桜花支店のおもてなし
四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)The 4th Stage Cafe制作 雪芽泉琉納品 2024年06月05日 09時15分38秒
●
卯月浪漫茶房の桜花支店は郊外にあり、広い敷地を生かした日本庭園と桜が自慢の店。
満開の桜が映し出される池はことの他美しい。
ハーブ(ハーヴィ)は春のお花見特別イベント開催中の桜花支店に、友人の大福が出張していると聞いて遊びに来た。
青空にふわり桜の花弁が舞う。穏やかな春の日。
桜花支店の一角にある桜並木沿いに、流鏑馬のための馬場が用意された。
笙や龍笛の調べと和太鼓の響きが雅を彩る。
ハーブは桟敷席に座って流鏑馬を見物する。通り沿いには三つの的が設置されており、人馬一体となって駆け抜け、騎射で的を射抜くのだ。
間近で見る迫力に目を輝かせていると、粽と一緒にいる大福の姿を見つけた。
「粽~! 今日もよろしくなのだ! みんなに喜んで貰えるように大福、頑張るのだ!」
大福が元気よく相棒に声をかけると、ふさふの尻尾が揺れた。粽もやる気十分なようだ。
弓を片手に粽に跨った。小さく深呼吸をして大福の準備が整った所で粽は駆け出す。
桜吹雪の中、大福と粽は疾走し、的に近づく。矢を手に取り、弓を構え、射る体勢をとる。普段の愛らしい姿から想像もできないほど顔が凛々しい。
自然と弦から矢が離れるように飛ぶ。
タン!
見事、的中。
「大福ー! 格好良いー!」
歓声を浴びても大福と粽に揺るぎはなく、残りの的も真ん中を貫いて駆け抜けた。
流鏑馬の披露を終えて、大福が粽から降りて一呼吸ついた頃、ツインテールを揺らしてハーブが元気よくやってきた。
「すごい、すごーいかっこ良いー!」
「はーぶ! ようこそいらっしゃいませ! なのだ! よかったら、案内するのだ!」
「はいはいっ! 弓の体験してみたいっ」
ハーブは『弓の体験教室』の看板を指差した。大福はこくりと頷いて、体験教室へ友を案内する。
初心者が扱いやすい弓を渡して、ハーブの後ろに立って教える
「弓はここをこう、持って……」
「こ、こうかな?」
「大福が後ろから支えるのだ。……んっ! んんっ! 届かないのだ……!」
「とっ、届かなくても……大丈夫だよ」
剛を煮やした粽が大福を小突く。『自分に乗れ』という視線に、大福は頷き粽に乗って、ハーブの体を一生懸命支えて安定させる。
「大福と粽が手伝ってくれてるしっ……えいっ!」
離した矢は的まで届き、突き刺さった。
「やったー!」
ハーブが嬉しそうにぴょんと飛ぶ。大福も一緒になってぴょんと飛び、粽はゆらりと尻尾を揺らした。
●
桜花支店の庭の一角で、野点が行われていた。
芝生に敷かれた緋毛氈の上で、れんげは正座して茶を立てる。桜の絵が描かれた椀の中を、手首のスナップを効かせて手早く茶筅を動かす。
普段はキッチン担当のれんげも、今日は利き茶コーナーを担当している。
「全部、当てられたら、桜が、もらえます、よ」
「こう見えて結構グルメなんだ。舌には自信があるよ」
ハーブの元気な声に小さく頷いて、れんげはふんわり微笑んで茶椀を置く。茶が綺麗に泡だっている。
「召し上がれ、です」
「わ、良い香り! それに美味しそう。ありがと!」
最初に三杯飲む。次に順番を入れ替えて三杯運ばれてくるので、どれがどれと同じお茶だったか当てることになっている。ハーブは真剣な顔でよく味わい、これだと思った順に茶碗を並べ直した。
「わぁ、全部、当たった! すごい……!」
「ふふっ、当たって嬉しいよ」
れんげは柔らかな微笑を浮かべて立ち上がると、桜餅をお盆に乗せて運んできた。
