果てなき、研究の旅路
キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2024年04月30日 13時05分35秒
●果てなき、研究の旅路
知識と名を受け継いだ何代目かのストレガである【ストレガ・L・リベルガストラ】。
彼女は自身のブラックデス顧問へ就任した祝いも兼ね、旅行に出かけていた。
目的地である【シャルガネ】はまだ遠いが、ゆっくりとした旅路を楽しむのも悪くはない。
「ストレガ様、今日のお宿が見えてきましたよ」
馬車でくつろいでいたストレガに宿が見えたことを知らせるのは、助手である【レゼル】だ。
彼も立派な青年に育っていたが、まだまだストレガから見れば“少年”なのは変わりない。
すやすやと寝息を立てて眠っているストレガを背負い、レゼルは馬車を降りると宿の中へと入っていく。
宿の中は落ちついた雰囲気で、特に華美な装飾は施されていない一般的な宿だ。
耳の傍でストレガの穏やかな寝息を聞きながら、レゼルは宿へのチェックインを済ませた。
階段を上がって荷物とストレガを運んでいる時、柔らかな質量を背中に感じた。レゼルは自分の体温が上昇するのに気が付く。
(平常心、平常心だ……当たってるだけ、当たってるだけだから!)
彼は羞恥心がないストレガと生活する中で、このようなことはよくあるのだ。
風呂から出て、一糸纏わぬ姿で部屋を歩くのは日常茶飯事。暑い日は特に。
更に言えば、ストレガは寝る時に衣服をつけない主義である。要は、全て丸出しという事だ。
そんな状況で、彼は“抱き枕”としてストレガに抱かれ、気を失うように寝に入るのが常だった。毎夜、何故気を失うかについては“研究と飽くなき探求心”のせいとだけ言っておこう。
まあ、それはそれとして。
師匠である前に、魅力的な女性として傍にいるストレガの様々な姿に、見慣れることは結局訪れていない。
部屋の鍵を使って、レゼルは宿の部屋へと入る。
部屋の中はそこそこの広さであり、適当に荷物を纏めて置くとストレガをベッドに寝かせた。
「昨日も、今日の時間を作る為にギリギリまでお仕事をなさってましたもんね。ゆっくりお休みください」
そう言ってレゼルはストレガの頭を優しく撫でる。
すると、そこでストレガはゆっくりと目を開け、微笑みながらレゼルを見た。
「……夜這いなのだー?」
「よ、よばっ!? ち、違いますよー!? 介抱していただけですってば!」
顔を真っ赤にして慌てるレゼルを見て、によによとストレガは上半身を起こして笑っている。
レゼルはと言えば、耳まで真っ赤にしストレガの顔を見れない程に恥ずかしがっているようだ。
ストレガはこうして、よくレゼルをからかって遊ぶことが多い。反応がとても可愛いのだとか。
ぐっと伸びをするストレガの胸がたゆんっと揺れる。中々の質量があるそれはある意味、暴力ではないだろうか。
「今更、何を恥ずかしがっているのだ? 風呂も共に入るし、寝る時もいっしょなのだ。それに……」
「あああ、それ以上は言わないでくださいっ、恥ずか死んでしまいますから!」
耳を塞いであうあう行っているレゼルを見てストレガは、ふふっと笑った。
こんなレゼルを見ていると、日頃の疲れなどどこかへ行ってしまう。実に不思議な物だ。
「起きたらお腹が減ったのだ。夕食にするのだ。行くぞ、少年」
「は、はいっ! ストレガ様!」
ストレガはレゼルを伴って宿の食堂へと向かう。
食堂は宿泊客で賑わっており、酒盛りをしている者、悩み相談をしている者、寝ている者と様々だった。
適当な席に着き、ストレガとレゼルはメニューを広げる。
「ふむ、ここの宿は変わったメニューを置いているのだ。他では見ない物がまあまあある」
「へぇ……確かに知らないメニューが多いですね」
メニューには鋼鉄サソリのスープや鉄尾蝶の焼肉など、何やら鉄分を多く含んでいそうなラインナップだった。
そんな鉄分祭りなメニューから、ストレガは鉄塊牛のステーキを選び、レゼルは鉄筋豚炒めを選ぶ。
しばらくして、運ばれて来た鉄塊牛のステーキは、熱い鎧のような皮膚に守られた重厚なステーキであった。
