卓上のスパゲッティダイス遊戯
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2021年01月09日 19時04分04秒
●
それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部で過ごした放課後のお話――。
●
「という訳だ、パスタを作ろう」
「どういう訳か分かりませんけど、そもそもゲームするんじゃないんですか?」
ユーリはいつものように唐突に、倶楽部の会員へ活動の提案を行った。
ただし、その内容はいささか普段とは異なるように聞こえ、ルアンナは小首を傾げている。
ルアンナ達が集まっているのは卓上遊戯倶楽部の活動を名目としており、すなわちテーブルゲームを遊ぶのが目的だ。
その発起人たるユーリからなされる提案は、本来であれば、これから会員達で遊ぶゲームを示すものでなければならないはずだ。
つまり、そこから導き出される結論は――。
「もちろん遊戯を行うとも。遊戯の中で、想像上のパスタを作るんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
ユーリが補足した通り、今回のゲームのテーマはパスタということらしい。
ルアンナもそれを聞いて合点がいったようで、ポンと手を打った。
「これから僕達はパスタ店のスタッフとなって、新メニューの採用会議を行う」
そう言ってユーリが取り出したシートには、パスタを構成する要素ごとに、パターンが表になって記されていた。
用いるパスタの種類、茹で加減、ソースに、そして――具材。
そして、それらの表には、各パターンごとに対応する数字が記されていた。
「ははあ、なんとなく想像がつきました。これ、どんなパスタが出来るか、ダイスで決まっちゃったりします?」
「決まっちゃったりする」
そろそろゲーム慣れしてきたルアンナは、表を見た段階でだいたい察したようである。
その予想は、ユーリにあっさりと肯定された。
「各自、新メニューをダイスで決めたら、それを上手くプレゼンしてくれ。自分以外の過半数から賛成があれば、無事に採用、というわけだ」
これでユーリも説明を終えたらしく、シートとダイスを参加者達に配っていく。
作品が採用されるかは運次第?
いいえ、プレゼンの発想次第。
悪戯なダイスによる無茶振り会議、いざ開幕――。
●
「じゃあ、一番手いただきます! まずはパスタの種類から、ですね」
元気よく声を上げ、ユーリの召使であるミアがテーブル上へとダイスを投げる。
「ペンネです! 悪くない感じですね」
ミアが引き当てたパスタは、先端を斜めにカットした、中空のショートパスタ。
周囲には細かく溝が刻んであり、ソースがよく絡むようにしてあるのも特徴だ。
「まあパスタの種類だけで事故になるようなことはないからな。組み合わせ次第だろう」
「そうですね、最初は安心して振れます」
ユーリの言うように、パスタの種類に関しては、それ単体で酷いことになるような出目は無い。
やはりユーリの召使のクラウスが、ミアに続いてダイスを振った。
「乾燥スパゲティ。普通ですね」
クラウスはここで、保存に適しているため一般的に置かれている、乾燥スパゲッティを引く。
手堅いプレイングを得意とするクラウスにとっては、良い手札と言えるだろう。
「まだ分からないぞ? さっきも言ったように組み合わせ次第だからな。それっ」
掛け声と共に、ユーリもダイスを振る。
「ラザーニェか。扱いに工夫は必要だろうが、悪くはない、うん」
そしてユーリが引いたパスタは、平たい板状のパスタだ。
ラザニアのような料理に使われるのが一般的であるため、麺として食べるようなパスタとは方針を変えて調理する必要があるかもしれない。
「私も良いのを引きますようにっ」
ルアンナが念を込めて振ったダイスが示したパスタは――。
「高級小麦粉の生パスタ!」
いかにもそれだけで美味しくなりそうな響きのパスタであり、ルアンナは思わず快哉を叫んだ。
「また使いやすそうなのを引いたじゃないか。でもここからが本番だぞ?」
