バンビの年の瀬
キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2021年01月09日 19時02分42秒
バンビは冬毛の生えるゴブリンだ。
――……バンビちゃんどゆ事?
と思ったそこの貴方の為に説明すると、その言葉の通り、羊や犬猫などのようにバンビはモコモコと体毛が生えて来る体質なのである。
だもんだから、それこそ一晩のうちに大陸に名高き古の赤き聖人ム・クや、森の光の弩弓使いチュ=バッカもかくやの如きフサフサ感となる。
相も変わらず携帯式のマイハウスの中でぐっすりと寝ていたゴブリナ少女であったが、今日も今日とて夜の間ににょきにょきと金色の体毛が伸びてきて、一晩明けたらヨークシャーテリアのようにモフモフになっていた。
さんさんと輝く朝陽と共に目を覚ました金色のけむくじゃらバンビは、ちっちゃなマイハウスからのそのそと這い出て来て伸びをする。
すると、
「こ、これは妖怪けうけげん!」
「ゴブリナですわ」
「しゃ・べっ・たぁああああああああ!!」
通りすがりの眼鏡をかけた子供に驚愕を叫ばれ逃げられてゆく。
このヴィジュアルはこれはこれでカワイクない? と余人の中には思う者もいるかもしれないが、妖怪に間違われるのは流石に都市社会生活において勝手が悪そうだ。
「この美少女を前に逃げる事はないだろうぜ」
へっ、と素の口の悪さを発揮して悪態をつく。
やはり先程のヒューマンはまだまだお子様だったのだろう、美少女よりも小型狩猟犬よりもけうけげんなのだ、けうけげん、ちんまい男の子の価値基準なんてそんなもんだ。
別にちょっぴり傷ついた訳でもないのだが、バンビは自他共に認める美少女、身だしなみには拘りというものがある。
そんな訳でマジカルポケットから置き鏡と櫛とハサミを取り出した。
曇り気味の安っぽい鏡の前に座る。
櫛で長い毛を梳かしつつ、ハサミを入れてジョキジョキと切り整えていく。
ハラハラと金色の毛が地に落ちた。
ちなみにこの作業、なかなか大変である。
普通のヒューマンの男女がヒゲやらムダ毛やらの処理をするだけでもそれなりの労力がかかるのに、バンビは全身から毛がフッサフサな訳であるから、これはもう一大仕事であった。
その為、丁寧にやるのは顔周りのみにするなど、集中による効率化をはかったりなどもしているのだが、それでも毎朝一刻ほどは時間がかかってしまう。
淑女のヘアーセットは大変なのだ。
行きつけの喫茶店には体毛を梳いてくれる友人もいるにはいるのだが、毎日お願いするわけにもいかないので、結局、ほとんどは自分でやっていた。
どうにかこうにか本日も毛づくろいが済んだので、マジカルポケットにハウスと櫛セットをしまい、さぁいつものハイスピードキャスターの日課たる朝の走り込み――を始めようとした所でバンビの前に人相の悪い男達が立ちはだかった。
今の季節は年末、年の瀬。
瀬というのは、川の中で浅く流れの速い場所をいう。そういう場所は航行が難しく、古来よりしばしば船が沈んだ。
年末には色々なものの清算があったから、しばしばヒューマンは人生という名の川を渡り切れず、沈んだ。
故に言う、年の瀬、と。
「よぉバンビちゃん」
「今日という今日は」
「払って貰おう」
「きっちりと」
四人の男達が代わる代わるに一言づつ述べ、
「「「「――借りたもんは返さなくちゃあいけねぇなぁっ?!」」」」
そう、彼等は借金取りであった。
バンビはじり、と後退った。
言うまでもなくバンビが悪い。
お金は借りたら返しましょう、当然の事である。
が、しかし、無い袖はふれないのもまた事実。