ストレガはそれを丁寧に剥がし、ナイフで肉を切り分けると一口、ぱくっと食べる。
「これは……思った以上に甘みが強く、肉らしいステーキなのだ。ステーキを楽しんでいる、という印象が強いのだー」
「こっちは、甘辛のタレと野菜の組み合わせが絶妙ですね。他国の生姜焼きって料理に近い気がします」
それから二人は互いの料理を一口食べさせ合ったりして、食の見聞を広めていく。生活もこれすなわち研究である。
お腹がいっぱいになった二人は部屋に戻り、部屋備え付けの風呂場へと入った。勿論、いつも通り一緒だ。
バスタオルなどつけないストレガの姿に、目のやり場に困りながらレゼルは体を洗っていく。使うのはストレガお手製のスライム石鹸だ。
「では、綺麗になった所で湯をいただくのだ! ここの湯はどんなものなのだー」
少々うきうきしながら、ストレガは湯船へと身体を鎮める。ぷかりと、質量が浮かんだ。
「ふぅ……これは、炭酸なのだ? 直接ではないにしろ、何かしら考えて使用しているようなのだ。ふむ、興味深い」
それからレゼルはストレガに呼ばれ……“情熱と探求の地平線”を見たのだった。
つやつやしたストレガは良き風呂であったのだ、といってベッドにダイブする。彼女の身体をふかふかの布団が受け止めた。
もそもそと潜り込み、彼女は布団を広げレゼルを誘う。そう、彼には抱き枕としての役割が残っているのだ。
「もう眠いのだー。ほら、早くするのだー?」
「は、はいっ……失礼、しますぅっ」
いつも恥ずかしそうにレゼルは布団に入る。なぜなら、ストレガは何も着ていないからだ。
ぎゅっと優しく抱き締められ、レゼルは真っ赤になって恥ずかしがっている。
(柔らかで、いい匂いがぁあ、今日はいつもと風呂が違うからか、匂いも変わって新鮮度がぁあ!?)
そうこうしているうちに、レゼルは“飽くなき探求心と学問的な研究のススメ”の結果、意識を失うように眠りについていくのであった。
翌朝、レゼルが目を覚ますとストレガが朝の瞑想を行っている所だった。
朝日に照らされるストレガの姿は、荘厳というか一種の神々しさすら感じる。
声をかけるのも憚られるその姿を眺めながら、レゼルは安らかな二度寝に落ちていく。
それからどのくらいか経った後。
揺さぶられる感覚で、レゼルは目を覚ます。
「少年、そろそろチェックアウトの時間なのだ。出発なのだー」
「え、もうそんな時間でしたか。はい、今、起きますっ」
ストレガに連れられ、レゼルは彼女と共に宿を出る。
二人はのんびりと街中を歩きながら、乗合馬車の待機場所へと歩いていた。
ふと、レゼルは気になったことをストレガに聞いてみる。
「そういえば、ストレガ様。どうして、乗合馬車を使うのですか? ストレガ様ならシャルガネまで馬車を出すこともできたはずでは?」
「できなくはないが……こうして景色を見て、少年と歩む道も楽しい物なのだ。それに、乗合馬車ならば不測の事態にも出会ってもっと楽しいのだ、きっと」
話しながら、適当な出店で鶏肉の焼き串を買ってストレガは頬張る。
レゼルも一本受け取ってはむはむと焼き串を食べた。
「それに、こうしてその土地の食にも触れられる。こういった経験や思い出も大切なのだ」
焼き串を食べ終わる頃には、二人は乗合馬車の所へと到着した。
ある程度の前金を払い、ストレガとレゼルは乗合馬車に乗り込む。
馬車には商人風の男や旅行中の夫妻、旅人の男性、子連れの親子など様々な者たちが乗っていた。
端の方へ身を寄せ、レゼルとストレガも馬車の中に腰を下ろす。
「発車するぜ。お客さん方、揺れにはお気をつけを!」
がたがたと馬車に揺られ、ストレガはレゼルの方に身を預けて、うとうとしている。
何となくレゼルは馬車の外を眺めていたのだが……崖側の山道を登っている最中、馬車ががたりと音をたてて止まった。
「ひぃいい!? ヤベエのがいるぅ!?」
店主の悲鳴を聞いて跳び起きたストレガはレゼルと共に馬車の先頭に向かった。
すると道を塞ぐように大きな鉄の鎧を纏った巨大サソリが一体、鎮座している。
鉄サソリは尻尾を持ち上げ、ハサミを鳴らしながらこちらへにじり寄ってきているようだ。
