潜入調査という名の推し事
四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)エイプリアンダイナー制作 雪芽泉琉納品 2024年06月14日 10時25分22秒
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「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ひゃ! ……もごもご」
執事の日比谷が出迎えた瞬間、階 海莉、ソフィア・ウッド、アイル・G・メラノレウカは悲鳴をあげかけ、互いに互いの口を押さえた。
ヒビヤの女が、日比谷を前にして、正気でいられるはずもない。
いつも通りの穏やかな笑顔で案内する日比谷に続きつつ、アイルとソフィアはこそこそと囁く。
「本物の日比谷君!!」
「生のヒビヤくんかっこいいね」
海莉は帽子を目深に被り直し、メガネを押し上げて深呼吸。
親からも見失われるくらいに影が薄い自分を、日比谷は初見で認知してくれた。「私を初見で認知出来る人がこの世にいたなんて!」と衝撃を受けて、日比谷推しとなった。
(初見で認知してくれた日比谷君相手ですから、万全の体制で! 今の私は「マイル」じゃなくて「海莉」なんだからっ)
いつもは偽名のマイルを名乗っているが、今日は変装して海莉だ。日比谷君布教リーダーとして、日比谷君の魅力を調査する。
潜入調査という名の推し事が始まる。
●
席について注文すると、アイルはすっとパンダのマスコットを取り出す。
「こ、これ、プレゼントなのだよ!」
「わぁ。可愛いですね。ありがとうございます」
日比谷が前屈みになると、アイルは悲鳴を押し殺した。
(ひぇぇ近い、日比谷君の生おでこ……刺激が強すぎるよぉ~)
日比谷は知らない。パンダに盗聴器が仕込まれていることを。店ではパンダメニューを布教しているアイルだが、盗聴のスペシャリストだ。
「蓮見さーん。お客様からパンダを貰いました〜」
ふわふわ笑顔で蓮見にパンダを見せびらかす日比谷。ほんわかした愛らしさに遠目でキュン死してると、蓮見のメガネが光った。
「これ、一度預かっても良いですか?』
「はい。どうぞ」
蓮見はさりげない仕草でパンダを撫でる。そのまま店内を一周して、一つ一つ盗聴器を回収した。
「やば、他の盗聴器も壊されたよ。やるねぇ」
アイルはぶるりと震える。
一方、海莉は遠目に日比谷が働く姿を目で追っていた。
(これはお仕事だから……決してヤバいファンとかじゃないから……あっ待って今の仕草凄く……イイ!)
一挙一動を盗み見ては、全てを脳に刻みつける。今日も推しは尊い。
日比谷が近づいてきて、そっと囁いた。
「ご注文のサンドイッチに生トマト入ってますが、大丈夫ですか?」
(耳元で囁かれてる!!!)
「だ、大丈夫です!」
一瞬パニックになりかけて慌てて声を出す。日比谷が頷いて離れていき深呼吸。ソフィアが羨ましそうに問いかける。
「何を聞かれたのかな?」
「生トマトが入ってると……」
そこでハッと気づく。同じメニューを頼んだのに、自分だけ確認を取るのはなぜか。
日比谷に「生トマトちょっと苦手かも」と以前言った気がする。まさか正体がバレている?
