変わらずの先へ

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年01月10日 19時47分56秒

 粉雪が舞い散る季節になった。
 収穫期を過ぎて一面土色になった畑は、やっぱり少し寂しい。
「また来年だね」
 もうすぐ雪が積もり畑全体を真っ白にしてしまうから、この景色もそろそろ見納めだ。
「さてと、早く帰らないと」
 かじかむ指に気合を入れ、水の入ったバケツを二つ持ち上げる。
 家で待つ母が調理の為に使う水だ。早く持って帰ってあげないと、料理が始められない。そうなると腹をすかせた兄弟達に恨みを買ってしまう。
「次の春からはあの子達にも手伝わせないとだね」
 働く者食うべからず。自分達で出来ることはちゃんとやらないと。

「こんな所に居たのか」

「あれ、ニックス。どうしたの?」
 そんな事を思っていたら、幼馴染に声をかけられた。
「親父が呼んでた」
「おじさんが? 何の用なの?」
「さぁ、とりあえず呼んで来いって言われた」
「うーん? わかった、水運び終えたら終わったら行くって言っといて」
「ん」
 
 遠ざかっていく幼馴染の背中を見つめる。
 彼の名前はニックス。この村の長の息子だ。
 うちとは同じ年で、小さい頃からよく一緒に遊んだ腐れ縁。最近は流石に一緒に遊んだりすることはなくなったけど、たまに話をしたりするし仲はまぁ今でも悪くはないかな。
 そして、もう一つ共通点が――。

「さて、さっさと終わらせて向かわなきゃね。おじさん待たせると後が怖いし」
 髭面の村長の顔をもい出し、スフィカは家路を急いだ。

●

「村に授恵者は二人も要らないんだ」

 水汲みを終えて村長の家へと上がったら、開口一番そう言われた。
「へ?」
 一体何の事だと、スフィカは呆気にとられる。
「スフィカ。お前には村を出てもらいたい」
 続く村長の言葉に、スフィカは驚き目を見開いた。

――え? 追放って事? なんで? うち、何か悪いことした?

 一体何を言われているのか、頭がついていかない。
「なっ!? 何の話だよ、親父!!」
 何故だと問いかけようとした言葉は、隣で聞いていたニックスの声で遮られた。
 どうやら彼もこの話は聞かされていなかったようで、随分と動揺している。
「そのままの意味だ。スフィカ、悪いが村を出てくれ。この村に二人も授恵者はいらないんだ」
 村長はもう一度同じ事をいい、スフィカに小さく頭を下げた。
「意味が分からない! なんでスフィカが出ていかないと駄目なんだ!」
 そんな父親にニックスが掴みかかる。
「ちょ、ちょっとニックス! 暴力はダメだって!!」
 強い力で村長を持ち上げそうになるニックスを、スフィカが後ろから抱きかかえて止める。
「おじさん、説明してもらったりはできるよね?」
 ふーふー言ってるニックスを宥めながら、スフィカは村長に問いかけた。
「……授恵者とは、超常の力を行使する存在だ。それがこんな小さな村に二人もいれば必ず災いの種になる」
 スフィカの問いに、村長は何処か苦しそうに話し始める。
「災いの種って……一体何なんだよ!」
 スフィカの背中越しに父親に怒気を強めるニックス。
「強き力を持つ者に、弱き者はすがる。それが一人であれば纏まりもしようが、二人もいれば――」
 じっと息子を見つめ村長はさらに続けた。

「村が二つに分かれるという事だ」

「そ、そんなの! 俺とスフィカがけっ――な、仲良くやってれば問題ないだろ!」
「お前達はそれでいいかもしれない。しかし、周りはそうとは取らない」
 息子が示した解決策を一蹴し、村長はスフィカを見つめる。
「これはこの村のしきたりだ。とは言ってもこんな小さな村に授恵者が二人もいた事など無かったから、はじめて実行されるがな」
 決して本意ではないが。と添えるものの、ニックスの怒りは収まらない。
「意味が解らない! なんで一回も使った事のないしきたりが、今更使われるんだよ! そんなのあってないようなもんだろう!!」
 なおも激しく抗議するニックスを、スフィカは少し引いた所で見つめている。
「それになんで俺に言わない! 俺も授恵者だろ! 俺が村を――」
 そう、スフィカとニックスは共に授恵者だった。