「おい、御者! さっさと逃げないか!」
客の一人が怒鳴りつける。だが御者の男は完全に狼狽していた。
「む、無理だっ! ここは道幅が狭くて馬車を反転させられない! うわああ、もう終わりだぁあ!」
ストレガは鉄サソリの方をじっと眺め、観察している。流石といっていいのか、狼狽えた様子はない。
「ふむ、傷が多いのだ。どうやら別の魔物から逃げてここに迷い込んだと見えるのだ」
鉄サソリの生息地は少し離れており、あれは本来ここに出るものではない。不意の遭遇というわけだ。
ストレガは教鞭を構えると、立ち上がる。
「さて少年、食後の運動としゃれこむのだ!」
「はいっ、ストレガ様」
先に鉄サソリの前に躍り出たストレガについて、レゼルも杖と刃が組み合わさった武器を握ると、馬車の外に出た。
「ギチチチ……」
鉄サソリは警戒しているのか、足を止めてゆっくりと尻尾を振り上げている。
「あれは防御が高いのだ。物理よりも魔法、わかっているな、少年」
「ええ、お任せを。行きますよ、氷嵐ッ!」
レゼルが杖を突き出すと、鉄サソリの周囲にエーテルが収束、氷の嵐が吹き荒れる。氷の礫が鉄サソリを打った。
鉄サソリは氷の礫に阻まれ、上手く動けないでいるようだ。
それでも何か反撃をしようと思ったのだろう、やぶれかぶれに尻尾の先の毒針を飛ばした。
だがレゼルはそれを杖に備え付けられた剣部分で、かきんっと打ち払う。
「まだ行きますよ、メテオライトッ!」
鉄サソリの頭上から、光の雨が降り注ぐ。その鉄の身体を貫き、容赦のない光の雨は無数の穴を穿つ。
よろよろと立ち上がった鉄サソリに向け、ストレガは教鞭を振り下ろす。
「これで……終わりなのだ」
ストレガの教鞭から暗く赤い炎が巻き起こった。それは鉄サソリに纏わりつく様に絡みつき、その身を焼き焦がす。熱にも似たそのエーテルの呪いは、ストレガが伝え聞くに、遥か昔に存在した魔女の消えぬ炎に似るようだ。
真っ黒に焦げた鉄サソリは、ずしゃりと地に崩れ落ち完全に生命活動を停止した。その瞬間、拍手が巻き起こる。
「すっげ! なんだ、あんたら!?」
「おお、鉄サソリがああも簡単に……」
乗り合わせていた馬車の客たちや御者に感謝され、レゼルは少々恥ずかしそうだ。
ストレガはというと、焦げた鉄サソリを解体、使える部位の選定を始めていた。相変わらずである。
しばらくして鉄サソリの分解と、乗り合わせていた商人へ使わない部位の売却をすませると馬車は再び動き出した。
「思わぬところで素材が手に入ったのだ。うむ、やはりゆっくりとした旅行も悪くないのだ」
「いきなりで驚きましたけどね、鉄サソリ」
ストレガは袋から取り出した焼きイカをかじり、もう一本取り出すとレゼルに渡す。レゼルもそれをかじった。海の香りが口に広がる。
「不測の事態にも対応できてこそ、なのだ。研究の旅路というのは安全とは言い切れない故に」
「自分の身は自分で守らればならない。そして、可能であるならば他の者を守る、ですよね」
「うむ。とはいえ、頼られ過ぎでも問題はあるが……場合によるのだ」
座っているレゼルの膝に頭を投げ出し、ストレガはのんびりと馬車の中から見える空を眺めた。高い空の上を鳥が数羽、飛んでいる。
それからいくつかの町を経由して、目的地であるシャルガネへと二人は到着した。
和風の門構えをくぐり、ストレガの案内で件の宿へと足を運ぶ。
さくっとチェックインを済ませて二人は離れの部屋に向かった。奮発して良い部屋を所望したのはストレガだ。
荷物を部屋に置くと、早速備え付けの露天風呂へと向かう。
「こ、これは圧巻なのだ……!」
ストレガの目の前に広がるのは、大きな露天風呂とその周りには花びらを散らす木々の数々。岩や草などどれをとっても、露天風呂の良さを際立たせる一因となっているのがよくわかった。
身体をしっかり洗ってから、花びらが浮かぶ露天風呂へストレガはゆっくりと入っていく。肩までゆったりと浸かると、体の芯まで温かさが伝わる気がした。
「ふぅ……やはりシャルガネの風呂は格段と良い物なのだ。今後の参考にしなくては」