それに対し、ユーリは感心しつつも、少しばかり不穏なことを述べる。
「次は茹で加減でしたね! いっきまーす!」
うずうずと自分の番を待っている間も、ダイスを手の中で転がしていたミアは、それを机上へと解放する。
「アルデンテ! ……ペンネでアルデンテ?」
「芯が残っている感じ……でもペンネって中心が空洞でしたよね?」
ミアはパスタにおいては定番の茹で加減、アルデンテを引いた。
しかし、いかんせんパスタの種類がショートパスタであったため、どのような状態を指すのかルアンナと一緒に首をひねっている。
「輪になっている部分のほうが固いのだろう。もともと、歯ごたえがある、とかいう意味だし、やや固めくらいに思っておけばいい」
「なるほど、言われてみればそうですね」
そこでユーリが解釈を加え、それでルアンナも納得したようだ。
「では私も行きますよ……出目は一」
賑やかな相談が収まるまで待っていたクラウスは、ここで自らのダイスを振る。
「一の目は……茹でない」
「はい?」
ユーリが表を確認して告げた内容に、クラウスは自らの耳を疑い、思わず聞き返した。
「だから一の目は、茹でない、だ。なんなら自分の表で見返してみるといい」
「茹でない……確かにそう書いていますね」
ユーリの情け容赦ない宣告に、クラウスもようやく現実を認識する。
「小麦粉を加熱しないで食べるとか、お腹に良くないんじゃないですか?」
「かもしれないな。まあ日頃の行いだと思って諦めるんだな」
クラウスが尤もな指摘を行うも、ユーリはつれない返事を返すのみ。
「僕が手本を見せてやろう……あ」
続いてユーリが振ったダイスは、コロコロと長い距離を転がり……そして一の目を上にして止まった。
「日頃の行い、でしたっけ? ユーリ様?」
「ええい、うるさいっ。僕のパスタも、茹でない、だっ!」
クラウスから意趣返しを受けながら、ユーリは開き直って自らの茹で加減を宣言する。
「ふふっ、お二人共、仲が良いですね」
ルアンナも日頃から感じていたことだが、ユーリは召使達と本当に親しく接している。
そうした空気こそ、ルアンナがこの場に惹き付けられる理由なのだろう。
「何もこんな出目まで仲良くしたくは無かったけどな……では、セラフィアス君も茹で加減を決めたまえ」
「はいっ、じゃあ振りますね」
ユーリに促され、ルアンナもダイスを振る。
「……って、どろどろ!?」
「おお、高級な生パスタが一気に台無しになったな」
ここに来ての事故でショックを受けた様子のルアンナを、ユーリは面白そうに眺めていた。
●
「さあ、ここからはソースを決めていくぞ」
「順番で、また私から行きますね!」
ユーリの進行に基づき、再び出番が回ってきたミアがダイスロールを行う。
「トマトソースです!」
「順調ですね。羨ましいですっ」
ミアはここでも運の良さを発揮し、すでに大惨事を予感しつつあるルアンナがそれを羨む。
「では私のソースは……」
「表を辿ると、無し、と書いてあるな」
クラウスが振った出目をやはりユーリが確認し、それを聞いたクラウスは机に突っ伏してしまう。
「乾燥スパゲティをそのまま齧れ、と言われていますよ、私……」
「……今度は煽らないぞ。同じ出目を出したくないからな」
普段、冷静なクラウスもこれには流石に参ってしまったようだった。
それを見たユーリの言葉は、ある意味、その時点でフラグになっているかもしれないが、当のユーリ本人はそのことに気づいている様子は無い。
「では僕だな……ふむ」
そして振られたユーリのダイスはフラグを回収することは無く、ユーリにオリーブオイルを与える。
ここで、ユーリは何やら考え込むような素振りを見せた。
「私は……クリームソースですね」
その間にルアンナがダイスを振り、ソースを決定する。
「どろどろになった麺にクリームソース……それ全体で一つのクリームでは?」
「言わないでください……私も思いましたけど」
クラウスによるツッコミに、ルアンナは肩を落として返答した。
「さあ、残るは具材だ。これは複数回ダイスを振ってもいいぞ」
「はい! 今度こそ美味しそうなの引きます……!」
