【オフ逢】次はお店でお会いしましょう
四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)卯月浪漫茶房制作 夕惑まひる納品 2024年05月06日 09時38分27秒
●
「次のオフの日、空いてるっピ?」
大福が小豆に声をかけられたのは、休みを3日後に控えた日の閉店後のことだ。小豆の後ろには同僚のれんげがいて、淡い微笑みで大福の返事を待っている。
「空いてるのだ」
「やったっピ! 良ければボクやれんげちゃんと、お花見を兼ねてピクニックに行かないっピ? 大福くんやちまきんに、満開の桜を見せたいっピ!」
「どう……?」
「楽しそうなのだ」
傍らの相棒を見れば、もふもふの尻尾がふわふわと嬉し気に揺れている。どうやら相棒も乗り気のご様子。
「是非なのだ!」
●
日頃の行いが良いからだろうか。当日はぺっかぺかの良い天気。
「晴れて良かったっピ!」
「ピクニック日和、ね。……嬉しい、な」
よっぽど楽しみにしていたのだろうか、小豆のテンションは普段店で会う時に比べて数段高い。れんげも嬉しそうに顔をほころばせていた。2人のこんな様子を見られただけでも来た甲斐があったのだ……と、今日を楽しみにしていた大福の心も一層弾む。
春から夏に変わりゆく空は、春特有ののっぺりとした青から澄み渡る青へと様子を変えている。雲ひとつないそれは3人の心境を映し出しているかのようで。
――けれど、現実の3人の行き先には、空とは真逆に暗雲が立ち込めようとしていた。
●
大福を守るかのように行儀よく隣を歩いていた粽の耳と鼻がピクッと動いた。それとほぼ同時、大福が可愛らしい口元を歪め、相棒を見やる。
「? 大福く……」
「粽、やっぱりつけられてるのだ?」
「……っ」
どうしたの? と続けようとしたれんげの問いかけは、物騒な言葉に途中で打ち切られた。
つけられている?
「え……、ええ……っ」
「尾行されてるっピ? 全然気が付かなかったっピ!」
1人と1頭の様子から、れんげと小豆も多分何かがあると察していたのだが……まさかの尾行。楽しいお出かけに突如降ってきた爆弾に、3人は顔を見合わせる。
どうして尾行などしてくるのだろう。もしかして3人のファンか? いや、今まで何度か休日にファンの子に声をかけられたことがあったが、こんな風に尾行されたことはなかった。当然だ、ファンならば普通に声をかければいいだけの話なのだから。れんげも小豆も大福も、そうやって街中で声をかけてきたファンを無下にすることはない。
――もしかして、用があるのは3人の裏の顔の方なのだろうか。
背筋を駆けのぼる緊張感。それを表に出さぬように笑顔を貼り付け、何気ない会話を交わしながら、さりげなく道を曲がって人通りも障害物も少ない道へ。大福と粽が嗅ぎ取った気配は、その後を着かず離れずの様子でついてくる。
そのまま10m、20m、30m――
次の瞬間、3人は同時に振り返った。
「わっ」
尾行していた人物の方は、まさか3人が振り返るとは思っていなかったのだろう。慌てて建物の影に隠れようとするが、生憎ここは人通りも障害物も少ない道。結局隠れる場所は見つけられず、胡乱気な3対の視線を真っ向から浴びてエヘッと笑って誤魔化すことに。
「やだー、見つかっちゃった~」
それは20代半ばのどこにでもいそうな女性。そして3人全員が知った顔だ。――れんげや小豆が勤め、大福が期間限定で応援にきている卯月浪漫茶房 桜花支店の常連客。
「見覚えのある顔なのだ。2人のファンなのだ?」
「毎日来てやたら触ってくるお客さんだっピ! もしやスパイだっピ!?」
「いやいやスパイだなんて。私は他のカフェに浮気なんかしないもんッ」
「……。じゃあ、どうして尾行してきたっピ?」
「え? だって~、せっかく箱で押してる3人を見かけたからさー。お休みの日はどう過ごしてるのか知りたくなるでしょ?」
「……」
小豆と大福、2人の戸惑いの視線が宙で絡み合う。どうやら裏の顔に用があったというわけではなく、純粋にキャストとしての3人を好きでいてくれるお客様らしい。――が。
「大丈夫大丈夫、勿論3人の邪魔はしないから! 私のことは背景だと思って!」
(こ、このひと、ずっとついてくるつもりっピー!? / ついてくるつもりなのだ!)
