【夢見鳥】卯月浪漫茶房日録~Crossroads~

四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)卯月浪漫茶房制作 真柄 葉納品 2024年05月14日 13時29分34秒

 荒んだ心を洗い流してくれる落ち着いた音楽。
 鼻腔をくすぐる甘い香り。
 落ち着いた雰囲気と美味しい料理に癒しを求めようと、今日も卯月浪漫茶房には沢山の客が訪れていた。

「う、うーん、これはちょっとクセが強すぎるか……?」
「むむむ、そっかー……やっぱり『芋羊羹あん肝ソースがけ』は時代を先取りしすぎた?」

 そんな活気のある店内から一歩奥。
 忙しい勤務の僅かな休憩時間を利用して、アルバス・ロウルとルルト・アーキスは厨房で新メニューの開発に勤しんでいた。

「いや、意外性を追及するのは悪くないと思う。ただ、改良の余地はあると思った。まあ、あくまで私見だ、真に受けなくていい」
「いやいや、アルバスの舌は確かなんだよ。でもなるほど、改良かぁ……やっぱり何人かに試食してもらった方がいいかな。その方が色んな意見も聞けるだろうし、問題点ももっと見えて――――」

 と、試作品を前に二人が試行錯誤していたら、店内から同僚の助けを求める声が聞こえた。

「おっと、そろそろ戻るか」
「OKなんだよ!」

●
「いらっしゃいませ!」

 接客における様々な作業をそつなくこなすアルバスは、仕事の傍ら店内に目を光らせる。
 毎日大盛況のこの店には、当然色々な人々が訪れる。ほとんどの人は店の雰囲気を楽しみ、和気藹々と会話と食事を楽しんでいるのだが、中には”賑やか”をはき違えた客もいる。そんな客に対しアルバスは穏便かつ丁寧に対応する役割も担っていた。

「いらっしゃいませー、ごゆっくり、なんだよ♪」

 そして、もう一人。店内に元気な声が響かせるのはルルトだ。彼もアルバスと同じくキャストとしての役割を完璧にこなしながら、アルバスと連携し”賑やか”なお客様の対応に精を出す。
 気の知れた二人は声を掛け合うことなく、互いの視線で意思を伝えあう。この二人の活躍もあり、店内が大賑わいであるにもかかわらず、その快適さはまったく失われない。

「ようこそお越しくださいました! ご注文はお決まり……って、あれ?」

 忙しさを微塵も表情に出さず笑顔で接客を続けていたルルトだが、注文を取りに行ったテーブルに座っていた人物に驚いた。

「ふふ、噂のお店を見に来たよ。素敵なお店だね」

 眺めていたメニューを閉じ、ルルトに笑顔を向けたのはウォーゼルだった。

「二人とも、来るなら言ってくれればよかったんだよ」
「はは、二人の普段の仕事ぶりを見たくてな。黙ってて悪かった」

 そして、もう一人はパルド。二人はルルトとアルバスの共通の友人である。

「ううん、来てくれて嬉しいんだよ! 今日は食事していくんでしょ?」
「うん、それが第一目的だからね。とはいえ、メニューが魅力的過ぎて迷っているんだよ。ぜんざいもいいし、やっぱりパフェかなとも思う。最近熱いし、かき氷も捨てがたい……ってね」
「うんうん、迷うよね。どれもおいしいから」
「だよね。ちなみにおすすめとかってある?」

 ウォーゼルがメニューを広げながら問いかけると、ルルトはメニューとウォーゼルを交互に見つめ、ある一品を指さした。

「これは……クリーム白玉あんみつと抹茶セット? ああ、なるほど。あんみつだけじゃ甘くなるから、抹茶の苦みで中和させるのか。いいね、それ貰おうかな」
「ふふ、さすがわかってね。そんな鋭いウォーゼルには白玉トッピングおまけしておくんだよ。さてさて、パルドの方はどうかな?」
「……」
「パルド?」
「……え? あ、ああ。オレはそうだな……ウォーゼルと一緒……あ、抹茶は苦いんだっけか。むむむ……なら団子がいいか。あ、いやこの期間限定のピンクケーキってやつもなんだか気になる……」
「うんうん、とっても真剣に選んでもらえて嬉しいんだよ。でもうちはスイーツだけじゃないんだよ?」
「え?」

 少し悪戯な表情を浮かべるルルトは、パルドの見ていたメニューをめくる。

「……干し魚?」
「そそ。うちはスイーツが有名だけど、食事も絶品なんだよ。あ、こういうのは気分じゃなかった?」
「いや、干物は大好物だぞっ!」

 メニューに並ぶおいしそうな料理の数々に、パルドはおやつを前にした猫のように瞳を輝かせている。

「なら、この『干物の食べ比べ定食』なんてどうかな? アジとかサバの青物はもちろん、イカの一夜干しとかカレイの丸干しなんかもあって、食べ応えも十分なんだよ!」

 ルルトがメニューの写真を指さしながら説明するのを、パルドはピンと耳と尻尾を立てて真剣に聞き入っている。

「ふふ、それじゃパルドはこれでいいかな?」

 今にもだだーっと涎でもたらしそうなパルドを見て、自分の口元をつんつんと指でつついたルルトが嬉しそうに問いかける。

「あ、ああ、そうだな。ルルトが進めてくれるのなら、それにしようかな」

 ルルトの仕草に慌てて口元をぬぐったパルドは、視線を外しこくりと頷いた。

「了解、すぐに用意するんだよ! アルバス、15番テーブル様注文はいりましたー!」

 二人の注文を聞き終えたルルトは厨房前で待機していたアルバスに声をかけた。
 ルルトは「少々お待ちくださいっ!」と元気に声をかけると、二人にぺこりと頭を下げテーブルを後にする。

