、おじさんは先日の出来事を思い出す。
珍しい粉が手に入ったがどう使えばいいかわからず、ルアンナに相談に来た事があったのだ。
「今日って持ってきてたりしますか?」
「ああ、一袋だけならあるぞ。何かうまい使い方思いついたのか?」
「はい、あれからちょっと考えてたんですけど、試してみたいパンを思いついたんです!」
「ほぉ」
あんな粉で? と、おじさんは微妙な表情を見せるが。
「なので一袋ください、トウモロコシ粉!」
ルアンナは自信ありげに微笑んだ。
●
「――なんてことがあったんです」
「へぇ、それで」
「あ、丁度できたみたいです。おば様、ご試食されますか?」
「いいのかい?」
「もちろんですっ!」
おばさんの問いかけに、嬉しそうに答えたルアンナ。丁度焼き上がったオーブンを開けた。
「……うん、行けそう」
小麦や米粉とは全然違った焼き上がり。膨らんではいるのだが、どちらかと言えばスポンジのようだ。だが、匂いは良好。切り口から仄かなトウモロコシの甘い香りが漂ってくる。
「熱いので気を付けてくださいね」
ルアンナは小さめに切り分けたパンを皿に乗せ、おばさんに差し出した。
「どうでしょう……?」
「……うん、美味しいね。ちょっとパサパサしてる感じだけど、甘くて香ばしくて米粉のパンとはまた全然違った美味しさだね。これ売ってもらえるのかい?」
おばさんの評価にルアンナは、カウンターの下でグッと拳を握った。
「ありがとうございます! でも今日は売るほど作っていないので……あ、この試作のでよければ持って行ってくださいっ!
●
「いつもの場所までお願いしますね」
「おう、任せとけ」
青年が差し出した手を掴み、ルアンナは御者台の横に座る。
この青年はいつもこの時間に、ルアンナの目的地方面へ馬車を走らせるので、焼きたてパンを運賃に便乗させてもらっていた。
「……ん? 今日は変わった匂いがしてんな」
「あ、わかりました?」
バスケットにかかっていた布を取り、ルアンナは中身を見せる。
「黄色いパン?」
「ふふ、おひとつどうぞ」
と、ルアンナは手綱を離せない青年の口に、あーんと一切れ放り込んだ。
「……お、甘ぇな、このパン」
「少しお砂糖が入ってるんです。お味はいかが?」
「うまい! なんかパンっていうよりお菓子みたいだな?」
「あ、そうかもしれませんね。今度、生クリームでも乗せてみましょうか」
「なんだよ、ケーキ屋に転職か?」
「ふふ、兼業ですよ」
そんな風に青年と話しながら馬車に揺られていると、馬車は目的地に到着する。
「今日もありがとうございました。これお礼です」
「おう、いつもありがとな!」
「こちらこそ」
運賃代わりの包みを渡し、ルアンナは青年と別れた。
「いつも違うパンだけど、気に入ってもらえるかしら」
不安と期待が入り混じる中、ルアンナは小料理屋『金の腕』の扉を開けた――。