挑むは至高の揚げ物……その名はトンカツ
キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2021年01月17日 16時10分46秒
とある場所の一室。料理もできる器具が揃ったその場所を借りたその少女は食材の前で資料となる紙片とにらめっこしていた。
彼女の名前はストレガ・L・リベルガストラ。膨大な知識を受け継ぎ続ける一族の当代である。
様々な知識を得てあらゆることを研鑽する彼女の一族の例に漏れず、彼女もある事柄にもっぱら熱心に研究に励んでいた。
それは食である。
食は場所によって特色があり、その調理方法も多岐にわたる。食材の違い、保存方法の違いあげればキリがない。
「ふむふむ……まずは肉をたたけばいいのだな? それならこれで」
彼女は用意していた小型のハンマーを取り出すとべしべしとまな板の上に乗せた切り身の猪肉を叩いていく。
両面まんべんなく叩き、それぞれの油の部分に切り込みを入れるのを忘れない。これを忘れてしまうと肉が縮んでしまうのだ。
叩くことは肉の繊維を壊し、油で揚げた際にその身を柔らかく保つ。
彼女が作ろうとしている『トンカツ』には必須ともいえる。
叩き終わった猪肉をストレガは市場で買ってきた朝取れ卵を入れた木のボールにひたす。
それから素早く肉を上げるとパンを砕いて粉にした物であるパン粉をまぶしていく。
まぶした際に持ち上げて軽く叩き、余分なパン粉を落としておく。これは資料にも書かれているがどうやら揚げる際に必要な事らしい。
なぜ必要なのかを彼女は理解していなかったが美味しくなるのならばとまずは実践とばかりに資料通りに事を運ぶ。
彼女の隣では浅めの鍋に油がなみなみと注がれていた。鍋は既に熱されており中の油は高温となっている。
「ほう、パン粉を数粒入れ……浮かび上がると入れる頃合い? よし、では入れてみるのだ」
指で数粒ほどパン粉をつまんだストレガは熱された油にそれを落としてみる。
すると最初パン粉は油に深く沈んだが、ぷくぷくと微細な泡を出しながら浮かび上がってきた。
頃合いであると判断したストレガはパン粉の衣を纏った猪肉を油へと投入する。
じゅわっという揚げ物特有の音が響き……猪肉は油の中に沈んでいく。
片面がきつね色になるまで待つ、という記述があったのでストレガはじっと肉の様子を見ながらその時を待った。
部屋には揚げ物の良い香りが充満し、それはストレガの腹を鳴らせる。
「うぐぅ……食欲を誘ういい香りなのだ、くぅ、揚がるのが待ち遠しい……のだっ」
油から取り出して食べたくなってしまうのを我慢しながらストレガはきつね色になった猪肉を油の中でひっくり返す。
多量の泡を出しながら猪肉はなおも美味しそうな香りを放った。
これは肉の臭みを抜いていなければ起きないことではあるが彼女は下ごしらえとして肉を大蒜醤油漬けにし、先んじて臭みを抜いていたのである。
味わいも深くなるしお勧めだとシャルガネ居住区の知り合いから教えてもらった手法であった。
そろそろ揚がるだろうと考えたストレガはまな板の上にキャベツを乗せ、しぱしぱと細かく千切りにしていく。
何やらトンカツなるものには必須だという記述が彼女が参考にしていた『トンカツ大将の抜群レシピ』には記載されている。
食べ続ければ口に少しづつ残る油っぽさを野菜の食感やさっぱりした味で緩和する……なるほど、口腔調味とはそういうことを言うのか、とストレガは感心しながらキャベツを切っていく。
キャベツを切り終えた段階で肉はちょうどいい感じに揚がっており、それを油から引き上げ十分に油を切った上でまな板の上に乗せる。
一分程、肉を休ませた後でストレガは揚がった猪肉に刃を入れた。さくっという実に美味しそうな音が響き渡る。同時に彼女の腹ももう一度鳴った。
断面を見れば揚げが不十分な赤い所などはなく、肉はしっかりと揚がっているようであった。
衣も切り分ける際に分離することもなく肉にちゃんと接着している。
ストレガはキャベツを乗せた皿の隣に揚がった猪肉……トンカツを乗せていく。
参考資料の通りに制作できたことをストレガは誇らしく思った。初挑戦のレシピはいつも失敗しないかとどきどきなのである。
あらかじめ炊いておいた湿原産の米を木の器に盛り付けると皿に乗せたトンカツを一切れ口へと運ぶ。
米と共に噛み締める揚がった猪肉の旨味はすぐに口内へと広がった。
大蒜醤油の味わい深い風味と肉特有の旨味が合わさり、そこへ揚がった衣の食感が加わり絶妙なハーモニーを奏でる。
