【獗烙】黄ノ中指、文官ト研究者ヲ登用ス
キャラクターノベル制作 広大野人納品 2024年05月19日 15時11分46秒
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121X年メドゥの指先『黄の中指』ジード・ランスウッドは組織を立ち上げる為の人材を探していた。
王国貴族や文官のみならず、その家族や親族、交友関係まで調べ上げて該当するかどうか確認し、必要であれば直接、赴く事もあった。
今日、足を運んだのは王国の外殻機関の一つ。
領地経営に活かす為の視察という名目で動けるのは、ジード・ランスウッドがジド・ケルジアという貴族の顔を持っているからだ。
「……このように、書類はまず適切に分類しています。一見、手間が掛かるようですが、しっかりとした役割分担と責任の所在を明確にする事で、進捗状況の確認にもなります」
説明しているのは学者帽のようなものを被っている若い文官――ユーゲン・フォリング――だった。
彼の本家はそこそこ有名な貴族ではあるが、彼自身は分家であり、その中でもかなりの下位に在る事をジードは事前に調べ上げていた。
ジードは書類の左上に記載されている記号と番号を指さす。
「この文字列が、分類を示しているのか?」
「その通りです。記号と数字による組み合わせで書類を分けています。また、こちらの表をご覧ください」
「……ほう。書類の流れを示しているのか」
どの書類がどのような処理を誰が行い、更には決裁後の手順、保管場所まで描かれていた。
これなら、決裁者の承認漏れや記録を再確認する際の効率化にも繋がる。
ユーゲンは他にも幾つかの帳票類を並べた。様式を統一する事により、確認ミスを防ぎ、見やすくする意味もあるのだろう。
満足そうにジードは頷いた。
「素晴らしい仕組みだ。これを王国の基準にし、各貴族にも徹底する事で人材の共有や教育の効率化に貢献できるだろう」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「しかし、君は分かっているのだろう? この仕組みの問題点が」
その言葉に書類をまとめようとした文官の手が止まった。
優れた仕組みは、いつも歓迎されるとは限らないものだ。書類とその流れが厳格であればあるほど、それでは困る人達がいるのだから。
「はい……。その為、今はもっと使いやすいように改良中です」
つまり、一見、正しいが不正が明らかにならないような抜け道のある仕組み。それを彼は強く求められているのだ。本家だけではなく他の分家や、親族にさえも。
この若い文官が優秀だからこそ、過度に『期待』されている。そこにユーゲンという『個』は無い。
自分達にとって都合の良い事を実現させる為の道具である事を強要されていたのだろう。
「……君はそれで良いと思うのか?」
「お許し下さい。僕には……特に、何も……」
伏せた顔に浮かぶ虚無の表情。
ジードはまとめかけの書類の束を手に取る。
「我が目には、そのように映らないぞ。ユーゲン、君にはあるべき社会の形が見えているはずだ」
「何故、そのように?」
若い文官の返しにジードは書類の束を渡しつつ、堂々と答えた。
「業務の流れを誰にでも分かるように整える……つまり、辿り着く究極の意味は、誰にでも出来るという事だ。君は自分でなくても誰にでも出来る社会を望んでいるのではないのか?」
――過度な期待から逃れる為に。とは続けなかったけれど。
若い文官は固唾を飲んだ。これまで出逢った沢山の人達の中で、ここまで踏み込んで指摘した人は居なかったからだ。
「例え願ったとしても、僕では何も変える事が出来ませんので」
頭を下げた彼の肩にジードが手を置いた。
「我が変えよう。君が望む在り方に成るように」
「ケルジア卿?」
「既存の形を壊し、新たに作り直す。君なら我が言葉の意味を理解できるはずだ」
ジードの台詞を心の中で繰り返す若い文官。