海莉が焦った顔をしているのに気付かないまま、ソフィアも日比谷を目で追った。
潜入捜査は初めてではない。けれど、相手があの日比谷くんとなれば話は別だ。
(どうしよう、推しへの愛が溢れていないかな。昨日のよる緊張して寝れなかったよー)
眠気を堪えるように目を擦りかけて、ハッと手を膝の上に置く。
推しの前で少しでも可愛く見えるよう目元にラメを入れた。メイクが崩れるといけない。せめてふぁんぴくを取るまで維持しなくては。
日比谷が紅茶を運んできて一人一人丁寧に淹れる。優雅な仕草に見惚れつつティーカップを持ち上げる。
紅茶美味しい。さすが日比谷君。
「シンプルにお茶ウマッ」
アイルも海莉も唸る美味しさ。
ソフィアはぼーっとして、カップを置く時にティースプーンを引っ掛け、スプーンが床に落ちて慌てる。
「お嬢様、そのままで。俺が拾います」
すっと拾って交換のために下がった日比谷の背を呆然と見つめる。
「……お、れ? オレ? 俺? 俺!!」
「日比谷君、いつも『私』だよねぇ?」
「日比谷君布教リーダーだけど、わたしも初めて聞いたよ。まさか、あれが素?」
可愛い顔して、俺。そのギャップに三人が悶えている間に、ソフィアのスプーンは交換されていた。
●
食後に日比谷とふぁんぴくタイム。専用ブースに移動してリクエストを確認。
「ではアイルお嬢様から……このぬいを持って椅子に座る?」
アイルが鞄から取り出したのはひびぬい日比谷の顔が好きなアイルがこだわった手作りだ。
「私が座って良いんですか?」
「日比谷君が座って、アタシが後ろに立つポーズがいいんだよ」
アイルは両手で推しタオルを開いて準備OK。撮影する瞬間、真上から日比谷の頭を見下ろし気づいた。
(日比谷君のつむじが見えた)
思わずにやけそうになるのを堪えたせいで、ちょっと不自然な笑みのふぁんぴくになったが、気にならないくらい舞い上がる。
「海莉ちゃん、ソフィアちゃん、ちょっとほっぺつねってくれないかい?」
「ゆめじゃないよ!」
言いながらソフィアがアイルの頬をつねる。
「あひゃひゃ、ゆめじゃにゃい」
「二人ともしっかり! 夢じゃないしこれは任務だよ!」
囁く海莉の声も震えていた。
(夢かと思うよね。だってヒビヤくんが目の前にいるんだもん)
ソフィアの胸の鼓動が高鳴る。リクエストを問われて、何にしようか考えてなくて焦る。
「えっと、あ、ひゃい」
「ソフィアお嬢様、落ち着いてください。ゆっくりで大丈夫ですよ」
ソフィアを宥めるように日比谷が頭を撫でる。
(はう! 頭よしよしされた)
あまりの刺激に倒れかけて、ソフィアは一時戦線離脱。その間に海莉が撮影。
「あ、……顎クイで、お願いします」
思わず声が裏返った。日比谷は嫌な顔一つせず、そっと海莉の顎に指を添えた。
「これで、いいですか? 海莉お嬢様」
(ひえええ顎クイ……! ち、近い!)
日比谷のファンサにくらくら。顔が真っ赤になり、目が泳ぐうちに撮影が終わった。崩れ落ちた海莉を、さっと椅子に誘導してくれる日比谷君、マジ紳士。
ようやく立ち直ったソフィアが、顔を真っ赤にして一生懸命リクエスト。
「あの! 握手、いえハートを一緒に作ってくれませんか!」
「わかりました。どういうハートがいいですか?」
ソフィアの高さに合わせて屈む優しさにキュンしつつ、二人で一つのハートを作る仕草で撮影。ソフィアの顔が蕩ける。
●
夢の撮影が終わり、店を出る三人を日比谷が玄関までお見送り。
海莉へ近づいて、日比谷は小さく告げた。
「マイルお嬢様のお帰りをお待ちしております」
「ふえっ!?」
(ば、バレてる? 日比谷君……流石すぎます……)
海莉が撃沈している間に、日比谷はアイルへと近づく。