「わからんのか!」

 しつこく言いすがるニックスを一喝し、村長はスフィカとニックスを交互に見る。
「お前が授恵者であろうがなかろうが、この村を纏めていく責務がある! お前が村を出るという事はこの村を解体するという事だ!」
 王国内の小さな村である。それでも長い間先祖代々が守り抜いてきた土地でもある。
 父親の強い言葉に、ニックスは押し黙った。
「おじさん、ちょっと、とーさんとかーさんに相談してきていいかな」
 と、スフィカが少し困ったように、村長に問いかける。
「ダメだ」
 しかし、村長は厳しい口調で拒否した。
「うーん、ダメかぁ。……挨拶くらいはいい?」
 上目遣いに問いかけるスフィカに、村長は小さく頷く。
「親父! なんなんだよ……! なんで相談もできないんだよ!!」
「ニックス、お前は黙っていろ」
 あまりに一方的な物言いに、スフィカではなくニックスが食って掛かるが。
「仕方がないかな。うん、わかった。うち、村を出るよ!」
 そんなニックスが拍子抜けするほど明るく、スフィカは承諾した。
「ま、待てよ、スフィカ! こんな馬鹿みたいな話受けるのか?!」
「うーん、仕方なさそうな話だしね?」
「だしね? じゃない!」
 そんなスフィカの両肩を掴み、ニックスは声を荒げる。
「まぁまぁ、落ち着きなよ」
 肩に置かれたニックスの両手に自分の手を添えながら、スフィカはニコリと微笑む。
「どうせそろそろ嫁に出される歳だしね、丁度良かったのかも」
 すでに嫁いでいった一番上の姉は、今のうちと同じ歳に家を出た。
 順番的にいって、次は自分の番だ。
「弟も妹ももうお手伝いできる歳になったし、うちがいなくてもなんとかなるよ」
「お、お前はそれでいいのか……?」
「いいのかって、何が?」
 肩を震わせるニックスが問いかけてくる。
「無理やり村を追い出される事だよ!」
「追い出されるんじゃないって、出ていくんだよ」
 悲壮感の漂う幼馴染に、スフィカは明るい笑顔を向けた。

「すまないな、スフィカ」
「いーのいーの、気にしないで! それより、村長さんも大変だね。こんな指示するの嫌だったでしょう」
「……すまん」
 にひひと笑うスフィカに、村長は深く頭を下げた。

●
 村長の家を後にしたスフィカは、村の通りをゆっくりと歩いていた。
「でも、どうしようかな。なんて言って出よう」
 唇に人差し指を添え、首をひねるスフィカ。
「相談もできないって、理不尽過ぎだろう!」
 なぜかついてきたニックスが尚もぷりぷりと怒っていた。
「まぁ、相談したらきっと止められるだろうしね。村長さんもそれをわかってて相談するなって言ったんだと思うよ? ――で、ニックスは何でついてきてるの?」
「べ、別にいいだろ、どこに行こうが俺の勝手だ!」
「うーん、まぁそうなんだけどさ」
 妙に慌てる幼馴染に首をかしげながら、スフィカは見えてきた実家を眺める。
「そういうんじゃなくて、うちの方からズバッと出ていく理由を考えないとなんだよね」
「やっぱり出ていくのか……?」
「出ていくよ。さっきも言われたでしょ、おじさんに」
「待てよっ! そ、その……俺はお前さえよければ」
「もぉ、なんなんだよ。男ならはっきり言いなさいよ」
 女々しくもじもじと呟いている幼馴染に、スフィカは顔をしかめる。
「よ……」
「よ?」

「よ、嫁に来いって言ってるんだよ!」

 顔を真っ赤にして叫んだものだから驚いてしまった。
「もぉ……だから、それじゃダメでしょ?」
 だけど、そういう問題じゃない。スフィカはニックスに諭すように話しかける。
「なんでだよ……!」
「なんでだよって、そんなことしたら村から授恵者減らないよ」
「うぐっ……」
「なら俺も出る! とか言わないでよ? さっきおじさんにさんざん言われたでしょ」
「ぐぐぐ……」
 歯を食いしばる幼馴染を見てスフィカは苦笑した。
「でも、どうしようかなほんとに。授恵者だから力仕事とかはできるかな。後料理もわりと得意なんだけど、どこかで雇ってもらえるかな。村を出た事があんまりないからちょっと不安だなぁ」
 少し後ろを歩く幼馴染にも聞こえる様に、スフィカは独り言を言う。
「とりあえず、一番近い大きな街にでも行ってみようかな。大きかったら住込みで仕事とかもあるよね」

「冒険者はどうなんだ」

 そんな事を考えていると、後ろでニックスの声がした。
「冒険者?」
 なんとなくその言葉が気になって、スフィカは振り向いて聞いてみる。
「授恵者の多くは冒険者になるって聞いた。稼ぎもいいって」
「ほー、そうなんだ。稼ぎもいいのか。でも、冒険者かぁ。うちに出来るのかな。戦いなんてやったことないんだけど」
「そうだよな。お前みたいなとろい奴が冒険者なんてできるわけないよな」
「うっわ、うちよりとろい人に言われた!」
「な、なんだとっ!?」
 なんだか懐かしいやり取りに、お互い顔を見合わせたままぷはっと吹き出してしまった。
「あはは……でも、いいね。冒険者」
「そうか?」
「うん。出ていく立派な理由になるよ」
「あ……」
 ニックスが口を開けたまま固まる。自分が最後の一押しをしてしまったと気づいたのだろう。
「よーし、うちは冒険者になるぞー! 都会に出て冒険者になってじゃんじゃん稼いで好きなものいーっぱい買って美味しいもの沢山食べて、ちょっぴり仕送りもするぞー!」
 おー! っと拳を天高く振り上げるスフィカ。
「スフィカ……」
「ニックス、ありがとね。さっきは嫁に来いって言ってくれて。冗談でも嬉しかったよ」
「……あ、ああ」
 伸ばしかけた手を力なく下ろし、ニックスは小さく頷いた。
「そうと決まれば善は急げだ! ニックス、またね!」
 そう言うとスフィカは、立ち尽くすニックスを置いて、晴れやかな気分と共に家路を急いだのだった――。

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