砂漠の餓狼
キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2021年01月05日 20時01分01秒
不毛な砂の大地だ。
王国が東、イグノの砂漠、これの付近を抜け妖鬼自治領へと向かう商路は、しばしば『人類の敵』からの襲撃を受けていた。要するに砂賊だ。馬を使う。
王国の商人にそこそこ求心力のある男がいて、彼は賊より襲撃される事を避ける為、商人同士で団結して東へと向かう事を訴えた。
皆で動けば怖く無い、という奴だ。獣の群れに似ている。
原始的対策だがそれだけにこれは確かな効果を発揮して、小規模な盗賊団は大商隊に手出しが出来なくなった。
商道には一定の平和が訪れたかのように見えた。
悠人・ラドルファスはその頃、ある仕事を終え王国東部へとやってきていた。彼が続いて引き受けたのが、この大商隊の護衛だった。
依頼料はさほどに良いものではない。
ただ、
「武器を持ってつっ立ってくれてりゃ良い。そうすりゃ賊どもは手出しをして来ない」
と言われ、ゴールディへ足を伸ばしてみるのも悪く無いか、と思っていた事もあり、引き受ける事に決めた。カカシをしてるだけで金が貰えるなら楽な仕事だ、悪くない。
だが、
「――まず襲われないって話だけど、万一はある。その時は追加料金を貰いたいんだけど、ご了承願えるかな」
黒髪茶瞳の十六歳の少年が淡々と述べる。
「しっかりしとるな若いの」
商団の募兵担当者は幾分か面白く無さそうな顔をしたが、
「ま、良いだろう、その時は働きに応じて追加報酬を出す。いらぬ心配だとは思うがの」
割とあっさりと頷いた。
商人達にとって不幸だったのは、バルバロイの側にも一定の求心力を持った男がいた事であろう。
彼はバラバラでは大商隊の護衛団に太刀打ち出来ぬと判断し、大小の盗賊団に団結を呼びかけた。
普段なら協調などしない賊達だったが、個々では獲物が狩れぬ状況となっては我を張ってもいられない。男のカリスマもあり、続々とその旗下へと集結した。
かくて――イグノ砂漠の商路にて、大商隊と砂漠の大盗賊団が激突する常よりも遥かに大規模な戦いが巻き起こった。
悠人はこの大戦の中に居た。
●
数百にも及ぶ敵味方の人馬が入り乱れている。
馬が嘶き、人が怒号をあげている。
悠人は身を前傾に低く沈め鉄盾を眼前に傾斜させて翳した。突き出された穂先が盾の表面に激突して滑り、火花を散らしてゆく。
甲冑に身を包む少年は盾を授恵者の腕力にものを言わせて払うように振るいながら踏み込み、右手に握った鋼の大剣を一閃した。
頭と口元に長い布を巻いている男が、肩口から袈裟に斬り裂かれ鮮血をぶちまけながら倒れてゆく。
白みがかった茶色の砂が流れ出る液体を吸って、みるみるうちに赤く染まった。
初めは矢戦から始まった戦だった。
悠人は盾を構えて矢を防いでいたが、やがて賊側の騎兵が突撃を開始した。
味方の隊列が崩れ、敵の歩兵が津波の如く押し寄せて来て、たちまちのうちに乱戦になっていた。
「畜生! 奴等、襲って来ない筈じゃなかったのか!」
味方の傭兵が叫んでいる。
彼は槍を振るい一人の賊を突き倒したが、側面より突っ込んできた騎兵がすれ違いざまに馬上より振るった大薙刀の直撃を受け、頭部を砕かれて倒れた。
「ハッハーッ!!」
敵騎兵が哄笑をあげ、血濡れた大薙刀を振りかざし、宙に赤い線を引きながら、そのまま今度は悠人達の方目掛けて突っ込んで来る。
周囲の味方歩兵達は泡を喰ったように逃げ出したが、悠人は逃げずに逆に騎兵へと向かって突っ込んだ。
一瞬で爆発的に加速し砂を蹴り、高々と跳躍する。眩い砂漠の蒼天に輝く陽光を浴びて少年が纏う甲冑とその手に握る大剣が強烈な光を放った。
「――オオッ?!」
敵騎兵が驚愕に目を瞠る。
騎兵というのは通常、真正面へと攻撃する事が難しい。馬の首が邪魔になるからだ。
だから攻撃の意識というのは側面を駆け抜けざまに突くか薙ぎ払うかする事に向いている。
それに普通、長槍兵でもなければ歩兵は逃げる。
だからほぼ真正面の位置になるように刹那の間に飛び込んできた悠人に対し、騎兵は意表を突かれていた。間合いが狂う。
せめて柄で薙ぎ払おうと薙刀を振るうが、弧を描くそれが悠人の身へ届くより前に、宙空の少年が真っ直ぐに突き出した大剣の切っ先が騎兵男の顔面を捉え、突き破った。
顔を砕かれた騎手が鞍から砂上に転がり落ち、乗り手を失った馬が彼方へと駆けてゆく。
悠人は砂の上に着地すると、顎を引いて身を捻った。遠方より唸りをあげて迫り来た矢が、鉄の兜に中り傾斜に滑って表面を削る。火花を巻き起こしながら後方へと抜けてゆく。
衝撃は来たが、矢の貫通は避けられた。問題無い。眉を顰めつつも再び駆け出す。
迫る賊歩兵が剣を鋭く突き出して来る。斜め前方へ踏み込み紙一重ですり抜けるようにかわしざま、大剣を一閃し首を刎ね飛ばす。