「これは、ご褒美の……桜餅の食べ比べ、です。地域で違いが、あるの。面白いで、しょう?」
「こんなに違いがあるんだっ!」
ジャポネでも、西と東で味も見た目も変わるらしい。
れんげは桜餅の前で手を合わせてぺこりとお辞儀する。
「最後に、魔法をかけます、ね。桜餅、おいしくおいしくなぁれ」
両手をひらひらと揺らすと、まるで桜の花びらが散っているかのようだ。
「ありがとう。いただきまっす!」
ハーブが嬉しそうに味わっている間に、れんげは筆をとって和紙にさらさらと書きつける。書き終わったら手を振って乾かし、丁寧に折り鶴にする。
「ご馳走様でしたっ!」
「こちらは、お持ち帰り用の、桜茶、です。お家でも、桜を楽しんで、ね」
包に入った菓子箱を渡して、その上に折り鶴を置いた。
「これ、……わたしから、お手紙です」
「わ、手紙まで綺麗! ありがと!」
ハーブは嬉しそうに美味しいお茶とお菓子を味わった。
●
桜花支店に作られた特設舞台へ、これから寸劇が始まると聞いて観客が集まっていた。
「小豆くん、れんげちゃんだけじゃなくて、大福くんも友情出演するって」
「ええー! それは見逃せないよ。あの三人組可愛いんだもん」
客達が口々に語り合う。
曰く、小豆・れんげ・大福が並んで話す姿は「可愛くて癒やされる」と評判で、三人を箱推しするファンも多いとか。
れんげは舞台袖からちらっと客席を見て、不安げにため息をこぼす。
小豆は明るい笑顔でれんげに声をかけた。
「れんげちゃん、大丈夫っピ?」
「緊張、するけど……小豆と一緒、だから、平気……」
「舞台の上でも、ボクが一緒っピ!」
小豆がぎゅっと手を握ると、れんげは表情を和らげた。
(好きピには、笑顔でいてほしいっピ)
れんげへの想いが恋か友情かもわからないけれど、れんげの前ではかっこつけたいお年頃。
脚本・ナレーション・役者・大道具作りと一人四役を小豆は買って出た。小道具の準備から、大道具の最終チェックまでして、役者に声をかけて回る。
「大福くん、準備できたっピ?」
「いつでも大丈夫なのだ! 小豆は大忙しでお疲れ様なのだ」
「これくらい大丈夫っピ! 裏方の方が向いてるっピ!」
小豆は代々NINJAの家系だけど、戦闘よりも忍具を作ったり隠密活動の方が得意だ。舞台の裏方仕事も楽しんでいる。全員の準備が整ったのを確認して、幕が降りた舞台に出てお客様の前で一礼。
「『桜花支店大ピンチ~事件は桜の香り』が始まるっピ!」
拍手する観客の中にハーブがいた。小豆の姿を見てきゃっきゃとはしゃぐ。
「ワオ、ニンジャだ!」
ぐるりと観客を見回してから、小豆は朗々と語り出した。
「みんな仲良し桜花支店。新作スイーツでおもてなしの準備中、事件が起きたっピ!」
小豆は語り終えてぺこりと頭を下げると舞台の脇に待機する。幕が上がり、桜花支店が描かれた背景が現れる。舞台の真ん中に紙を持ったれんげが立っていた。
「これ、で、完成……なの……」
小豆が舞台の中央へぽてぽて歩いて登場。
「れんげちゃん! 新作スイーツレシピできたっピ?」
「はい」
れんげと小豆がほんわか仲良しおしゃべりしていると、黒い頭巾を被った泥棒役が抜き足差し足忍び寄る。
ピューッと風が吹き、れんげの手にあった紙が飛ぶ。
「あ……」
飛んだ紙をキャッチして、泥棒が走り出す。
「逃がさないっピ! 追うっピ!」
「う、うん」
小豆が手を引いて、れんげと一緒に泥棒を追いかける。
勢い余って小豆は水たまりにすってんころりん。観客の笑いを誘う。
れんげが手を差し伸べて微笑む。
「小豆は、一人じゃないの。わたしが、一緒……なの……」
「れんげちゃん!」
二人の微笑ましい友情に、観客もほろり。
その隙に逃げ出そうとした泥棒の前に、岩が落ちてきた。大慌てで逃げ出すと小豆とれんげに鉢合わせ。