温まりながらもストレガは周りを観察している。それは【浴場施設を建設の際、どのような環境が好まれるだろう】という研究の為だった。
そんなストレガの所にレゼルがお盆に酒とつまみを乗せてやってくる。腰にはタオルを巻いていた。
「こういう風呂に入りながらのお酒も良い物ですね」
湯に浸かったレゼルとストレガは互いに盃に酒を注ぐと、乾杯する。
「花見酒というのも趣があるのだー」
しばらく花見酒を楽しんだストレガは、風呂から上がって食事を待つ間にレゼルへマッサージを頼んだ。
桃のオイルを使った丁寧なマッサージだ。勿論、柔らかい背中や腰などにレゼルがあわあわと動揺していたのは言うまでもないが。
「もっと力を入れて、しっかり揉むのだー。別にどこを触っても気にしないのだ」
「そうは、言ってもですね! 色々と目のやり場ァァ!」
「ふふ、少年はいつ見ても、面白いのだー」
わたわたしながらもマッサージをするレゼルをストレガは楽しそうに眺めていた。
マッサージを終えて、少しくつろいでいると食事が運ばれてくる。
海の幸に山の幸、刺身から牛のステーキまで。様々な趣向を凝らした料理が所狭しと並ぶ。
それらに舌鼓を打ちつつ、お猪口に注いだ芋焼酎でストレガとレゼルは乾杯する。
「月を肴に、夜桜月見酒とは……風情があるのだ」
「贅沢ですよね、これは。なんだか、いつもより美味しく感じる気がしますよ」
食事を勧めながら、二人は浴場建設についての話に花を咲かせた。ああでもない、こうでもないと案が湧いてくる。
「露店であれば、湿気を気にせずともいい。なら低木や花が咲く樹木が使えるのだ」
「そうですね、湿気はこもらないですし。壁や床にも装飾は欲しいですよね」
ふと、ストレガは壁や床に絵を描くことを思いつく。
「ならば、水に強い塗料や色の付いた石材で描くのもありかもなのだ」
「それなら賑やかになりそうでいいですね!」
話は家庭用の浴槽に移る。一般家庭にも浴槽が設置できれば、という仮定の話だ。
「小さな浴槽ならば、水で満たした後、熱した岩を入れて温める方法もあるのだ」
「それだったら薪をくべる為につきっきりでなくともいいので、少しは楽そうですね」
そうなると課題は上下水道の存在である。これらがあるなしで、話は幾分か変わってくる。
「上下水道。素材は劣化と整備を考えれば石材・陶器が安定なのだ」
「それが妥当だと思います。コスト的にも。後は、公共事情として安定すれば――」
そんな話をしながら夕飯の時間は過ぎていった。
消灯し、いつものようにストレガはレゼルを抱き枕にして眠りにつこうとしている。疲れが出たのか、レゼルもいつもよりは、うとうとしているようだ。
「……これからはもっと色んな所に行くだろう。一緒に、研究の旅路がこれからも続く……途中で、音を上げるのは許さないのだ」
「ストレガ様に拾われてから、元よりそのつもりですよ。どこまでも、お供しますからね」
二人はそんな話をしながら、ゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
知識と名を受け継いだ何代目かのストレガである【ストレガ・L・リベルガストラ】。
彼女は自身のブラックデス顧問へ就任した祝いも兼ね、旅行に出かけていた。
目的地である【シャルガネ】はまだ遠いが、ゆっくりとした旅路を楽しむのも悪くはない。
「ストレガ様、今日のお宿が見えてきましたよ」
馬車でくつろいでいたストレガに宿が見えたことを知らせるのは、助手である【レゼル】だ。
彼も立派な青年に育っていたが、まだまだストレガから見れば“少年”なのは変わりない。
すやすやと寝息を立てて眠っているストレガを背負い、レゼルは馬車を降りると宿の中へと入っていく。
宿の中は落ちついた雰囲気で、特に華美な装飾は施されていない一般的な宿だ。
耳の傍でストレガの穏やかな寝息を聞きながら、レゼルは宿へのチェックインを済ませた。
階段を上がって荷物とストレガを運んでいる時、柔らかな質量を背中に感じた。レゼルは自分の体温が上昇するのに気が付く。
(平常心、平常心だ……当たってるだけ、当たってるだけだから!)