声にならない歓喜の声を上げ、ストレガは夢中になってトンカツを食べ進めようとしてふと思いつく。
米に合うのなら……米の上にのせてはどうだろうかと。
彼女は早速実践してみる。
いくつかのトンカツを米の上に乗せてみた。
見たことはないはずなのに、なんだかこれがしっくりくるのである。
続けてソースをかけたトンカツと塩をかけたトンカツをそれぞれ一切れずつ米と共に食べてみた。
どちらも甲乙つけ難く、両者素晴らしいといった味である。
その感想を忘れないうちにと食べながら後に纏める為のメモを傍らに用意してあった紙へと記していく。
「塩はしょっぱさと揚げ物の風味を素直に楽しめる。ソースは味の深みとソースの絡み合いが非常に旨い。どちらが良いかは好みが分かれるところになるだろう、と」
米とトンカツを口内で楽しみながらストレガは思った。
腹持ちの良い米はもっと広く広まるべきだと。
米は油との相性も良い上にどのような食材ともマッチする。合わない食材を探す方が難しい。
自身が記したレポートが多くの者の目に触れ、米を食べるということが様々な人々に知られることになればよいなと彼女は思った。
だが中には読むことが難しいものもいるだろう。そういった者にはどう伝えればいいか。
「そうか……露店、いや移動式の屋台なるものならばどうだろう……それなら多くの人々が美味しさに気づくかもしれんな」
かつて彼女が見た東方の書物の中に移動式の露店ともいえる『屋台』という物があった。
何分昔に見た記述だからかうろ覚えだが……あれならば冒険者として得られる肉や骨も活用できるし料理の技術向上にもなる。
更には食べた者達の素直な意見が聞ける上、種族ごとの味覚の違いに関する知識まで得られるではないかと。
はむはむとトンカツを食べ進めながらストレガは屋台で出す料理を考えていた。
今まで試してきた料理の中からベストと思える編成をしなければならない。
「ふむむ、これは難題なのだ。どれも旨いしお勧めできる……だがそれでは数が多すぎて屋台に収まらない」
いっそ屋台ではなく料理店でもとも考えたが、冒険や研究の傍らにやるには現実的ではない。
それならば気軽に運用できる屋台の方が実に都合がよかった。
「いっそ馬車と組み合わせて詰める量を増やし、日替わりにするのもありかもしれない。ふふ、それも楽しそうなのだ」
できるかどうかはさておいて。
ストレガはそんなことを考えながら、熱々のトンカツを頬張るのであった。
彼女の名前はストレガ・L・リベルガストラ。膨大な知識を受け継ぎ続ける一族の当代である。
様々な知識を得てあらゆることを研鑽する彼女の一族の例に漏れず、彼女もある事柄にもっぱら熱心に研究に励んでいた。
それは食である。
食は場所によって特色があり、その調理方法も多岐にわたる。食材の違い、保存方法の違いあげればキリがない。
「ふむふむ……まずは肉をたたけばいいのだな? それならこれで」
彼女は用意していた小型のハンマーを取り出すとべしべしとまな板の上に乗せた切り身の猪肉を叩いていく。
両面まんべんなく叩き、それぞれの油の部分に切り込みを入れるのを忘れない。これを忘れてしまうと肉が縮んでしまうのだ。
叩くことは肉の繊維を壊し、油で揚げた際にその身を柔らかく保つ。
彼女が作ろうとしている『トンカツ』には必須ともいえる。
叩き終わった猪肉をストレガは市場で買ってきた朝取れ卵を入れた木のボールにひたす。
それから素早く肉を上げるとパンを砕いて粉にした物であるパン粉をまぶしていく。
まぶした際に持ち上げて軽く叩き、余分なパン粉を落としておく。これは資料にも書かれているがどうやら揚げる際に必要な事らしい。
なぜ必要なのかを彼女は理解していなかったが美味しくなるのならばとまずは実践とばかりに資料通りに事を運ぶ。
彼女の隣では浅めの鍋に油がなみなみと注がれていた。鍋は既に熱されており中の油は高温となっている。
「ほう、パン粉を数粒入れ……浮かび上がると入れる頃合い? よし、では入れてみるのだ」
指で数粒ほどパン粉をつまんだストレガは熱された油にそれを落としてみる。
すると最初パン粉は油に深く沈んだが、ぷくぷくと微細な泡を出しながら浮かび上がってきた。
頃合いであると判断したストレガはパン粉の衣を纏った猪肉を油へと投入する。
じゅわっという揚げ物特有の音が響き……猪肉は油の中に沈んでいく。
片面がきつね色になるまで待つ、という記述があったのでストレガはじっと肉の様子を見ながらその時を待った。
部屋には揚げ物の良い香りが充満し、それはストレガの腹を鳴らせる。