「アイルお嬢様はおてんばですね。でもイタズラはダメですよ」
気づかれてたことに驚きアイルの顔が引きつる。
最後に三人に向かって笑顔を浮かべた。
「次は俺がダイナーにお邪魔しますね」
丁寧なお辞儀と共にお見送りされて、三人は店を出た。帰りながら語らう。
「まさか変装を見抜かれてたなんて、うう、ますます推しちゃう……好き……!」
「ど、どうしよう正体ばれてるし、こっちに来てくれるって」
「ダイナーに来たら、拐っ……勧誘したいねぇ」
「日比谷くんと一緒に働くなんて、無理無理無理、心臓がもたない」
「アタシ達がおもてなしする時は、あの魅惑のヘソ出しでメロメロに……キャーそれは照れるのだよぉ~」
「どうやっておもてなししたらいいだろう!」
ソフィアの悲鳴に、「そこ?」と笑い合った。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ひゃ! ……もごもご」
執事の日比谷が出迎えた瞬間、階 海莉、ソフィア・ウッド、アイル・G・メラノレウカは悲鳴をあげかけ、互いに互いの口を押さえた。
ヒビヤの女が、日比谷を前にして、正気でいられるはずもない。
いつも通りの穏やかな笑顔で案内する日比谷に続きつつ、アイルとソフィアはこそこそと囁く。
「本物の日比谷君!!」
「生のヒビヤくんかっこいいね」
海莉は帽子を目深に被り直し、メガネを押し上げて深呼吸。
親からも見失われるくらいに影が薄い自分を、日比谷は初見で認知してくれた。「私を初見で認知出来る人がこの世にいたなんて!」と衝撃を受けて、日比谷推しとなった。
(初見で認知してくれた日比谷君相手ですから、万全の体制で! 今の私は「マイル」じゃなくて「海莉」なんだからっ)
いつもは偽名のマイルを名乗っているが、今日は変装して海莉だ。日比谷君布教リーダーとして、日比谷君の魅力を調査する。
潜入調査という名の推し事が始まる。
●
席について注文すると、アイルはすっとパンダのマスコットを取り出す。
「こ、これ、プレゼントなのだよ!」
「わぁ。可愛いですね。ありがとうございます」
日比谷が前屈みになると、アイルは悲鳴を押し殺した。
(ひぇぇ近い、日比谷君の生おでこ……刺激が強すぎるよぉ~)
日比谷は知らない。パンダに盗聴器が仕込まれていることを。店ではパンダメニューを布教しているアイルだが、盗聴のスペシャリストだ。
「蓮見さーん。お客様からパンダを貰いました〜」
ふわふわ笑顔で蓮見にパンダを見せびらかす日比谷。ほんわかした愛らしさに遠目でキュン死してると、蓮見のメガネが光った。
「これ、一度預かっても良いですか?』
「はい。どうぞ」
蓮見はさりげない仕草でパンダを撫でる。そのまま店内を一周して、一つ一つ盗聴器を回収した。
「やば、他の盗聴器も壊されたよ。やるねぇ」
アイルはぶるりと震える。
一方、海莉は遠目に日比谷が働く姿を目で追っていた。
(これはお仕事だから……決してヤバいファンとかじゃないから……あっ待って今の仕草凄く……イイ!)
一挙一動を盗み見ては、全てを脳に刻みつける。今日も推しは尊い。
日比谷が近づいてきて、そっと囁いた。
「ご注文のサンドイッチに生トマト入ってますが、大丈夫ですか?」
(耳元で囁かれてる!!!)
「だ、大丈夫です!」
一瞬パニックになりかけて慌てて声を出す。日比谷が頷いて離れていき深呼吸。ソフィアが羨ましそうに問いかける。
「何を聞かれたのかな?」
「生トマトが入ってると……」
そこでハッと気づく。同じメニューを頼んだのに、自分だけ確認を取るのはなぜか。
日比谷に「生トマトちょっと苦手かも」と以前言った気がする。まさか正体がバレている?