まさかの「この後も尾行しますよ」宣言に、唖然とする小豆と大福である。コソコソ後をつけて来る時点で、もしもスパイじゃなくてファンだったらややこしいタイプの人なんだろうなって思ってましたけどォーーー!!
「あ、あのっ」
――と。唖然とする2人の後ろから、れんげが踏み出した。
おとなしく控えめで押しにも弱いれんげは、ストーカーさんの存在に戸惑い、おどおどと友人達の背中に隠れるだけだった。
けれど、彼女はれんげだけでなく友人達のプライベートまで無遠慮に暴こうとしている。仲良しの2人に危機が迫っているというのに、このまま後ろに隠れているわけにはいかない。立ち向かわなければ。
「あの、えっと……今日は、プライベート、なので……」
「知ってるよ!」
「小豆と、大福くん、は、……だめ、なの」
「うんうん、だから邪魔はしないから! 私は単に、箱で推してる3人が楽しく休日を過ごしてるところを見て楽しみたいだけだから」
(は、話が通じないタイプの人……!)
れんげが勇気を振り絞って放った言葉は、残念なことにストーカーさんには全く伝わらなかった。
冷や汗をダラダラに流したれんげが小豆を見る。戸惑う小豆が大福に視線を移して、大福が粽に困った顔を向けて。
ウォウ! と、粽が一声吠えた。それを合図に、立ち竦んでいた3人がキャストの仮面を脱ぎ捨てる。
「えっ」
女とれんげを分断するかのように、薄桃色の花びらが舞い上がる。驚きにバランスを崩して尻もちをついた女の足元、ころり転がってきた玉が次の瞬間勢いよく煙を吹きだした。
「えええええ!?」
瞬く間に視界は白に覆われ、何も見えない。思わず顔を覆った女の耳が拾い上げたのは、トスットスッと何かが刺さる音、ただそれだけ。
「も~びっくりした。れんげちゃーん」
やがて視界は鮮やかな色を取り戻し始めて。ドキドキする心臓を押さえ、つい先程まで一番近くにいたれんげに向けて手を伸ばす。けれどその手が掴んだのは、明らかにれんげではない、モフッという感触の何か。
「え、あれ?」
先程まで確かにそこにいたれんげは、ほんの数十秒のうちに店舗の制服を着たれんげ……のぬいぐるみに姿を変えていた。慌てて見回すが、小豆や大福、そして粽の姿もない。
「どこ行っちゃったの!? え? 足音とかしなかったよね?」
女が矢によって地面に縫い付けられたれんげの名刺や、”毎度ありがとうございます。これからもどうぞご贔屓に”と酷い癖字で書かれた桜柄の和紙を見つけるのは、10秒ほど経ってからのことである。
●
明るい空の下を、3人と1匹は弾むように歩く。
あの場所から既に随分と離れている。今から慌てて探しても、もう見つけることは不可能だろう。国防の一翼である彼らの技術をもってすれば、あの程度の客を撒くことなど造作もない。
「なかなかクセの強いお客様だったのだ」
「そう、ね……。今度はお店で、会えると良い、ね」
オフの日まで追い回されるのは困るけれど、ファンでいてくれるのは純粋にありがたい。キャストと客として節度のある付き合いが出来たらいいなと思う。
「じゃあ改めて……おでかけ、続き、しよう?」
れんげの花のような微笑みが零れる。それを受け止めて、小豆や大福も顔を見合わせて微笑んだ。
「楽しいピクニックにするっピ!」
「次のオフの日、空いてるっピ?」
大福が小豆に声をかけられたのは、休みを3日後に控えた日の閉店後のことだ。小豆の後ろには同僚のれんげがいて、淡い微笑みで大福の返事を待っている。
「空いてるのだ」
「やったっピ! 良ければボクやれんげちゃんと、お花見を兼ねてピクニックに行かないっピ? 大福くんやちまきんに、満開の桜を見せたいっピ!」
