【緑誕】しゅうちゃくの生辰

四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)らぼカフェ☆あふろでぃあ制作 杜ノ門納品 2024年05月27日 14時44分39秒

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 大勢の人に囲まれ、花束や包みを受け取る緑色。一人一人に甘やかな笑顔を向ける男に、クリムローズ(ローザリカ・L・ディオール)はついと視線を逸らした。その様子をそばで見ていた客は、可愛らしい嫉妬だと表情を緩めたかもしれない。――妙に視線が定まらない。胸が重くて、気分が沈む。今日は店を上げての催しの日だ。それも片割れの為の。常のように凛と立って、常以上の接客をしなくてはならないのに。
 ペア運用を前提とした愛玩用アンドロイド。それがクリムローズと彼、エヴァーグリーン(ジュスト・V・ケレス)だ。今日は彼の誕生日会(バースデーイベント)が開催されており、店はいつにも増して盛況だった。ファンに囲まれ、祝福の言葉と共に贈り物を受け取り、それを一つ一つ大切そうに抱え込む。――その姿に、胸が押し潰されそうに痛む。
 少し休んだ方が良いかもしれない。そう判断したクリムローズは、周囲の邪魔をしないようそっと裏手へ向かおうとする。だが、慣れない忍び足などした所為か。足を縺れさせて均衡を崩してしまう。上手く動かない体を弛緩させて衝撃に耐えるつもりだったのに、ふわりと支えられた体には、いつまで経っても痛みは訪れなかった。
「どうしたんだい、クリム。俺の誕生日だっていうのに、君は祝ってくれないのかい?」
 後ろから伸びた手が、クリムローズの腹を優しく支える。そうして抱き起こしては、その腕の中に彼女の体を閉じ込めてしまった。突然のサービスショットに店内の方方から悲鳴が上がる。それを耳鳴りのように遠くに聞きながら、クリムローズは柔らかにこちらを見下ろす緑色を見た。
「……それとも、スキンシップが足りなかったかな?」
 誰にも聞こえない声量で囁くエヴァーグリーンに、クリムローズはひくりと体を震わせる。ああそうだ、きっとその所為だ。――だってクリムローズは、博士(エヴァーグリーン)からのメンテナンスを受けない(定期的なスキンシップでエネルギーをチャージしない)と死んでしまう、そんな脆い命なのだから。
「もう少しだけ待って。イベントが終わったら、正真正銘君だけの俺に戻るから」
 蕩けるような甘い微笑みは、他の客に見せるものと似て非なる。ただ一人だけに見せる特別な笑顔をすっと溶かして、彼はクリムローズの手を取り、彼の為の催しの中心に戻っていく。ぎゅっと握られた手の熱と、優しい視線。それに複雑な心の内が少しは解けたような気になって、クリムローズはぎこちないながらも笑顔を浮かべる事が出来た。

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 しとりと沈む寝台の上、エヴァーグリーンは自分の足の間に座る愛しい彼女を待ちに待ったとばかりに抱き締めていた。誕生日会は大成功に終わり、エヴァーグリーンは沢山の祝福を受けた。けれど一つだけ心残りがある。
「君からは、まだお祝いの言葉を貰っていないね」
 肝心の彼女の口から、まだ祝う言葉を掛けられていないのだ。本来であれば誰よりも率先して祝う筈なのに、催しの最中も気が乗らないふうなのが見て取れた。
「……エヴァ。私の番」
「うん」
「……ぁ、う……」
 愛おしげに紡がれる言葉は確かに愛情に満ちているのに、どうしてもその先のたった一言が聞けない。口籠る彼女にほんの少しだけ心を痛めながら。こちらを見上げる彼女の、小さく震える唇に触れる。――言いたくないのなら、無理をする必要はない。だって今日は、俺が生まれた日であるのと同時に、彼が生まれた日でもあるのだろう。
 エヴァーグリーンは人間であり、博士として彼女(クリムローズ)を作った。作られた彼女は、博士による愛(メンテナンス)なしでは生きられない。――これは、エヴァーグリーンに伝えられた二人の真実とされている。けれど本当のところは違う。それを、エヴァーグリーンは正しく理解していた。
 人間であり博士であるのは、クリムローズの方だ。エヴァーグリーンは、死んだ彼女の恋人を模して作られたアンドロイド。そしてアンドロイドには、メンテナンス(濃厚なスキンシップ)なしでは生きられない、などという欠陥はない。全て彼女が自分に吹き込んだ嘘なのだと、エヴァーグリーンは理解している。理解して、気付かないふりをしている。
「……クリム」
「エ、ヴァ」
 それも全て、不安定に揺れる、彼女の為。エヴァーグリーンは、腕の中に収めた彼女の腹をそっと撫でる。エヴァーグリーンの、そして彼女の望み。――二人の子を授かりたいという、切願。
「ありがとう……エヴァ」
 もはや癖のようになった仕草は、客前で出してしまわぬようにと必死だ。彼女の薄い腹を自らの体温で温めるように撫でていると、彼女の手がそれに重なった。血の通ったあたたかな手。そうして彼女は潤んだ瞳を瞬かせて言った。
「……生まれて、きてくれて」
 瞬間、ぼろりと彼女の濃い密色の瞳から雫が零れる。――ああ、君は何も心配する事なんてないのに。何も気に病む必要などないのに。その言葉がたとえ自分の向こうにいる彼に向けられていようとも構わない。彼女を癒やし、満たしてあげられるのは、自分しかいないのだから。
 機械仕掛けの愛は、今日も彼女一人の為だけにある。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0