ユーリから声が掛かり、気を取り直したルアンナは、気合を入れてダイスを握りしめたのだった――。
●
それぞれ具材を決めるダイスを振り、いよいよ新メニュー発表の時が来た。
各自、自らの考案した新メニューの採用を、口八丁で認めさせなければならない。
「では私の提案する新メニュー!」
最初に発表の順番が回って来たのは、ミアである。
「まずペンネをアルデンテに茹でます! そしてそこに絡めるのは……具材として挽き肉を煮込んだトマトソース!」
ミアは具材として挽き肉を引き当てていた。トマトソースとの相性はバッチリだ。
「そして――そこに粉チーズをパラッと振り! バジルの葉をそっと添え……ミートソースのペンネ、完成でーす!」
そう、ミアの作品はパスタとして完璧であったのだ。
「普通だな」
「普通、ですね」
ユーリとクラウスの反応がこうなったのも、さもありなん、と言ったところである。
「えー! 良いじゃないですか、普通でも!」
「はい、たいへん結構だと思いますヨ」
反論するミアに対し、同意するルアンナはなんだか暗いオーラをまとっているかのように見え、もはや声のトーンも少しばかりおかしくなっていた。
「まあ美味そうだし、採用には賛成するけどな」
ユーリの言葉通り、ミアの作品は見事、全会一致で新メニューとしての採用が決定した。
「次に私ですね。私はこの乾燥スパゲッティを、こうポキッ、と短めに折ります」
長い棒状の麺をポキポキと折っていく仕草を挟みながら、クラウスがプレゼンを開始する。
「そして折ったスパゲティを……窯で焼き上げます!」
「焼く!?」
クラウスの宣言に、ルアンナは驚いた。
そう、茹でてはいけないと言われたが――加熱してはいけないとは誰も言っていないのである。
「カリカリになったスパゲッティに、溶かしたチョコレートをコーティングし、冷まして固め。さあチョコスティックを召し上がれ」
クラウスはチョコレートという具材も何とか盛り込みつつ、自らのプレゼンを締めくくった。
「なるほど……確かに美味そうだが……パスタか?」
「美味しいならメニューに入れちゃっていいんじゃないです?」
ユーリの疑問も尤もであるが、ルアンナの言葉に動かされ、チョコスティックも無事にパスタ店の新メニューに並ぶこととなった。
「さあ僕だな。僕が用意したパスタはご存じの通り、このラザーニェだが……」
出番がやってきたユーリは、いつ何時ものように、妙に堂々と語り始める。
「僕はラザーニェに具材を……包む!」
「包む!?」
ユーリの宣言に、その発想は無かったとばかり、ルアンナが驚く。
「そして、具材を包んだラザーニェを……グラグラに煮立てたオリーブオイルで揚げる!」
「揚げる!?」
ユーリが口を開くたび、ルアンナは律義に驚いてみせている。
しかしオリーブオイルはソースではなかったか? などと気にする暇もないようだ。
「せっかくだから、具は二種類を用意した。一つはエビにパセリを添えたもの。もう一つは、ソーセージとキノコに胡椒を振ったものだ」
ちなみに、ダイスを振るのが好きなユーリは、具材のダイスを五回振っていた。
「さあ、ラザーニェの包み揚げ、熱々を食べるといい!」
ユーリがあまりに自信満々に話を締めくくったので、そのままの勢いでラザーニェの包み揚げもメニュー掲載が決定した。
「最後に私ですね。私はまず、この高級小麦粉の生パスタを……どろどろに溶けるくらいまで茹で上げます。大事な人の仇か? ってくらい煮ます」
ルアンナのプレゼンは、開幕直後からすでに台無し感でお腹がいっぱいになりそうであった。
「それをクリームソースに投入! ぐるぐるに混ぜて、もはや麺とソースの境界も定かでは無くなったところでお皿に盛り――」
間違いない。ルアンナはヤケになってネタに走り始めている。
「ホイップした生クリームをその上に山のように盛ります! 貴方は遭難することなく制覇できるか――白き山、の完成です!」
こうして生まれたルアンナの渾身の作品は、腹をかかえて笑うユーリ達により――当然のようにメニューへの採用を却下された。
今日も卓上遊戯倶楽部の部室は、賑やかな笑い声に包まれている。