「うぐぅ……食欲を誘ういい香りなのだ、くぅ、揚がるのが待ち遠しい……のだっ」
油から取り出して食べたくなってしまうのを我慢しながらストレガはきつね色になった猪肉を油の中でひっくり返す。
多量の泡を出しながら猪肉はなおも美味しそうな香りを放った。
これは肉の臭みを抜いていなければ起きないことではあるが彼女は下ごしらえとして肉を大蒜醤油漬けにし、先んじて臭みを抜いていたのである。
味わいも深くなるしお勧めだとシャルガネ居住区の知り合いから教えてもらった手法であった。
そろそろ揚がるだろうと考えたストレガはまな板の上にキャベツを乗せ、しぱしぱと細かく千切りにしていく。
何やらトンカツなるものには必須だという記述が彼女が参考にしていた『トンカツ大将の抜群レシピ』には記載されている。
食べ続ければ口に少しづつ残る油っぽさを野菜の食感やさっぱりした味で緩和する……なるほど、口腔調味とはそういうことを言うのか、とストレガは感心しながらキャベツを切っていく。
キャベツを切り終えた段階で肉はちょうどいい感じに揚がっており、それを油から引き上げ十分に油を切った上でまな板の上に乗せる。
一分程、肉を休ませた後でストレガは揚がった猪肉に刃を入れた。さくっという実に美味しそうな音が響き渡る。同時に彼女の腹ももう一度鳴った。
断面を見れば揚げが不十分な赤い所などはなく、肉はしっかりと揚がっているようであった。
衣も切り分ける際に分離することもなく肉にちゃんと接着している。
ストレガはキャベツを乗せた皿の隣に揚がった猪肉……トンカツを乗せていく。
参考資料の通りに制作できたことをストレガは誇らしく思った。初挑戦のレシピはいつも失敗しないかとどきどきなのである。
あらかじめ炊いておいた湿原産の米を木の器に盛り付けると皿に乗せたトンカツを一切れ口へと運ぶ。
米と共に噛み締める揚がった猪肉の旨味はすぐに口内へと広がった。
大蒜醤油の味わい深い風味と肉特有の旨味が合わさり、そこへ揚がった衣の食感が加わり絶妙なハーモニーを奏でる。
声にならない歓喜の声を上げ、ストレガは夢中になってトンカツを食べ進めようとしてふと思いつく。
米に合うのなら……米の上にのせてはどうだろうかと。
彼女は早速実践してみる。
いくつかのトンカツを米の上に乗せてみた。
見たことはないはずなのに、なんだかこれがしっくりくるのである。
続けてソースをかけたトンカツと塩をかけたトンカツをそれぞれ一切れずつ米と共に食べてみた。
どちらも甲乙つけ難く、両者素晴らしいといった味である。
その感想を忘れないうちにと食べながら後に纏める為のメモを傍らに用意してあった紙へと記していく。
「塩はしょっぱさと揚げ物の風味を素直に楽しめる。ソースは味の深みとソースの絡み合いが非常に旨い。どちらが良いかは好みが分かれるところになるだろう、と」
米とトンカツを口内で楽しみながらストレガは思った。
腹持ちの良い米はもっと広く広まるべきだと。
米は油との相性も良い上にどのような食材ともマッチする。合わない食材を探す方が難しい。
自身が記したレポートが多くの者の目に触れ、米を食べるということが様々な人々に知られることになればよいなと彼女は思った。
だが中には読むことが難しいものもいるだろう。そういった者にはどう伝えればいいか。
「そうか……露店、いや移動式の屋台なるものならばどうだろう……それなら多くの人々が美味しさに気づくかもしれんな」
かつて彼女が見た東方の書物の中に移動式の露店ともいえる『屋台』という物があった。
何分昔に見た記述だからかうろ覚えだが……あれならば冒険者として得られる肉や骨も活用できるし料理の技術向上にもなる。
更には食べた者達の素直な意見が聞ける上、種族ごとの味覚の違いに関する知識まで得られるではないかと。
はむはむとトンカツを食べ進めながらストレガは屋台で出す料理を考えていた。
今まで試してきた料理の中からベストと思える編成をしなければならない。
「ふむむ、これは難題なのだ。どれも旨いしお勧めできる……だがそれでは数が多すぎて屋台に収まらない」
いっそ屋台ではなく料理店でもとも考えたが、冒険や研究の傍らにやるには現実的ではない。
それならば気軽に運用できる屋台の方が実に都合がよかった。
「いっそ馬車と組み合わせて詰める量を増やし、日替わりにするのもありかもしれない。ふふ、それも楽しそうなのだ」
できるかどうかはさておいて。
ストレガはそんなことを考えながら、熱々のトンカツを頬張るのであった。