この国の在り方を変える……それはつまり、改革……いや、革命だ。国に仕える者の禁忌。罪の内容によっては極刑だ。それも自分だけではなく本家も巻き込む程の。
脳裏に浮かんだのは、これまで自身を囲んでいた連中の、二度と見たくない顔だった。
どちらに転んでも一矢報いる事が出来ると、彼はそんな計算をする。革命が成功すればそれで良し。出来なくて反逆罪で捕まっても、あの連中を巻き添えに出来る。ちょうど良い復讐になる。
そういう意味では『死に体』だ。だからこそ、覚悟を決めた若い文官は膝を着き、深く頭を下げた。
「ケルジア卿。僕に出来る事はありますか?」
「我が手を取れ、ユーゲン。そして、君が成すべき事は君自身が選べ。それが出来る舞台を我が用意する故に」
差し出されたジードの手を若い文官は取った。引き返す事が決して出来ない道を選んだ彼は、その後、組織で、幹部としての役割を務める事になる。
冒険者達によって、ジードの野望が潰えるその日まで。
●
植物は正直だ。
水やりしなければ枯れる。適切な肥料を投入すれば、たわわな実が生る。
だから、土いじりは嫌いではなかった。逆に、今は人間と会うのが嫌だった。
「君がトレイシーか? 研究者と聞いていたが……」
覇気がある。けれど、歳を感じる声に研究者――トレイシー――は振り返った。
そこには隠居した貴族の爺が居た。見た事の無い顔だが、良い身なりをしている。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
眼鏡の位置を直しながら研究者は告げて作業に戻る。
その様子に爺は何かを考えながらも適当な場所に、汚れも気にせず座った。
「許可は貰っている。だが、君の都合についてまでは取れなくてな。君の作業が終わるまでここで待たせて貰うぞ」
「お好きにどうぞ」
研究者の素っ気ない言葉にジードは頷いた。
ジードにとってみれば、トレイシーという人物の発見は僥倖だった。
組織の立ち上げでもっとも悩んでいるのは神実の扱いだ。ジード自身、研究は出来る。しかし、そこに費やす時間が無い。
となると、その手の専門家に任せるしかないのだが、誰でも良いという訳にもいかない。ジードが行おうとする事を考えれば、当然の事だ。
だから、ジードは探していた。該当する人物を。
「お疲れ様だ。飲むかね」
数刻が経過し、真っ赤な夕陽が周囲を照らしていた。
農作業を終えた研究者にジードは水筒を投げ渡す。
「あんた、変わり者ね。ずっと待ってるなんて」
「慣れたものだ」
「そう。まぁ、知らない人から施しは受けないわ」
受け取った水筒をそのまま返す研究者。
何が入っているか分からない物を考え無しで飲む程、世の中を知らぬ人間ではない。
「なら、我が貰うぞ」
ジードは返された水筒を開けてぐびぐびと飲む。
もちろん、何かを仕組むつもりなんて無い。ただ、トレイシーの身辺を調べた内容が正しいか確認する為に必要な事だった。
「それで、私に何の用なの?」
「ふむ……単刀直入が分かりやすかろう。日が暮れるまで時間もないからな」
そう告げて、ジードは神実を懐から出すと、彼女にそれを見せた。
「これを『解析』したい」
「それは渡してくれないのね。頼む相手だとしても信用できないと」
返された言葉にジードはニヤリと口元を緩めた。
「その程度の下らぬ理由なら良かったが……これは、危険な代物だ。触っても安全という確信も無い」
「なんなの、その実は?」
「神に至る事が出来る……と、これを我に授けた御方は言っていた。それ以上の事は分からない」
真剣な眼差しを神実に向けるジード。
その口ぶりから嘘は言っていないとトレイシーは感じた。けれど、神に至る事が出来る実という存在は疑わしい。
「あんた、神になりたいの?」
「求められれば神にでもなろう。しかし、我が目指すものはそこではない……我が目指すのは、力ある者がその力を活かせる世界だ。例えば、研究成果を横取りされた優秀な研究者が、一つの国の在り方さえ変えてしまう事が出来るように、な」