海莉が焦った顔をしているのに気付かないまま、ソフィアも日比谷を目で追った。
潜入捜査は初めてではない。けれど、相手があの日比谷くんとなれば話は別だ。
(どうしよう、推しへの愛が溢れていないかな。昨日のよる緊張して寝れなかったよー)
眠気を堪えるように目を擦りかけて、ハッと手を膝の上に置く。
推しの前で少しでも可愛く見えるよう目元にラメを入れた。メイクが崩れるといけない。せめてふぁんぴくを取るまで維持しなくては。
日比谷が紅茶を運んできて一人一人丁寧に淹れる。優雅な仕草に見惚れつつティーカップを持ち上げる。
紅茶美味しい。さすが日比谷君。
「シンプルにお茶ウマッ」
アイルも海莉も唸る美味しさ。
ソフィアはぼーっとして、カップを置く時にティースプーンを引っ掛け、スプーンが床に落ちて慌てる。
「お嬢様、そのままで。俺が拾います」
すっと拾って交換のために下がった日比谷の背を呆然と見つめる。
「……お、れ? オレ? 俺? 俺!!」
「日比谷君、いつも『私』だよねぇ?」
「日比谷君布教リーダーだけど、わたしも初めて聞いたよ。まさか、あれが素?」
可愛い顔して、俺。そのギャップに三人が悶えている間に、ソフィアのスプーンは交換されていた。
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食後に日比谷とふぁんぴくタイム。専用ブースに移動してリクエストを確認。
「ではアイルお嬢様から……このぬいを持って椅子に座る?」
アイルが鞄から取り出したのはひびぬい日比谷の顔が好きなアイルがこだわった手作りだ。
「私が座って良いんですか?」
「日比谷君が座って、アタシが後ろに立つポーズがいいんだよ」
アイルは両手で推しタオルを開いて準備OK。撮影する瞬間、真上から日比谷の頭を見下ろし気づいた。
(日比谷君のつむじが見えた)
思わずにやけそうになるのを堪えたせいで、ちょっと不自然な笑みのふぁんぴくになったが、気にならないくらい舞い上がる。
「海莉ちゃん、ソフィアちゃん、ちょっとほっぺつねってくれないかい?」
「ゆめじゃないよ!」
言いながらソフィアがアイルの頬をつねる。
「あひゃひゃ、ゆめじゃにゃい」
「二人ともしっかり! 夢じゃないしこれは任務だよ!」
囁く海莉の声も震えていた。
(夢かと思うよね。だってヒビヤくんが目の前にいるんだもん)
ソフィアの胸の鼓動が高鳴る。リクエストを問われて、何にしようか考えてなくて焦る。
「えっと、あ、ひゃい」
「ソフィアお嬢様、落ち着いてください。ゆっくりで大丈夫ですよ」
ソフィアを宥めるように日比谷が頭を撫でる。
(はう! 頭よしよしされた)
あまりの刺激に倒れかけて、ソフィアは一時戦線離脱。その間に海莉が撮影。
「あ、……顎クイで、お願いします」
思わず声が裏返った。日比谷は嫌な顔一つせず、そっと海莉の顎に指を添えた。
「これで、いいですか? 海莉お嬢様」
(ひえええ顎クイ……! ち、近い!)
日比谷のファンサにくらくら。顔が真っ赤になり、目が泳ぐうちに撮影が終わった。崩れ落ちた海莉を、さっと椅子に誘導してくれる日比谷君、マジ紳士。
ようやく立ち直ったソフィアが、顔を真っ赤にして一生懸命リクエスト。
「あの! 握手、いえハートを一緒に作ってくれませんか!」
「わかりました。どういうハートがいいですか?」
ソフィアの高さに合わせて屈む優しさにキュンしつつ、二人で一つのハートを作る仕草で撮影。ソフィアの顔が蕩ける。
●
夢の撮影が終わり、店を出る三人を日比谷が玄関までお見送り。
海莉へ近づいて、日比谷は小さく告げた。
「マイルお嬢様のお帰りをお待ちしております」
「ふえっ!?」
(ば、バレてる? 日比谷君……流石すぎます……)
海莉が撃沈している間に、日比谷はアイルへと近づく。
「アイルお嬢様はおてんばですね。でもイタズラはダメですよ」
気づかれてたことに驚きアイルの顔が引きつる。
最後に三人に向かって笑顔を浮かべた。
「次は俺がダイナーにお邪魔しますね」
丁寧なお辞儀と共にお見送りされて、三人は店を出た。帰りながら語らう。
「まさか変装を見抜かれてたなんて、うう、ますます推しちゃう……好き……!」
「ど、どうしよう正体ばれてるし、こっちに来てくれるって」
「ダイナーに来たら、拐っ……勧誘したいねぇ」
「日比谷くんと一緒に働くなんて、無理無理無理、心臓がもたない」
「アタシ達がおもてなしする時は、あの魅惑のヘソ出しでメロメロに……キャーそれは照れるのだよぉ~」
「どうやっておもてなししたらいいだろう!」
ソフィアの悲鳴に、「そこ?」と笑い合った。