その中には、確かにルアンナの笑う声も含まれていた――。
それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部で過ごした放課後のお話――。
●
「という訳だ、パスタを作ろう」
「どういう訳か分かりませんけど、そもそもゲームするんじゃないんですか?」
ユーリはいつものように唐突に、倶楽部の会員へ活動の提案を行った。
ただし、その内容はいささか普段とは異なるように聞こえ、ルアンナは小首を傾げている。
ルアンナ達が集まっているのは卓上遊戯倶楽部の活動を名目としており、すなわちテーブルゲームを遊ぶのが目的だ。
その発起人たるユーリからなされる提案は、本来であれば、これから会員達で遊ぶゲームを示すものでなければならないはずだ。
つまり、そこから導き出される結論は――。
「もちろん遊戯を行うとも。遊戯の中で、想像上のパスタを作るんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
ユーリが補足した通り、今回のゲームのテーマはパスタということらしい。
ルアンナもそれを聞いて合点がいったようで、ポンと手を打った。
「これから僕達はパスタ店のスタッフとなって、新メニューの採用会議を行う」
そう言ってユーリが取り出したシートには、パスタを構成する要素ごとに、パターンが表になって記されていた。
用いるパスタの種類、茹で加減、ソースに、そして――具材。
そして、それらの表には、各パターンごとに対応する数字が記されていた。
「ははあ、なんとなく想像がつきました。これ、どんなパスタが出来るか、ダイスで決まっちゃったりします?」
「決まっちゃったりする」
そろそろゲーム慣れしてきたルアンナは、表を見た段階でだいたい察したようである。
その予想は、ユーリにあっさりと肯定された。
「各自、新メニューをダイスで決めたら、それを上手くプレゼンしてくれ。自分以外の過半数から賛成があれば、無事に採用、というわけだ」
これでユーリも説明を終えたらしく、シートとダイスを参加者達に配っていく。
作品が採用されるかは運次第?
いいえ、プレゼンの発想次第。
悪戯なダイスによる無茶振り会議、いざ開幕――。
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「じゃあ、一番手いただきます! まずはパスタの種類から、ですね」
元気よく声を上げ、ユーリの召使であるミアがテーブル上へとダイスを投げる。
「ペンネです! 悪くない感じですね」
ミアが引き当てたパスタは、先端を斜めにカットした、中空のショートパスタ。
周囲には細かく溝が刻んであり、ソースがよく絡むようにしてあるのも特徴だ。
「まあパスタの種類だけで事故になるようなことはないからな。組み合わせ次第だろう」
「そうですね、最初は安心して振れます」
ユーリの言うように、パスタの種類に関しては、それ単体で酷いことになるような出目は無い。
やはりユーリの召使のクラウスが、ミアに続いてダイスを振った。
「乾燥スパゲティ。普通ですね」
クラウスはここで、保存に適しているため一般的に置かれている、乾燥スパゲッティを引く。
手堅いプレイングを得意とするクラウスにとっては、良い手札と言えるだろう。
「まだ分からないぞ? さっきも言ったように組み合わせ次第だからな。それっ」
掛け声と共に、ユーリもダイスを振る。
「ラザーニェか。扱いに工夫は必要だろうが、悪くはない、うん」
そしてユーリが引いたパスタは、平たい板状のパスタだ。
ラザニアのような料理に使われるのが一般的であるため、麺として食べるようなパスタとは方針を変えて調理する必要があるかもしれない。
「私も良いのを引きますようにっ」
ルアンナが念を込めて振ったダイスが示したパスタは――。
「高級小麦粉の生パスタ!」
いかにもそれだけで美味しくなりそうな響きのパスタであり、ルアンナは思わず快哉を叫んだ。
「また使いやすそうなのを引いたじゃないか。でもここからが本番だぞ?」
それに対し、ユーリは感心しつつも、少しばかり不穏なことを述べる。