払えないものは払えないのだから、どうにかお引き取り願っていただくしかないのだが、彼等とて餓鬼の使いではない。
払えません、はいそうですか、と帰ってはくれない。
となると、お引き取り願うには力づくでやるくらいしかないのだが、相手は盗賊ではなくまっとうな債権者、それをやったら道理が通らないし、バンビの方こそが犯罪者になる訳で、ぶっ飛ばしてしまう訳にはいかない。
バンビは少し考えてから小首を傾げて尋ねる。
「……一応、お尋ねするのですけども、ちょっと今、持ち合わせがないのですわ。次の盆までお待ちいただくという事は――」
すると男達は言葉を皆まで言い終える前に顔にサッと赤みを走らせて激昂した。
「あぁん?!」
「舐めた事ぬかすな暗黒頭巾!」
「通るかッ! そんなもんッ!!」
「金も売れるモンもないならぁテメェの身体で払いやがれッ!!」
まぁ、そうなりますよねーという反応だった。
「なるほど、では仕方ないですわ。今年のオレはこれにて店仕舞い、皆様良いお年をっ!」
バンビは両手を顔の横で左右にバイバイッと振ると、くるっと踵を返し、ぴゅーっと駆け出した。
「あっ!」
「てめっ!」
「待ちやがれ!」
「逃がすな追え追えーっ!!」
四人の強面の男達もまたバンビの後を追い猛然と駆け出す。
バンビは授恵者でかつ鍛え込んでいるので小柄だったが足が速い。だがんなこたぁー当然、金貸し連中とてわかっているので、追っ手側もまた俊足を揃えてきた。100mを8.33秒で駆け抜けるバンビにしっかりと喰らいついて来る、というか向こうの方が速い、じりじりとだが徐々に距離が詰まって来ている。あっちも授恵者か。
バンビも軽量ならさらなる速度が出るのだが、今は装備をなんやかんや身に着けていたのでMAXスピードが出ていなかった。
(くっ、これは厄介な)
ゴブリン美少女は黒ローブをはためかせながら年の瀬の街中を駆け抜ける。
しかし、彼女にはまだこの時点では余裕があった。
進路の選択権は後ろから追う側ではなく、前方を逃げる側にある。
彼女は今、いつもの走り込みコースに沿って街を駆けていた。
もう少し行けば後続を振り切るに適した地形に出られる――筈だった。
ピー!
突然、甲高い音が鳴り響く。後方の一人が笛を鳴らし始めていた。
進路上、借金取りの仲間らしき複数人の男達が物陰から現れる。両手を広げて立ち塞がる。
「「「こいやぁっ!」」」
「げげっ!」
これは突っ込む訳にもいかない。バンビは進路を急変更し四つ角を左へと曲がる。
普段から根城にしている街、一応土地勘はある。そしてバンビは借金取りに追われる身ながらもインテリゲンツァ、学があった。
彼女の知力は己が今、進路を制御されての追い込みをかけられているのだと気づかせた。
きっと、あちこちに進路妨害者がいるに違いない。
やがて相手方に有利な袋小路などに追い込まれ、捕まえられてしまうのは明白だった。
このままでは不味い。
「はははー!」
「諦めろー!」
「諦めろー!」
「新年会でお酌しろー!」
どうやら捕まえられたら強制的にオッサン達の新年会でお酌するハメになるらしい。それは避けたい所だったが、しかしジリジリと借金取り達が距離を詰めて来る。
「嫌ですわー!」
バンビは息を切らしながら拒絶を叫び、必死に街中を駆けた。
結構、いろんな時にはバンビの手助けをしてくれる街の人もいるのだが、こういう時は誰も助けてくれない。おのれ憎むべきは小鬼差別――という訳では勿論なく、例えバンビがヒューマンでも助けてはくれないだろう。街の皆さんも生活があるので、債務者と債権者の年の瀬の攻防には手を出さないのが暗黙の了解であった。
バンビちゃん危うし!