ジードの視線は神実からトレイシーに向いていた。
研究者は改めて眼鏡の位置を直し、大きくため息をついた。自分の事は調べ済みで何かの悪事に加担させようとしていると認識したからだ。
「他所に当たって。その神実には興味があるけど、私は誰も信用していないの」
神実を研究し、成果を得ても、また利用されるだけだ。そんな事よりも植物の世話をしていた方が、まだ何倍もマシだ。
けれど、ジードは退かなかった。
「我は、君の研究者としての能力を信用している。君ならば、神実を『解析』出来るだろう。その結果、誰かが神に至ったり、あるいは、この国が変わるような事になれば、それは君の成果だ。誰のものでもない」
「私は何を信用しろと?」
「少なくとも目に見えるものは信用できるのだろう。ならば、我が成す事を見ていれば良い」
ジードがマジックポケットから取り出したのは、ずしりとした袋。それを研究者は受け取った。怪訝な表情を浮かべる彼女にジードは告げる。
「我と共に来るのなら、待遇は保障する。研究設備も君が思うままに作ってしまって構わない。その袋のものはそれを叶える為のものだ。君の自由にしたまえ」
袋の口を少し開けたトレイシーは驚いた。
宝石の類がぎっしりと入っていたからだ。通貨に換算したら、とんでもない額になるのは間違いない。
「……私がこれを持ち逃げするかもしれないよ?」
「言ったであろう。研究者としての能力を信用していると。それに君は逃れられない。この神実から」
正体不明の実を再度、見せられて、研究者は袋を持つ手に力を込めた。
相手は信用の担保を提示したのだ。だとすれば、対価として神実の『解析』を受けるべきだと。
「その通りよ……この話、受けるわ。そういえば、まだ名前を伺ってなかったかしら?」
「ジード・ランスウッドだ」
差し出された手を研究者は握った。
「よろしく、ジードさん。いや、ジード様かな」
その後、トレイシーは神実を『解析』し、様々な効能を見つけ、研究者としての実力を示す事になる。
紆余曲折の末、組織を抜ける事になるが、その『対価』を彼女は忘れる事は無かったという。
121X年メドゥの指先『黄の中指』ジード・ランスウッドは組織を立ち上げる為の人材を探していた。
王国貴族や文官のみならず、その家族や親族、交友関係まで調べ上げて該当するかどうか確認し、必要であれば直接、赴く事もあった。
今日、足を運んだのは王国の外殻機関の一つ。
領地経営に活かす為の視察という名目で動けるのは、ジード・ランスウッドがジド・ケルジアという貴族の顔を持っているからだ。
「……このように、書類はまず適切に分類しています。一見、手間が掛かるようですが、しっかりとした役割分担と責任の所在を明確にする事で、進捗状況の確認にもなります」
説明しているのは学者帽のようなものを被っている若い文官――ユーゲン・フォリング――だった。
彼の本家はそこそこ有名な貴族ではあるが、彼自身は分家であり、その中でもかなりの下位に在る事をジードは事前に調べ上げていた。
ジードは書類の左上に記載されている記号と番号を指さす。
「この文字列が、分類を示しているのか?」
「その通りです。記号と数字による組み合わせで書類を分けています。また、こちらの表をご覧ください」
「……ほう。書類の流れを示しているのか」
どの書類がどのような処理を誰が行い、更には決裁後の手順、保管場所まで描かれていた。
これなら、決裁者の承認漏れや記録を再確認する際の効率化にも繋がる。
ユーゲンは他にも幾つかの帳票類を並べた。様式を統一する事により、確認ミスを防ぎ、見やすくする意味もあるのだろう。
満足そうにジードは頷いた。
「素晴らしい仕組みだ。これを王国の基準にし、各貴族にも徹底する事で人材の共有や教育の効率化に貢献できるだろう」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「しかし、君は分かっているのだろう? この仕組みの問題点が」