彼は羞恥心がないストレガと生活する中で、このようなことはよくあるのだ。
風呂から出て、一糸纏わぬ姿で部屋を歩くのは日常茶飯事。暑い日は特に。
更に言えば、ストレガは寝る時に衣服をつけない主義である。要は、全て丸出しという事だ。
そんな状況で、彼は“抱き枕”としてストレガに抱かれ、気を失うように寝に入るのが常だった。毎夜、何故気を失うかについては“研究と飽くなき探求心”のせいとだけ言っておこう。
まあ、それはそれとして。
師匠である前に、魅力的な女性として傍にいるストレガの様々な姿に、見慣れることは結局訪れていない。
部屋の鍵を使って、レゼルは宿の部屋へと入る。
部屋の中はそこそこの広さであり、適当に荷物を纏めて置くとストレガをベッドに寝かせた。
「昨日も、今日の時間を作る為にギリギリまでお仕事をなさってましたもんね。ゆっくりお休みください」
そう言ってレゼルはストレガの頭を優しく撫でる。
すると、そこでストレガはゆっくりと目を開け、微笑みながらレゼルを見た。
「……夜這いなのだー?」
「よ、よばっ!? ち、違いますよー!? 介抱していただけですってば!」
顔を真っ赤にして慌てるレゼルを見て、によによとストレガは上半身を起こして笑っている。
レゼルはと言えば、耳まで真っ赤にしストレガの顔を見れない程に恥ずかしがっているようだ。
ストレガはこうして、よくレゼルをからかって遊ぶことが多い。反応がとても可愛いのだとか。
ぐっと伸びをするストレガの胸がたゆんっと揺れる。中々の質量があるそれはある意味、暴力ではないだろうか。
「今更、何を恥ずかしがっているのだ? 風呂も共に入るし、寝る時もいっしょなのだ。それに……」
「あああ、それ以上は言わないでくださいっ、恥ずか死んでしまいますから!」
耳を塞いであうあう行っているレゼルを見てストレガは、ふふっと笑った。
こんなレゼルを見ていると、日頃の疲れなどどこかへ行ってしまう。実に不思議な物だ。
「起きたらお腹が減ったのだ。夕食にするのだ。行くぞ、少年」
「は、はいっ! ストレガ様!」
ストレガはレゼルを伴って宿の食堂へと向かう。
食堂は宿泊客で賑わっており、酒盛りをしている者、悩み相談をしている者、寝ている者と様々だった。
適当な席に着き、ストレガとレゼルはメニューを広げる。
「ふむ、ここの宿は変わったメニューを置いているのだ。他では見ない物がまあまあある」
「へぇ……確かに知らないメニューが多いですね」
メニューには鋼鉄サソリのスープや鉄尾蝶の焼肉など、何やら鉄分を多く含んでいそうなラインナップだった。
そんな鉄分祭りなメニューから、ストレガは鉄塊牛のステーキを選び、レゼルは鉄筋豚炒めを選ぶ。
しばらくして、運ばれて来た鉄塊牛のステーキは、熱い鎧のような皮膚に守られた重厚なステーキであった。
ストレガはそれを丁寧に剥がし、ナイフで肉を切り分けると一口、ぱくっと食べる。
「これは……思った以上に甘みが強く、肉らしいステーキなのだ。ステーキを楽しんでいる、という印象が強いのだー」
「こっちは、甘辛のタレと野菜の組み合わせが絶妙ですね。他国の生姜焼きって料理に近い気がします」
それから二人は互いの料理を一口食べさせ合ったりして、食の見聞を広めていく。生活もこれすなわち研究である。
お腹がいっぱいになった二人は部屋に戻り、部屋備え付けの風呂場へと入った。勿論、いつも通り一緒だ。
バスタオルなどつけないストレガの姿に、目のやり場に困りながらレゼルは体を洗っていく。使うのはストレガお手製のスライム石鹸だ。