「待て〜っピ! 新作レシピを返せピ!」
必死に手を伸ばす小豆。れんげは立ち止まって、両手のひらを広げる。すると舞台の上に桜の花吹雪が巻き起こる。
れんげ得意の忍術「桜吹雪・恋時雨」だ。
桜吹雪に泥棒が足止めされている間に、小豆は観客席へ向けて声を上げる。
「桜花支店の大ピンチ、一緒に泥棒を捕まえてくれる人〜、おいでっピ!」
観客へ手招きするように呼びかける。観客席で見ていたハーブがパッと立ち上がる。
「僕もNINJAになりたいな!」
舞台前まで歩いて行くと、手裏剣をシュシュシュと投げる仕草をした。
「拙者に任せるでゴザル。ニンニン」
何かの受け売りらしい。
小豆はハーブを舞台の上に引っ張り上げ、懐から丸い玉を取り出しこっそり囁いた。
「小豆特製煙玉っピ。すぐ煙は消えるから、安心して投げるっピ」
「投げればいいんだね。いっくよー」
ハーブが泥棒に玉を投げつけると、もくもくと煙が出る。泥棒が困ったように立ち止まった所で、小豆、れんげ、ハーブに囲まれて逃げ場がない。
そこへやってきたのは役人の大福。粽に乗る姿は凛々しい。
小豆はオーバーリアクションでアピールする。
「泥棒っピ! 捕まえるっピ!」
「神妙にお縄につけい! なのだ!」
「アオーンン、ヒヒン」
人馬一体となって駆け抜け、おもちゃの弓で泥棒を射る。
きゅぽん! 吸盤が泥棒の頭に吸い付き撃沈。見事捕まえた。
レシピを取り戻した小豆は、ハーブや観客に向かって声を上げる。
「ありがとうっピ! みんなのおかげで桜花支店と新作スイーツの平和は護られたっピ!」
その言葉が締めとなって舞台の幕が降りる。キャスト達が幕の前に立つと盛大な拍手が起こった。
その姿を見て、小豆は嬉しそうに目を細める。
(お客さん喜んでくれてるっピ! 大成功だっピ~!)
●
「皆で護った新作スイーツ、ぜひ召し上がって下さいっピ~!」
寸劇の終了後、小豆は観客達にお菓子を配って回る。小さく可愛らしい桜のまかろんに、客達は大喜び。味の感想を聞いて回ったが、概ね好評だった。
(ちょっと普段とは違うお菓子に挑戦してみたっピ!)
舞台裏に桜花支店三人組とハーブも呼んでハイタッチ。
「お疲れ様っピ~! みんなで食べるっピ!」
れんげにお茶を淹れてもらって、桜のマカロンをもぐもぐ。
「美味しい!」
ハーブが嬉しそうに目を輝かせると、れんげはおっとり微笑んで、小豆と大福は嬉しそうに跳ねる。
仲良し桜花支店三人組と助っ人の活躍で、お客様はみんな笑顔で帰っていった。
卯月浪漫茶房の桜花支店は郊外にあり、広い敷地を生かした日本庭園と桜が自慢の店。
満開の桜が映し出される池はことの他美しい。
ハーブ(ハーヴィ)は春のお花見特別イベント開催中の桜花支店に、友人の大福が出張していると聞いて遊びに来た。
青空にふわり桜の花弁が舞う。穏やかな春の日。
桜花支店の一角にある桜並木沿いに、流鏑馬のための馬場が用意された。
笙や龍笛の調べと和太鼓の響きが雅を彩る。
ハーブは桟敷席に座って流鏑馬を見物する。通り沿いには三つの的が設置されており、人馬一体となって駆け抜け、騎射で的を射抜くのだ。
間近で見る迫力に目を輝かせていると、粽と一緒にいる大福の姿を見つけた。
「粽~! 今日もよろしくなのだ! みんなに喜んで貰えるように大福、頑張るのだ!」
大福が元気よく相棒に声をかけると、ふさふの尻尾が揺れた。粽もやる気十分なようだ。
弓を片手に粽に跨った。小さく深呼吸をして大福の準備が整った所で粽は駆け出す。
桜吹雪の中、大福と粽は疾走し、的に近づく。矢を手に取り、弓を構え、射る体勢をとる。普段の愛らしい姿から想像もできないほど顔が凛々しい。
自然と弦から矢が離れるように飛ぶ。
タン!