その言葉に書類をまとめようとした文官の手が止まった。
優れた仕組みは、いつも歓迎されるとは限らないものだ。書類とその流れが厳格であればあるほど、それでは困る人達がいるのだから。
「はい……。その為、今はもっと使いやすいように改良中です」
つまり、一見、正しいが不正が明らかにならないような抜け道のある仕組み。それを彼は強く求められているのだ。本家だけではなく他の分家や、親族にさえも。
この若い文官が優秀だからこそ、過度に『期待』されている。そこにユーゲンという『個』は無い。
自分達にとって都合の良い事を実現させる為の道具である事を強要されていたのだろう。
「……君はそれで良いと思うのか?」
「お許し下さい。僕には……特に、何も……」
伏せた顔に浮かぶ虚無の表情。
ジードはまとめかけの書類の束を手に取る。
「我が目には、そのように映らないぞ。ユーゲン、君にはあるべき社会の形が見えているはずだ」
「何故、そのように?」
若い文官の返しにジードは書類の束を渡しつつ、堂々と答えた。
「業務の流れを誰にでも分かるように整える……つまり、辿り着く究極の意味は、誰にでも出来るという事だ。君は自分でなくても誰にでも出来る社会を望んでいるのではないのか?」
――過度な期待から逃れる為に。とは続けなかったけれど。
若い文官は固唾を飲んだ。これまで出逢った沢山の人達の中で、ここまで踏み込んで指摘した人は居なかったからだ。
「例え願ったとしても、僕では何も変える事が出来ませんので」
頭を下げた彼の肩にジードが手を置いた。
「我が変えよう。君が望む在り方に成るように」
「ケルジア卿?」
「既存の形を壊し、新たに作り直す。君なら我が言葉の意味を理解できるはずだ」
ジードの台詞を心の中で繰り返す若い文官。
この国の在り方を変える……それはつまり、改革……いや、革命だ。国に仕える者の禁忌。罪の内容によっては極刑だ。それも自分だけではなく本家も巻き込む程の。
脳裏に浮かんだのは、これまで自身を囲んでいた連中の、二度と見たくない顔だった。
どちらに転んでも一矢報いる事が出来ると、彼はそんな計算をする。革命が成功すればそれで良し。出来なくて反逆罪で捕まっても、あの連中を巻き添えに出来る。ちょうど良い復讐になる。
そういう意味では『死に体』だ。だからこそ、覚悟を決めた若い文官は膝を着き、深く頭を下げた。
「ケルジア卿。僕に出来る事はありますか?」
「我が手を取れ、ユーゲン。そして、君が成すべき事は君自身が選べ。それが出来る舞台を我が用意する故に」
差し出されたジードの手を若い文官は取った。引き返す事が決して出来ない道を選んだ彼は、その後、組織で、幹部としての役割を務める事になる。
冒険者達によって、ジードの野望が潰えるその日まで。
●
植物は正直だ。
水やりしなければ枯れる。適切な肥料を投入すれば、たわわな実が生る。
だから、土いじりは嫌いではなかった。逆に、今は人間と会うのが嫌だった。
「君がトレイシーか? 研究者と聞いていたが……」
覇気がある。けれど、歳を感じる声に研究者――トレイシー――は振り返った。
そこには隠居した貴族の爺が居た。見た事の無い顔だが、良い身なりをしている。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
眼鏡の位置を直しながら研究者は告げて作業に戻る。
その様子に爺は何かを考えながらも適当な場所に、汚れも気にせず座った。
「許可は貰っている。だが、君の都合についてまでは取れなくてな。君の作業が終わるまでここで待たせて貰うぞ」
「お好きにどうぞ」
研究者の素っ気ない言葉にジードは頷いた。
ジードにとってみれば、トレイシーという人物の発見は僥倖だった。
組織の立ち上げでもっとも悩んでいるのは神実の扱いだ。ジード自身、研究は出来る。しかし、そこに費やす時間が無い。