「次は茹で加減でしたね! いっきまーす!」
うずうずと自分の番を待っている間も、ダイスを手の中で転がしていたミアは、それを机上へと解放する。
「アルデンテ! ……ペンネでアルデンテ?」
「芯が残っている感じ……でもペンネって中心が空洞でしたよね?」
ミアはパスタにおいては定番の茹で加減、アルデンテを引いた。
しかし、いかんせんパスタの種類がショートパスタであったため、どのような状態を指すのかルアンナと一緒に首をひねっている。
「輪になっている部分のほうが固いのだろう。もともと、歯ごたえがある、とかいう意味だし、やや固めくらいに思っておけばいい」
「なるほど、言われてみればそうですね」
そこでユーリが解釈を加え、それでルアンナも納得したようだ。
「では私も行きますよ……出目は一」
賑やかな相談が収まるまで待っていたクラウスは、ここで自らのダイスを振る。
「一の目は……茹でない」
「はい?」
ユーリが表を確認して告げた内容に、クラウスは自らの耳を疑い、思わず聞き返した。
「だから一の目は、茹でない、だ。なんなら自分の表で見返してみるといい」
「茹でない……確かにそう書いていますね」
ユーリの情け容赦ない宣告に、クラウスもようやく現実を認識する。
「小麦粉を加熱しないで食べるとか、お腹に良くないんじゃないですか?」
「かもしれないな。まあ日頃の行いだと思って諦めるんだな」
クラウスが尤もな指摘を行うも、ユーリはつれない返事を返すのみ。
「僕が手本を見せてやろう……あ」
続いてユーリが振ったダイスは、コロコロと長い距離を転がり……そして一の目を上にして止まった。
「日頃の行い、でしたっけ? ユーリ様?」
「ええい、うるさいっ。僕のパスタも、茹でない、だっ!」
クラウスから意趣返しを受けながら、ユーリは開き直って自らの茹で加減を宣言する。
「ふふっ、お二人共、仲が良いですね」
ルアンナも日頃から感じていたことだが、ユーリは召使達と本当に親しく接している。
そうした空気こそ、ルアンナがこの場に惹き付けられる理由なのだろう。
「何もこんな出目まで仲良くしたくは無かったけどな……では、セラフィアス君も茹で加減を決めたまえ」
「はいっ、じゃあ振りますね」
ユーリに促され、ルアンナもダイスを振る。
「……って、どろどろ!?」
「おお、高級な生パスタが一気に台無しになったな」
ここに来ての事故でショックを受けた様子のルアンナを、ユーリは面白そうに眺めていた。
●
「さあ、ここからはソースを決めていくぞ」
「順番で、また私から行きますね!」
ユーリの進行に基づき、再び出番が回ってきたミアがダイスロールを行う。
「トマトソースです!」
「順調ですね。羨ましいですっ」
ミアはここでも運の良さを発揮し、すでに大惨事を予感しつつあるルアンナがそれを羨む。
「では私のソースは……」
「表を辿ると、無し、と書いてあるな」
クラウスが振った出目をやはりユーリが確認し、それを聞いたクラウスは机に突っ伏してしまう。
「乾燥スパゲティをそのまま齧れ、と言われていますよ、私……」
「……今度は煽らないぞ。同じ出目を出したくないからな」
普段、冷静なクラウスもこれには流石に参ってしまったようだった。
それを見たユーリの言葉は、ある意味、その時点でフラグになっているかもしれないが、当のユーリ本人はそのことに気づいている様子は無い。
「では僕だな……ふむ」
そして振られたユーリのダイスはフラグを回収することは無く、ユーリにオリーブオイルを与える。
ここで、ユーリは何やら考え込むような素振りを見せた。
「私は……クリームソースですね」
その間にルアンナがダイスを振り、ソースを決定する。
「どろどろになった麺にクリームソース……それ全体で一つのクリームでは?」
「言わないでください……私も思いましたけど」
クラウスによるツッコミに、ルアンナは肩を落として返答した。
「さあ、残るは具材だ。これは複数回ダイスを振ってもいいぞ」
「はい! 今度こそ美味しそうなの引きます……!」
ユーリから声が掛かり、気を取り直したルアンナは、気合を入れてダイスを握りしめたのだった――。