見事、的中。
「大福ー! 格好良いー!」
歓声を浴びても大福と粽に揺るぎはなく、残りの的も真ん中を貫いて駆け抜けた。
流鏑馬の披露を終えて、大福が粽から降りて一呼吸ついた頃、ツインテールを揺らしてハーブが元気よくやってきた。
「すごい、すごーいかっこ良いー!」
「はーぶ! ようこそいらっしゃいませ! なのだ! よかったら、案内するのだ!」
「はいはいっ! 弓の体験してみたいっ」
ハーブは『弓の体験教室』の看板を指差した。大福はこくりと頷いて、体験教室へ友を案内する。
初心者が扱いやすい弓を渡して、ハーブの後ろに立って教える
「弓はここをこう、持って……」
「こ、こうかな?」
「大福が後ろから支えるのだ。……んっ! んんっ! 届かないのだ……!」
「とっ、届かなくても……大丈夫だよ」
剛を煮やした粽が大福を小突く。『自分に乗れ』という視線に、大福は頷き粽に乗って、ハーブの体を一生懸命支えて安定させる。
「大福と粽が手伝ってくれてるしっ……えいっ!」
離した矢は的まで届き、突き刺さった。
「やったー!」
ハーブが嬉しそうにぴょんと飛ぶ。大福も一緒になってぴょんと飛び、粽はゆらりと尻尾を揺らした。
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桜花支店の庭の一角で、野点が行われていた。
芝生に敷かれた緋毛氈の上で、れんげは正座して茶を立てる。桜の絵が描かれた椀の中を、手首のスナップを効かせて手早く茶筅を動かす。
普段はキッチン担当のれんげも、今日は利き茶コーナーを担当している。
「全部、当てられたら、桜が、もらえます、よ」
「こう見えて結構グルメなんだ。舌には自信があるよ」
ハーブの元気な声に小さく頷いて、れんげはふんわり微笑んで茶椀を置く。茶が綺麗に泡だっている。
「召し上がれ、です」
「わ、良い香り! それに美味しそう。ありがと!」
最初に三杯飲む。次に順番を入れ替えて三杯運ばれてくるので、どれがどれと同じお茶だったか当てることになっている。ハーブは真剣な顔でよく味わい、これだと思った順に茶碗を並べ直した。
「わぁ、全部、当たった! すごい……!」
「ふふっ、当たって嬉しいよ」
れんげは柔らかな微笑を浮かべて立ち上がると、桜餅をお盆に乗せて運んできた。
「これは、ご褒美の……桜餅の食べ比べ、です。地域で違いが、あるの。面白いで、しょう?」
「こんなに違いがあるんだっ!」
ジャポネでも、西と東で味も見た目も変わるらしい。
れんげは桜餅の前で手を合わせてぺこりとお辞儀する。
「最後に、魔法をかけます、ね。桜餅、おいしくおいしくなぁれ」
両手をひらひらと揺らすと、まるで桜の花びらが散っているかのようだ。
「ありがとう。いただきまっす!」
ハーブが嬉しそうに味わっている間に、れんげは筆をとって和紙にさらさらと書きつける。書き終わったら手を振って乾かし、丁寧に折り鶴にする。
「ご馳走様でしたっ!」
「こちらは、お持ち帰り用の、桜茶、です。お家でも、桜を楽しんで、ね」
包に入った菓子箱を渡して、その上に折り鶴を置いた。
「これ、……わたしから、お手紙です」
「わ、手紙まで綺麗! ありがと!」
ハーブは嬉しそうに美味しいお茶とお菓子を味わった。
●
桜花支店に作られた特設舞台へ、これから寸劇が始まると聞いて観客が集まっていた。
「小豆くん、れんげちゃんだけじゃなくて、大福くんも友情出演するって」
「ええー! それは見逃せないよ。あの三人組可愛いんだもん」
客達が口々に語り合う。
曰く、小豆・れんげ・大福が並んで話す姿は「可愛くて癒やされる」と評判で、三人を箱推しするファンも多いとか。
れんげは舞台袖からちらっと客席を見て、不安げにため息をこぼす。
小豆は明るい笑顔でれんげに声をかけた。
「れんげちゃん、大丈夫っピ?」
「緊張、するけど……小豆と一緒、だから、平気……」
「舞台の上でも、ボクが一緒っピ!」
小豆がぎゅっと手を握ると、れんげは表情を和らげた。
(好きピには、笑顔でいてほしいっピ)
れんげへの想いが恋か友情かもわからないけれど、れんげの前ではかっこつけたいお年頃。
脚本・ナレーション・役者・大道具作りと一人四役を小豆は買って出た。小道具の準備から、大道具の最終チェックまでして、役者に声をかけて回る。