となると、その手の専門家に任せるしかないのだが、誰でも良いという訳にもいかない。ジードが行おうとする事を考えれば、当然の事だ。
だから、ジードは探していた。該当する人物を。
「お疲れ様だ。飲むかね」
数刻が経過し、真っ赤な夕陽が周囲を照らしていた。
農作業を終えた研究者にジードは水筒を投げ渡す。
「あんた、変わり者ね。ずっと待ってるなんて」
「慣れたものだ」
「そう。まぁ、知らない人から施しは受けないわ」
受け取った水筒をそのまま返す研究者。
何が入っているか分からない物を考え無しで飲む程、世の中を知らぬ人間ではない。
「なら、我が貰うぞ」
ジードは返された水筒を開けてぐびぐびと飲む。
もちろん、何かを仕組むつもりなんて無い。ただ、トレイシーの身辺を調べた内容が正しいか確認する為に必要な事だった。
「それで、私に何の用なの?」
「ふむ……単刀直入が分かりやすかろう。日が暮れるまで時間もないからな」
そう告げて、ジードは神実を懐から出すと、彼女にそれを見せた。
「これを『解析』したい」
「それは渡してくれないのね。頼む相手だとしても信用できないと」
返された言葉にジードはニヤリと口元を緩めた。
「その程度の下らぬ理由なら良かったが……これは、危険な代物だ。触っても安全という確信も無い」
「なんなの、その実は?」
「神に至る事が出来る……と、これを我に授けた御方は言っていた。それ以上の事は分からない」
真剣な眼差しを神実に向けるジード。
その口ぶりから嘘は言っていないとトレイシーは感じた。けれど、神に至る事が出来る実という存在は疑わしい。
「あんた、神になりたいの?」
「求められれば神にでもなろう。しかし、我が目指すものはそこではない……我が目指すのは、力ある者がその力を活かせる世界だ。例えば、研究成果を横取りされた優秀な研究者が、一つの国の在り方さえ変えてしまう事が出来るように、な」
ジードの視線は神実からトレイシーに向いていた。
研究者は改めて眼鏡の位置を直し、大きくため息をついた。自分の事は調べ済みで何かの悪事に加担させようとしていると認識したからだ。
「他所に当たって。その神実には興味があるけど、私は誰も信用していないの」
神実を研究し、成果を得ても、また利用されるだけだ。そんな事よりも植物の世話をしていた方が、まだ何倍もマシだ。
けれど、ジードは退かなかった。
「我は、君の研究者としての能力を信用している。君ならば、神実を『解析』出来るだろう。その結果、誰かが神に至ったり、あるいは、この国が変わるような事になれば、それは君の成果だ。誰のものでもない」
「私は何を信用しろと?」
「少なくとも目に見えるものは信用できるのだろう。ならば、我が成す事を見ていれば良い」
ジードがマジックポケットから取り出したのは、ずしりとした袋。それを研究者は受け取った。怪訝な表情を浮かべる彼女にジードは告げる。
「我と共に来るのなら、待遇は保障する。研究設備も君が思うままに作ってしまって構わない。その袋のものはそれを叶える為のものだ。君の自由にしたまえ」
袋の口を少し開けたトレイシーは驚いた。
宝石の類がぎっしりと入っていたからだ。通貨に換算したら、とんでもない額になるのは間違いない。
「……私がこれを持ち逃げするかもしれないよ?」
「言ったであろう。研究者としての能力を信用していると。それに君は逃れられない。この神実から」
正体不明の実を再度、見せられて、研究者は袋を持つ手に力を込めた。
相手は信用の担保を提示したのだ。だとすれば、対価として神実の『解析』を受けるべきだと。
「その通りよ……この話、受けるわ。そういえば、まだ名前を伺ってなかったかしら?」
「ジード・ランスウッドだ」
差し出された手を研究者は握った。
「よろしく、ジードさん。いや、ジード様かな」
その後、トレイシーは神実を『解析』し、様々な効能を見つけ、研究者としての実力を示す事になる。
紆余曲折の末、組織を抜ける事になるが、その『対価』を彼女は忘れる事は無かったという。