「どう……?」
「楽しそうなのだ」
傍らの相棒を見れば、もふもふの尻尾がふわふわと嬉し気に揺れている。どうやら相棒も乗り気のご様子。
「是非なのだ!」
●
日頃の行いが良いからだろうか。当日はぺっかぺかの良い天気。
「晴れて良かったっピ!」
「ピクニック日和、ね。……嬉しい、な」
よっぽど楽しみにしていたのだろうか、小豆のテンションは普段店で会う時に比べて数段高い。れんげも嬉しそうに顔をほころばせていた。2人のこんな様子を見られただけでも来た甲斐があったのだ……と、今日を楽しみにしていた大福の心も一層弾む。
春から夏に変わりゆく空は、春特有ののっぺりとした青から澄み渡る青へと様子を変えている。雲ひとつないそれは3人の心境を映し出しているかのようで。
――けれど、現実の3人の行き先には、空とは真逆に暗雲が立ち込めようとしていた。
●
大福を守るかのように行儀よく隣を歩いていた粽の耳と鼻がピクッと動いた。それとほぼ同時、大福が可愛らしい口元を歪め、相棒を見やる。
「? 大福く……」
「粽、やっぱりつけられてるのだ?」
「……っ」
どうしたの? と続けようとしたれんげの問いかけは、物騒な言葉に途中で打ち切られた。
つけられている?
「え……、ええ……っ」
「尾行されてるっピ? 全然気が付かなかったっピ!」
1人と1頭の様子から、れんげと小豆も多分何かがあると察していたのだが……まさかの尾行。楽しいお出かけに突如降ってきた爆弾に、3人は顔を見合わせる。
どうして尾行などしてくるのだろう。もしかして3人のファンか? いや、今まで何度か休日にファンの子に声をかけられたことがあったが、こんな風に尾行されたことはなかった。当然だ、ファンならば普通に声をかければいいだけの話なのだから。れんげも小豆も大福も、そうやって街中で声をかけてきたファンを無下にすることはない。
――もしかして、用があるのは3人の裏の顔の方なのだろうか。
背筋を駆けのぼる緊張感。それを表に出さぬように笑顔を貼り付け、何気ない会話を交わしながら、さりげなく道を曲がって人通りも障害物も少ない道へ。大福と粽が嗅ぎ取った気配は、その後を着かず離れずの様子でついてくる。
そのまま10m、20m、30m――
次の瞬間、3人は同時に振り返った。
「わっ」
尾行していた人物の方は、まさか3人が振り返るとは思っていなかったのだろう。慌てて建物の影に隠れようとするが、生憎ここは人通りも障害物も少ない道。結局隠れる場所は見つけられず、胡乱気な3対の視線を真っ向から浴びてエヘッと笑って誤魔化すことに。
「やだー、見つかっちゃった~」
それは20代半ばのどこにでもいそうな女性。そして3人全員が知った顔だ。――れんげや小豆が勤め、大福が期間限定で応援にきている卯月浪漫茶房 桜花支店の常連客。
「見覚えのある顔なのだ。2人のファンなのだ?」
「毎日来てやたら触ってくるお客さんだっピ! もしやスパイだっピ!?」
「いやいやスパイだなんて。私は他のカフェに浮気なんかしないもんッ」
「……。じゃあ、どうして尾行してきたっピ?」
「え? だって~、せっかく箱で押してる3人を見かけたからさー。お休みの日はどう過ごしてるのか知りたくなるでしょ?」
「……」
小豆と大福、2人の戸惑いの視線が宙で絡み合う。どうやら裏の顔に用があったというわけではなく、純粋にキャストとしての3人を好きでいてくれるお客様らしい。――が。
「大丈夫大丈夫、勿論3人の邪魔はしないから! 私のことは背景だと思って!」
(こ、このひと、ずっとついてくるつもりっピー!? / ついてくるつもりなのだ!)