このまま捕まえられて年明けは、オッサンどもの新年会に強制出席させられてしまうハメになるのだろうか――?!
――……バンビちゃんどゆ事?
と思ったそこの貴方の為に説明すると、その言葉の通り、羊や犬猫などのようにバンビはモコモコと体毛が生えて来る体質なのである。
だもんだから、それこそ一晩のうちに大陸に名高き古の赤き聖人ム・クや、森の光の弩弓使いチュ=バッカもかくやの如きフサフサ感となる。
相も変わらず携帯式のマイハウスの中でぐっすりと寝ていたゴブリナ少女であったが、今日も今日とて夜の間ににょきにょきと金色の体毛が伸びてきて、一晩明けたらヨークシャーテリアのようにモフモフになっていた。
さんさんと輝く朝陽と共に目を覚ました金色のけむくじゃらバンビは、ちっちゃなマイハウスからのそのそと這い出て来て伸びをする。
すると、
「こ、これは妖怪けうけげん!」
「ゴブリナですわ」
「しゃ・べっ・たぁああああああああ!!」
通りすがりの眼鏡をかけた子供に驚愕を叫ばれ逃げられてゆく。
このヴィジュアルはこれはこれでカワイクない? と余人の中には思う者もいるかもしれないが、妖怪に間違われるのは流石に都市社会生活において勝手が悪そうだ。
「この美少女を前に逃げる事はないだろうぜ」
へっ、と素の口の悪さを発揮して悪態をつく。
やはり先程のヒューマンはまだまだお子様だったのだろう、美少女よりも小型狩猟犬よりもけうけげんなのだ、けうけげん、ちんまい男の子の価値基準なんてそんなもんだ。
別にちょっぴり傷ついた訳でもないのだが、バンビは自他共に認める美少女、身だしなみには拘りというものがある。
そんな訳でマジカルポケットから置き鏡と櫛とハサミを取り出した。
曇り気味の安っぽい鏡の前に座る。
櫛で長い毛を梳かしつつ、ハサミを入れてジョキジョキと切り整えていく。
ハラハラと金色の毛が地に落ちた。
ちなみにこの作業、なかなか大変である。
普通のヒューマンの男女がヒゲやらムダ毛やらの処理をするだけでもそれなりの労力がかかるのに、バンビは全身から毛がフッサフサな訳であるから、これはもう一大仕事であった。
その為、丁寧にやるのは顔周りのみにするなど、集中による効率化をはかったりなどもしているのだが、それでも毎朝一刻ほどは時間がかかってしまう。
淑女のヘアーセットは大変なのだ。
行きつけの喫茶店には体毛を梳いてくれる友人もいるにはいるのだが、毎日お願いするわけにもいかないので、結局、ほとんどは自分でやっていた。
どうにかこうにか本日も毛づくろいが済んだので、マジカルポケットにハウスと櫛セットをしまい、さぁいつものハイスピードキャスターの日課たる朝の走り込み――を始めようとした所でバンビの前に人相の悪い男達が立ちはだかった。
今の季節は年末、年の瀬。
瀬というのは、川の中で浅く流れの速い場所をいう。そういう場所は航行が難しく、古来よりしばしば船が沈んだ。
年末には色々なものの清算があったから、しばしばヒューマンは人生という名の川を渡り切れず、沈んだ。
故に言う、年の瀬、と。
「よぉバンビちゃん」
「今日という今日は」
「払って貰おう」
「きっちりと」
四人の男達が代わる代わるに一言づつ述べ、
「「「「――借りたもんは返さなくちゃあいけねぇなぁっ?!」」」」
そう、彼等は借金取りであった。
バンビはじり、と後退った。
言うまでもなくバンビが悪い。
お金は借りたら返しましょう、当然の事である。
が、しかし、無い袖はふれないのもまた事実。
払えないものは払えないのだから、どうにかお引き取り願っていただくしかないのだが、彼等とて餓鬼の使いではない。