「では、綺麗になった所で湯をいただくのだ! ここの湯はどんなものなのだー」
少々うきうきしながら、ストレガは湯船へと身体を鎮める。ぷかりと、質量が浮かんだ。
「ふぅ……これは、炭酸なのだ? 直接ではないにしろ、何かしら考えて使用しているようなのだ。ふむ、興味深い」
それからレゼルはストレガに呼ばれ……“情熱と探求の地平線”を見たのだった。
つやつやしたストレガは良き風呂であったのだ、といってベッドにダイブする。彼女の身体をふかふかの布団が受け止めた。
もそもそと潜り込み、彼女は布団を広げレゼルを誘う。そう、彼には抱き枕としての役割が残っているのだ。
「もう眠いのだー。ほら、早くするのだー?」
「は、はいっ……失礼、しますぅっ」
いつも恥ずかしそうにレゼルは布団に入る。なぜなら、ストレガは何も着ていないからだ。
ぎゅっと優しく抱き締められ、レゼルは真っ赤になって恥ずかしがっている。
(柔らかで、いい匂いがぁあ、今日はいつもと風呂が違うからか、匂いも変わって新鮮度がぁあ!?)
そうこうしているうちに、レゼルは“飽くなき探求心と学問的な研究のススメ”の結果、意識を失うように眠りについていくのであった。
翌朝、レゼルが目を覚ますとストレガが朝の瞑想を行っている所だった。
朝日に照らされるストレガの姿は、荘厳というか一種の神々しさすら感じる。
声をかけるのも憚られるその姿を眺めながら、レゼルは安らかな二度寝に落ちていく。
それからどのくらいか経った後。
揺さぶられる感覚で、レゼルは目を覚ます。
「少年、そろそろチェックアウトの時間なのだ。出発なのだー」
「え、もうそんな時間でしたか。はい、今、起きますっ」
ストレガに連れられ、レゼルは彼女と共に宿を出る。
二人はのんびりと街中を歩きながら、乗合馬車の待機場所へと歩いていた。
ふと、レゼルは気になったことをストレガに聞いてみる。
「そういえば、ストレガ様。どうして、乗合馬車を使うのですか? ストレガ様ならシャルガネまで馬車を出すこともできたはずでは?」
「できなくはないが……こうして景色を見て、少年と歩む道も楽しい物なのだ。それに、乗合馬車ならば不測の事態にも出会ってもっと楽しいのだ、きっと」
話しながら、適当な出店で鶏肉の焼き串を買ってストレガは頬張る。
レゼルも一本受け取ってはむはむと焼き串を食べた。
「それに、こうしてその土地の食にも触れられる。こういった経験や思い出も大切なのだ」
焼き串を食べ終わる頃には、二人は乗合馬車の所へと到着した。
ある程度の前金を払い、ストレガとレゼルは乗合馬車に乗り込む。
馬車には商人風の男や旅行中の夫妻、旅人の男性、子連れの親子など様々な者たちが乗っていた。
端の方へ身を寄せ、レゼルとストレガも馬車の中に腰を下ろす。
「発車するぜ。お客さん方、揺れにはお気をつけを!」
がたがたと馬車に揺られ、ストレガはレゼルの方に身を預けて、うとうとしている。
何となくレゼルは馬車の外を眺めていたのだが……崖側の山道を登っている最中、馬車ががたりと音をたてて止まった。
「ひぃいい!? ヤベエのがいるぅ!?」
店主の悲鳴を聞いて跳び起きたストレガはレゼルと共に馬車の先頭に向かった。
すると道を塞ぐように大きな鉄の鎧を纏った巨大サソリが一体、鎮座している。
鉄サソリは尻尾を持ち上げ、ハサミを鳴らしながらこちらへにじり寄ってきているようだ。
「おい、御者! さっさと逃げないか!」