●
それぞれ具材を決めるダイスを振り、いよいよ新メニュー発表の時が来た。
各自、自らの考案した新メニューの採用を、口八丁で認めさせなければならない。
「では私の提案する新メニュー!」
最初に発表の順番が回って来たのは、ミアである。
「まずペンネをアルデンテに茹でます! そしてそこに絡めるのは……具材として挽き肉を煮込んだトマトソース!」
ミアは具材として挽き肉を引き当てていた。トマトソースとの相性はバッチリだ。
「そして――そこに粉チーズをパラッと振り! バジルの葉をそっと添え……ミートソースのペンネ、完成でーす!」
そう、ミアの作品はパスタとして完璧であったのだ。
「普通だな」
「普通、ですね」
ユーリとクラウスの反応がこうなったのも、さもありなん、と言ったところである。
「えー! 良いじゃないですか、普通でも!」
「はい、たいへん結構だと思いますヨ」
反論するミアに対し、同意するルアンナはなんだか暗いオーラをまとっているかのように見え、もはや声のトーンも少しばかりおかしくなっていた。
「まあ美味そうだし、採用には賛成するけどな」
ユーリの言葉通り、ミアの作品は見事、全会一致で新メニューとしての採用が決定した。
「次に私ですね。私はこの乾燥スパゲッティを、こうポキッ、と短めに折ります」
長い棒状の麺をポキポキと折っていく仕草を挟みながら、クラウスがプレゼンを開始する。
「そして折ったスパゲティを……窯で焼き上げます!」
「焼く!?」
クラウスの宣言に、ルアンナは驚いた。
そう、茹でてはいけないと言われたが――加熱してはいけないとは誰も言っていないのである。
「カリカリになったスパゲッティに、溶かしたチョコレートをコーティングし、冷まして固め。さあチョコスティックを召し上がれ」
クラウスはチョコレートという具材も何とか盛り込みつつ、自らのプレゼンを締めくくった。
「なるほど……確かに美味そうだが……パスタか?」
「美味しいならメニューに入れちゃっていいんじゃないです?」
ユーリの疑問も尤もであるが、ルアンナの言葉に動かされ、チョコスティックも無事にパスタ店の新メニューに並ぶこととなった。
「さあ僕だな。僕が用意したパスタはご存じの通り、このラザーニェだが……」
出番がやってきたユーリは、いつ何時ものように、妙に堂々と語り始める。
「僕はラザーニェに具材を……包む!」
「包む!?」
ユーリの宣言に、その発想は無かったとばかり、ルアンナが驚く。
「そして、具材を包んだラザーニェを……グラグラに煮立てたオリーブオイルで揚げる!」
「揚げる!?」
ユーリが口を開くたび、ルアンナは律義に驚いてみせている。
しかしオリーブオイルはソースではなかったか? などと気にする暇もないようだ。
「せっかくだから、具は二種類を用意した。一つはエビにパセリを添えたもの。もう一つは、ソーセージとキノコに胡椒を振ったものだ」
ちなみに、ダイスを振るのが好きなユーリは、具材のダイスを五回振っていた。
「さあ、ラザーニェの包み揚げ、熱々を食べるといい!」
ユーリがあまりに自信満々に話を締めくくったので、そのままの勢いでラザーニェの包み揚げもメニュー掲載が決定した。
「最後に私ですね。私はまず、この高級小麦粉の生パスタを……どろどろに溶けるくらいまで茹で上げます。大事な人の仇か? ってくらい煮ます」
ルアンナのプレゼンは、開幕直後からすでに台無し感でお腹がいっぱいになりそうであった。
「それをクリームソースに投入! ぐるぐるに混ぜて、もはや麺とソースの境界も定かでは無くなったところでお皿に盛り――」
間違いない。ルアンナはヤケになってネタに走り始めている。
「ホイップした生クリームをその上に山のように盛ります! 貴方は遭難することなく制覇できるか――白き山、の完成です!」
こうして生まれたルアンナの渾身の作品は、腹をかかえて笑うユーリ達により――当然のようにメニューへの採用を却下された。
今日も卓上遊戯倶楽部の部室は、賑やかな笑い声に包まれている。
その中には、確かにルアンナの笑う声も含まれていた――。