「大福くん、準備できたっピ?」
「いつでも大丈夫なのだ! 小豆は大忙しでお疲れ様なのだ」
「これくらい大丈夫っピ! 裏方の方が向いてるっピ!」
小豆は代々NINJAの家系だけど、戦闘よりも忍具を作ったり隠密活動の方が得意だ。舞台の裏方仕事も楽しんでいる。全員の準備が整ったのを確認して、幕が降りた舞台に出てお客様の前で一礼。
「『桜花支店大ピンチ~事件は桜の香り』が始まるっピ!」
拍手する観客の中にハーブがいた。小豆の姿を見てきゃっきゃとはしゃぐ。
「ワオ、ニンジャだ!」
ぐるりと観客を見回してから、小豆は朗々と語り出した。
「みんな仲良し桜花支店。新作スイーツでおもてなしの準備中、事件が起きたっピ!」
小豆は語り終えてぺこりと頭を下げると舞台の脇に待機する。幕が上がり、桜花支店が描かれた背景が現れる。舞台の真ん中に紙を持ったれんげが立っていた。
「これ、で、完成……なの……」
小豆が舞台の中央へぽてぽて歩いて登場。
「れんげちゃん! 新作スイーツレシピできたっピ?」
「はい」
れんげと小豆がほんわか仲良しおしゃべりしていると、黒い頭巾を被った泥棒役が抜き足差し足忍び寄る。
ピューッと風が吹き、れんげの手にあった紙が飛ぶ。
「あ……」
飛んだ紙をキャッチして、泥棒が走り出す。
「逃がさないっピ! 追うっピ!」
「う、うん」
小豆が手を引いて、れんげと一緒に泥棒を追いかける。
勢い余って小豆は水たまりにすってんころりん。観客の笑いを誘う。
れんげが手を差し伸べて微笑む。
「小豆は、一人じゃないの。わたしが、一緒……なの……」
「れんげちゃん!」
二人の微笑ましい友情に、観客もほろり。
その隙に逃げ出そうとした泥棒の前に、岩が落ちてきた。大慌てで逃げ出すと小豆とれんげに鉢合わせ。
「待て〜っピ! 新作レシピを返せピ!」
必死に手を伸ばす小豆。れんげは立ち止まって、両手のひらを広げる。すると舞台の上に桜の花吹雪が巻き起こる。
れんげ得意の忍術「桜吹雪・恋時雨」だ。
桜吹雪に泥棒が足止めされている間に、小豆は観客席へ向けて声を上げる。
「桜花支店の大ピンチ、一緒に泥棒を捕まえてくれる人〜、おいでっピ!」
観客へ手招きするように呼びかける。観客席で見ていたハーブがパッと立ち上がる。
「僕もNINJAになりたいな!」
舞台前まで歩いて行くと、手裏剣をシュシュシュと投げる仕草をした。
「拙者に任せるでゴザル。ニンニン」
何かの受け売りらしい。
小豆はハーブを舞台の上に引っ張り上げ、懐から丸い玉を取り出しこっそり囁いた。
「小豆特製煙玉っピ。すぐ煙は消えるから、安心して投げるっピ」
「投げればいいんだね。いっくよー」
ハーブが泥棒に玉を投げつけると、もくもくと煙が出る。泥棒が困ったように立ち止まった所で、小豆、れんげ、ハーブに囲まれて逃げ場がない。
そこへやってきたのは役人の大福。粽に乗る姿は凛々しい。
小豆はオーバーリアクションでアピールする。
「泥棒っピ! 捕まえるっピ!」
「神妙にお縄につけい! なのだ!」
「アオーンン、ヒヒン」
人馬一体となって駆け抜け、おもちゃの弓で泥棒を射る。
きゅぽん! 吸盤が泥棒の頭に吸い付き撃沈。見事捕まえた。
レシピを取り戻した小豆は、ハーブや観客に向かって声を上げる。
「ありがとうっピ! みんなのおかげで桜花支店と新作スイーツの平和は護られたっピ!」
その言葉が締めとなって舞台の幕が降りる。キャスト達が幕の前に立つと盛大な拍手が起こった。
その姿を見て、小豆は嬉しそうに目を細める。
(お客さん喜んでくれてるっピ! 大成功だっピ~!)
●
「皆で護った新作スイーツ、ぜひ召し上がって下さいっピ~!」
寸劇の終了後、小豆は観客達にお菓子を配って回る。小さく可愛らしい桜のまかろんに、客達は大喜び。味の感想を聞いて回ったが、概ね好評だった。
(ちょっと普段とは違うお菓子に挑戦してみたっピ!)
舞台裏に桜花支店三人組とハーブも呼んでハイタッチ。
「お疲れ様っピ~! みんなで食べるっピ!」
れんげにお茶を淹れてもらって、桜のマカロンをもぐもぐ。
「美味しい!」
ハーブが嬉しそうに目を輝かせると、れんげはおっとり微笑んで、小豆と大福は嬉しそうに跳ねる。
仲良し桜花支店三人組と助っ人の活躍で、お客様はみんな笑顔で帰っていった。