客の一人が怒鳴りつける。だが御者の男は完全に狼狽していた。
「む、無理だっ! ここは道幅が狭くて馬車を反転させられない! うわああ、もう終わりだぁあ!」
ストレガは鉄サソリの方をじっと眺め、観察している。流石といっていいのか、狼狽えた様子はない。
「ふむ、傷が多いのだ。どうやら別の魔物から逃げてここに迷い込んだと見えるのだ」
鉄サソリの生息地は少し離れており、あれは本来ここに出るものではない。不意の遭遇というわけだ。
ストレガは教鞭を構えると、立ち上がる。
「さて少年、食後の運動としゃれこむのだ!」
「はいっ、ストレガ様」
先に鉄サソリの前に躍り出たストレガについて、レゼルも杖と刃が組み合わさった武器を握ると、馬車の外に出た。
「ギチチチ……」
鉄サソリは警戒しているのか、足を止めてゆっくりと尻尾を振り上げている。
「あれは防御が高いのだ。物理よりも魔法、わかっているな、少年」
「ええ、お任せを。行きますよ、氷嵐ッ!」
レゼルが杖を突き出すと、鉄サソリの周囲にエーテルが収束、氷の嵐が吹き荒れる。氷の礫が鉄サソリを打った。
鉄サソリは氷の礫に阻まれ、上手く動けないでいるようだ。
それでも何か反撃をしようと思ったのだろう、やぶれかぶれに尻尾の先の毒針を飛ばした。
だがレゼルはそれを杖に備え付けられた剣部分で、かきんっと打ち払う。
「まだ行きますよ、メテオライトッ!」
鉄サソリの頭上から、光の雨が降り注ぐ。その鉄の身体を貫き、容赦のない光の雨は無数の穴を穿つ。
よろよろと立ち上がった鉄サソリに向け、ストレガは教鞭を振り下ろす。
「これで……終わりなのだ」
ストレガの教鞭から暗く赤い炎が巻き起こった。それは鉄サソリに纏わりつく様に絡みつき、その身を焼き焦がす。熱にも似たそのエーテルの呪いは、ストレガが伝え聞くに、遥か昔に存在した魔女の消えぬ炎に似るようだ。
真っ黒に焦げた鉄サソリは、ずしゃりと地に崩れ落ち完全に生命活動を停止した。その瞬間、拍手が巻き起こる。
「すっげ! なんだ、あんたら!?」
「おお、鉄サソリがああも簡単に……」
乗り合わせていた馬車の客たちや御者に感謝され、レゼルは少々恥ずかしそうだ。
ストレガはというと、焦げた鉄サソリを解体、使える部位の選定を始めていた。相変わらずである。
しばらくして鉄サソリの分解と、乗り合わせていた商人へ使わない部位の売却をすませると馬車は再び動き出した。
「思わぬところで素材が手に入ったのだ。うむ、やはりゆっくりとした旅行も悪くないのだ」
「いきなりで驚きましたけどね、鉄サソリ」
ストレガは袋から取り出した焼きイカをかじり、もう一本取り出すとレゼルに渡す。レゼルもそれをかじった。海の香りが口に広がる。
「不測の事態にも対応できてこそ、なのだ。研究の旅路というのは安全とは言い切れない故に」
「自分の身は自分で守らればならない。そして、可能であるならば他の者を守る、ですよね」
「うむ。とはいえ、頼られ過ぎでも問題はあるが……場合によるのだ」
座っているレゼルの膝に頭を投げ出し、ストレガはのんびりと馬車の中から見える空を眺めた。高い空の上を鳥が数羽、飛んでいる。
それからいくつかの町を経由して、目的地であるシャルガネへと二人は到着した。
和風の門構えをくぐり、ストレガの案内で件の宿へと足を運ぶ。
さくっとチェックインを済ませて二人は離れの部屋に向かった。奮発して良い部屋を所望したのはストレガだ。
荷物を部屋に置くと、早速備え付けの露天風呂へと向かう。