まさかの「この後も尾行しますよ」宣言に、唖然とする小豆と大福である。コソコソ後をつけて来る時点で、もしもスパイじゃなくてファンだったらややこしいタイプの人なんだろうなって思ってましたけどォーーー!!
「あ、あのっ」
――と。唖然とする2人の後ろから、れんげが踏み出した。
おとなしく控えめで押しにも弱いれんげは、ストーカーさんの存在に戸惑い、おどおどと友人達の背中に隠れるだけだった。
けれど、彼女はれんげだけでなく友人達のプライベートまで無遠慮に暴こうとしている。仲良しの2人に危機が迫っているというのに、このまま後ろに隠れているわけにはいかない。立ち向かわなければ。
「あの、えっと……今日は、プライベート、なので……」
「知ってるよ!」
「小豆と、大福くん、は、……だめ、なの」
「うんうん、だから邪魔はしないから! 私は単に、箱で推してる3人が楽しく休日を過ごしてるところを見て楽しみたいだけだから」
(は、話が通じないタイプの人……!)
れんげが勇気を振り絞って放った言葉は、残念なことにストーカーさんには全く伝わらなかった。
冷や汗をダラダラに流したれんげが小豆を見る。戸惑う小豆が大福に視線を移して、大福が粽に困った顔を向けて。
ウォウ! と、粽が一声吠えた。それを合図に、立ち竦んでいた3人がキャストの仮面を脱ぎ捨てる。
「えっ」
女とれんげを分断するかのように、薄桃色の花びらが舞い上がる。驚きにバランスを崩して尻もちをついた女の足元、ころり転がってきた玉が次の瞬間勢いよく煙を吹きだした。
「えええええ!?」
瞬く間に視界は白に覆われ、何も見えない。思わず顔を覆った女の耳が拾い上げたのは、トスットスッと何かが刺さる音、ただそれだけ。
「も~びっくりした。れんげちゃーん」
やがて視界は鮮やかな色を取り戻し始めて。ドキドキする心臓を押さえ、つい先程まで一番近くにいたれんげに向けて手を伸ばす。けれどその手が掴んだのは、明らかにれんげではない、モフッという感触の何か。
「え、あれ?」
先程まで確かにそこにいたれんげは、ほんの数十秒のうちに店舗の制服を着たれんげ……のぬいぐるみに姿を変えていた。慌てて見回すが、小豆や大福、そして粽の姿もない。
「どこ行っちゃったの!? え? 足音とかしなかったよね?」
女が矢によって地面に縫い付けられたれんげの名刺や、”毎度ありがとうございます。これからもどうぞご贔屓に”と酷い癖字で書かれた桜柄の和紙を見つけるのは、10秒ほど経ってからのことである。
●
明るい空の下を、3人と1匹は弾むように歩く。
あの場所から既に随分と離れている。今から慌てて探しても、もう見つけることは不可能だろう。国防の一翼である彼らの技術をもってすれば、あの程度の客を撒くことなど造作もない。
「なかなかクセの強いお客様だったのだ」
「そう、ね……。今度はお店で、会えると良い、ね」
オフの日まで追い回されるのは困るけれど、ファンでいてくれるのは純粋にありがたい。キャストと客として節度のある付き合いが出来たらいいなと思う。
「じゃあ改めて……おでかけ、続き、しよう?」
れんげの花のような微笑みが零れる。それを受け止めて、小豆や大福も顔を見合わせて微笑んだ。
「楽しいピクニックにするっピ!」