「……ウォーゼル」
「うん?」
「オレ、ここ通う。常連になる」
「ぶっ! まだ食事もしてないのに!?」
「いや、もう絶対うまいに決まってるから」
「ま、まぁ、店の雰囲気は最高だし、いい匂いするし、他のお客さんもみんな笑顔だし間違いないと思うけど、せめて食べてから決めたら?」
「……そうか。うん、そうだな」
「そんなに残念そうにしなくても」

 落ち着けと諭されしゅんと耳を折るパルドにウォーゼルが苦笑していると――――突然、店の穏やかな雰囲気をぶち壊す破砕音が響いた。
 静かだった店内にざわめきが広がっていく。そして、客たちが向ける視線の先には何やらひどい剣幕で捲し立てる一団があった。
 見た目からして異星からの訪問客だろう。その一団は、店のルールをいまいち理解していないのか、傍若無人ともとれる態度でキャストたちに迫っていた。

「はぁ……まったくタイミングの悪い。すまないな、二人とも」

 突如、穏やかな店で起こった異変に二人が釘付けになっていると、いつの間にか傍にいたアルバスがため息混じりに二人に頭を下げた。

「ルルト、他のお客様を頼んだ」
「OK。そっちも気を付けるんだよ」

 アルバスは他のテーブルの対応をしていたルルトに後を託すと、喧騒の只中へと向かう。

「ごめんね、折角来てもらったのに”賑やか”になっちゃって」
「いや、それは構わないんだが……アルバス一人で大丈夫なのか?」
「うん、問題ないんだよ。というか、ボク達(他のキャスト)が行っちゃったら逆に邪魔になるかもだしね」

 ルルトの言葉からは、彼がアルバスに全幅の信頼を寄せていることがわかる。これ以上内情を知らない者がとやかく言うべきではないと、パルドとウォーゼルは騒動の成り行きを静かに見守った。
 ルルトはそんな二人にいつもと変わらない人を惹きつける笑顔を向けると、店内をてきぱきと走り回り、客の動揺をなだめている。その手腕はまさに看板店員と呼ぶにふさわしい。
 おかげで騒然となっていた店内も、落ち着きを取り戻していく――――。

●
「お目汚し失礼した。折角、楽しんでくれていたのにすまないな」
「いやいや、とてもいいものを見せてもらったよ」

 戻ってきたアルバスを、パルドとウォーゼルは小さな拍手で迎えた。

 あれだけ一触即発の雰囲気だった一団が、今や他の客と同じく和やかな雰囲気と笑顔で美味しい食事を摂っている。
 アルバスはルールのわからぬ客を叱責するのではなく、言葉をもって巧みに宥めると、ルールと楽しみ方を簡潔かつ優しく説いた。すると、一団の態度は徐々に軟化。最終的には彼の言葉に従う形で、この店の本当の楽しみ方を知ることになった。

「ルルトもすまなかったな。君に任せてもよかったんだが、つい、な」
「ううん、ボクじゃあんなにうまくいかなかったんだよ。流石アルバス!」
「はは、よく言う」

 ウォーゼル達の食器を下げようとテーブルに来ていたルルトが贈る賛辞に、アルバスは苦笑した。

「ああ、そうだルルト。迷惑ついで――――というわけでもないが、折角だし例のメニューを二人に試してもらったらどうだ?」
「え? でも、アレはまだ試作品だし、お客様にお出しできるレベルには――――」
「だからいいんだよ。なあ、二人とも、まだ時間はあるか?」
「ちょ、ちょっとアルバス!?」

 驚くルルトを横目に、アルバスは二人に裏メニューの開発秘話を話して聞かせた。

「へぇ、面白そうだね。パルドはどう、試してみない?」
「そうだな。あれだけ美味い食事を出してくれるんだ、きっとその新メニューも美味いんだろう。オレとしてはぜひ試してみたいかな」
「だそうだよ。俺もぜひお願いしたいな」
「えっと……ほんとにいいの? 一応スイーツなんだけど、まだレギュラーメニューじゃくてない裏メニューって位置づけなんだよ?」
「裏メニュー、いいじゃないか。いずれ正式なメニューになる可能性のあるものを試食できるなら光栄なことだ」
「俺もパルドと同意見かな。よかったら食べさせてよ。ほら、甘いものは別腹っていうだろ?」
「さっき食べたのも甘いものだったはずだけど……? まったくウォーゼルには一体いくつ別腹があるんだ」
「……あ、あはは。まぁ、それはそれこれはこれってことで」

 テーブルをはさんだ二人のやり取りに、ルルトとアルバスはくすくすと笑う。

「ほらルルト、二人も協力してくれる。お出ししてみろ」
「うーん、そこまで言うなら……。二人ともお願いできる?」

 どこか申し訳なさそうに問いかけるルルトに、二人は力強く頷いた。

 こうして、新たな協力者を得た新メニューが、卯月浪漫茶房に新たな看板メニューに加わる――――かどうかは、また別のお話。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0