払えません、はいそうですか、と帰ってはくれない。
となると、お引き取り願うには力づくでやるくらいしかないのだが、相手は盗賊ではなくまっとうな債権者、それをやったら道理が通らないし、バンビの方こそが犯罪者になる訳で、ぶっ飛ばしてしまう訳にはいかない。
バンビは少し考えてから小首を傾げて尋ねる。
「……一応、お尋ねするのですけども、ちょっと今、持ち合わせがないのですわ。次の盆までお待ちいただくという事は――」
すると男達は言葉を皆まで言い終える前に顔にサッと赤みを走らせて激昂した。
「あぁん?!」
「舐めた事ぬかすな暗黒頭巾!」
「通るかッ! そんなもんッ!!」
「金も売れるモンもないならぁテメェの身体で払いやがれッ!!」
まぁ、そうなりますよねーという反応だった。
「なるほど、では仕方ないですわ。今年のオレはこれにて店仕舞い、皆様良いお年をっ!」
バンビは両手を顔の横で左右にバイバイッと振ると、くるっと踵を返し、ぴゅーっと駆け出した。
「あっ!」
「てめっ!」
「待ちやがれ!」
「逃がすな追え追えーっ!!」
四人の強面の男達もまたバンビの後を追い猛然と駆け出す。
バンビは授恵者でかつ鍛え込んでいるので小柄だったが足が速い。だがんなこたぁー当然、金貸し連中とてわかっているので、追っ手側もまた俊足を揃えてきた。100mを8.33秒で駆け抜けるバンビにしっかりと喰らいついて来る、というか向こうの方が速い、じりじりとだが徐々に距離が詰まって来ている。あっちも授恵者か。
バンビも軽量ならさらなる速度が出るのだが、今は装備をなんやかんや身に着けていたのでMAXスピードが出ていなかった。
(くっ、これは厄介な)
ゴブリン美少女は黒ローブをはためかせながら年の瀬の街中を駆け抜ける。
しかし、彼女にはまだこの時点では余裕があった。
進路の選択権は後ろから追う側ではなく、前方を逃げる側にある。
彼女は今、いつもの走り込みコースに沿って街を駆けていた。
もう少し行けば後続を振り切るに適した地形に出られる――筈だった。
ピー!
突然、甲高い音が鳴り響く。後方の一人が笛を鳴らし始めていた。
進路上、借金取りの仲間らしき複数人の男達が物陰から現れる。両手を広げて立ち塞がる。
「「「こいやぁっ!」」」
「げげっ!」
これは突っ込む訳にもいかない。バンビは進路を急変更し四つ角を左へと曲がる。
普段から根城にしている街、一応土地勘はある。そしてバンビは借金取りに追われる身ながらもインテリゲンツァ、学があった。
彼女の知力は己が今、進路を制御されての追い込みをかけられているのだと気づかせた。
きっと、あちこちに進路妨害者がいるに違いない。
やがて相手方に有利な袋小路などに追い込まれ、捕まえられてしまうのは明白だった。
このままでは不味い。
「はははー!」
「諦めろー!」
「諦めろー!」
「新年会でお酌しろー!」
どうやら捕まえられたら強制的にオッサン達の新年会でお酌するハメになるらしい。それは避けたい所だったが、しかしジリジリと借金取り達が距離を詰めて来る。
「嫌ですわー!」
バンビは息を切らしながら拒絶を叫び、必死に街中を駆けた。
結構、いろんな時にはバンビの手助けをしてくれる街の人もいるのだが、こういう時は誰も助けてくれない。おのれ憎むべきは小鬼差別――という訳では勿論なく、例えバンビがヒューマンでも助けてはくれないだろう。街の皆さんも生活があるので、債務者と債権者の年の瀬の攻防には手を出さないのが暗黙の了解であった。
バンビちゃん危うし!
このまま捕まえられて年明けは、オッサンどもの新年会に強制出席させられてしまうハメになるのだろうか――?!