「こっ、こいつ、強いぞ?!」
「授恵者だ! 普通の人間の動きじゃねぇ!!」
賊達が悠人を見て口々に叫んだ。
王国が東、イグノの砂漠、これの付近を抜け妖鬼自治領へと向かう商路は、しばしば『人類の敵』からの襲撃を受けていた。要するに砂賊だ。馬を使う。
王国の商人にそこそこ求心力のある男がいて、彼は賊より襲撃される事を避ける為、商人同士で団結して東へと向かう事を訴えた。
皆で動けば怖く無い、という奴だ。獣の群れに似ている。
原始的対策だがそれだけにこれは確かな効果を発揮して、小規模な盗賊団は大商隊に手出しが出来なくなった。
商道には一定の平和が訪れたかのように見えた。
悠人・ラドルファスはその頃、ある仕事を終え王国東部へとやってきていた。彼が続いて引き受けたのが、この大商隊の護衛だった。
依頼料はさほどに良いものではない。
ただ、
「武器を持ってつっ立ってくれてりゃ良い。そうすりゃ賊どもは手出しをして来ない」
と言われ、ゴールディへ足を伸ばしてみるのも悪く無いか、と思っていた事もあり、引き受ける事に決めた。カカシをしてるだけで金が貰えるなら楽な仕事だ、悪くない。
だが、
「――まず襲われないって話だけど、万一はある。その時は追加料金を貰いたいんだけど、ご了承願えるかな」
黒髪茶瞳の十六歳の少年が淡々と述べる。
「しっかりしとるな若いの」
商団の募兵担当者は幾分か面白く無さそうな顔をしたが、
「ま、良いだろう、その時は働きに応じて追加報酬を出す。いらぬ心配だとは思うがの」
割とあっさりと頷いた。
商人達にとって不幸だったのは、バルバロイの側にも一定の求心力を持った男がいた事であろう。
彼はバラバラでは大商隊の護衛団に太刀打ち出来ぬと判断し、大小の盗賊団に団結を呼びかけた。
普段なら協調などしない賊達だったが、個々では獲物が狩れぬ状況となっては我を張ってもいられない。男のカリスマもあり、続々とその旗下へと集結した。
かくて――イグノ砂漠の商路にて、大商隊と砂漠の大盗賊団が激突する常よりも遥かに大規模な戦いが巻き起こった。
悠人はこの大戦の中に居た。
●
数百にも及ぶ敵味方の人馬が入り乱れている。
馬が嘶き、人が怒号をあげている。
悠人は身を前傾に低く沈め鉄盾を眼前に傾斜させて翳した。突き出された穂先が盾の表面に激突して滑り、火花を散らしてゆく。
甲冑に身を包む少年は盾を授恵者の腕力にものを言わせて払うように振るいながら踏み込み、右手に握った鋼の大剣を一閃した。
頭と口元に長い布を巻いている男が、肩口から袈裟に斬り裂かれ鮮血をぶちまけながら倒れてゆく。
白みがかった茶色の砂が流れ出る液体を吸って、みるみるうちに赤く染まった。
初めは矢戦から始まった戦だった。
悠人は盾を構えて矢を防いでいたが、やがて賊側の騎兵が突撃を開始した。
味方の隊列が崩れ、敵の歩兵が津波の如く押し寄せて来て、たちまちのうちに乱戦になっていた。
「畜生! 奴等、襲って来ない筈じゃなかったのか!」
味方の傭兵が叫んでいる。
彼は槍を振るい一人の賊を突き倒したが、側面より突っ込んできた騎兵がすれ違いざまに馬上より振るった大薙刀の直撃を受け、頭部を砕かれて倒れた。
「ハッハーッ!!」
敵騎兵が哄笑をあげ、血濡れた大薙刀を振りかざし、宙に赤い線を引きながら、そのまま今度は悠人達の方目掛けて突っ込んで来る。
周囲の味方歩兵達は泡を喰ったように逃げ出したが、悠人は逃げずに逆に騎兵へと向かって突っ込んだ。
一瞬で爆発的に加速し砂を蹴り、高々と跳躍する。眩い砂漠の蒼天に輝く陽光を浴びて少年が纏う甲冑とその手に握る大剣が強烈な光を放った。
「――オオッ?!」
敵騎兵が驚愕に目を瞠る。
騎兵というのは通常、真正面へと攻撃する事が難しい。馬の首が邪魔になるからだ。
だから攻撃の意識というのは側面を駆け抜けざまに突くか薙ぎ払うかする事に向いている。
それに普通、長槍兵でもなければ歩兵は逃げる。
だからほぼ真正面の位置になるように刹那の間に飛び込んできた悠人に対し、騎兵は意表を突かれていた。間合いが狂う。
せめて柄で薙ぎ払おうと薙刀を振るうが、弧を描くそれが悠人の身へ届くより前に、宙空の少年が真っ直ぐに突き出した大剣の切っ先が騎兵男の顔面を捉え、突き破った。
顔を砕かれた騎手が鞍から砂上に転がり落ち、乗り手を失った馬が彼方へと駆けてゆく。
悠人は砂の上に着地すると、顎を引いて身を捻った。遠方より唸りをあげて迫り来た矢が、鉄の兜に中り傾斜に滑って表面を削る。火花を巻き起こしながら後方へと抜けてゆく。
衝撃は来たが、矢の貫通は避けられた。問題無い。眉を顰めつつも再び駆け出す。
迫る賊歩兵が剣を鋭く突き出して来る。斜め前方へ踏み込み紙一重ですり抜けるようにかわしざま、大剣を一閃し首を刎ね飛ばす。
「こっ、こいつ、強いぞ?!」
「授恵者だ! 普通の人間の動きじゃねぇ!!」
賊達が悠人を見て口々に叫んだ。