「こ、これは圧巻なのだ……!」
ストレガの目の前に広がるのは、大きな露天風呂とその周りには花びらを散らす木々の数々。岩や草などどれをとっても、露天風呂の良さを際立たせる一因となっているのがよくわかった。
身体をしっかり洗ってから、花びらが浮かぶ露天風呂へストレガはゆっくりと入っていく。肩までゆったりと浸かると、体の芯まで温かさが伝わる気がした。
「ふぅ……やはりシャルガネの風呂は格段と良い物なのだ。今後の参考にしなくては」
温まりながらもストレガは周りを観察している。それは【浴場施設を建設の際、どのような環境が好まれるだろう】という研究の為だった。
そんなストレガの所にレゼルがお盆に酒とつまみを乗せてやってくる。腰にはタオルを巻いていた。
「こういう風呂に入りながらのお酒も良い物ですね」
湯に浸かったレゼルとストレガは互いに盃に酒を注ぐと、乾杯する。
「花見酒というのも趣があるのだー」
しばらく花見酒を楽しんだストレガは、風呂から上がって食事を待つ間にレゼルへマッサージを頼んだ。
桃のオイルを使った丁寧なマッサージだ。勿論、柔らかい背中や腰などにレゼルがあわあわと動揺していたのは言うまでもないが。
「もっと力を入れて、しっかり揉むのだー。別にどこを触っても気にしないのだ」
「そうは、言ってもですね! 色々と目のやり場ァァ!」
「ふふ、少年はいつ見ても、面白いのだー」
わたわたしながらもマッサージをするレゼルをストレガは楽しそうに眺めていた。
マッサージを終えて、少しくつろいでいると食事が運ばれてくる。
海の幸に山の幸、刺身から牛のステーキまで。様々な趣向を凝らした料理が所狭しと並ぶ。
それらに舌鼓を打ちつつ、お猪口に注いだ芋焼酎でストレガとレゼルは乾杯する。
「月を肴に、夜桜月見酒とは……風情があるのだ」
「贅沢ですよね、これは。なんだか、いつもより美味しく感じる気がしますよ」
食事を勧めながら、二人は浴場建設についての話に花を咲かせた。ああでもない、こうでもないと案が湧いてくる。
「露店であれば、湿気を気にせずともいい。なら低木や花が咲く樹木が使えるのだ」
「そうですね、湿気はこもらないですし。壁や床にも装飾は欲しいですよね」
ふと、ストレガは壁や床に絵を描くことを思いつく。
「ならば、水に強い塗料や色の付いた石材で描くのもありかもなのだ」
「それなら賑やかになりそうでいいですね!」
話は家庭用の浴槽に移る。一般家庭にも浴槽が設置できれば、という仮定の話だ。
「小さな浴槽ならば、水で満たした後、熱した岩を入れて温める方法もあるのだ」
「それだったら薪をくべる為につきっきりでなくともいいので、少しは楽そうですね」
そうなると課題は上下水道の存在である。これらがあるなしで、話は幾分か変わってくる。
「上下水道。素材は劣化と整備を考えれば石材・陶器が安定なのだ」
「それが妥当だと思います。コスト的にも。後は、公共事情として安定すれば――」
そんな話をしながら夕飯の時間は過ぎていった。
消灯し、いつものようにストレガはレゼルを抱き枕にして眠りにつこうとしている。疲れが出たのか、レゼルもいつもよりは、うとうとしているようだ。
「……これからはもっと色んな所に行くだろう。一緒に、研究の旅路がこれからも続く……途中で、音を上げるのは許さないのだ」
「ストレガ様に拾われてから、元よりそのつもりですよ。どこまでも、お供しますからね」
二人はそんな話をしながら、ゆっくりと眠りに落ちていくのだった。