少女を救うは食の極み、辿り着くはまだ見ぬ世界

キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2021年01月04日 23時10分49秒

「なあ、お嬢ちゃん。なんだってこんなもんがいつも必要なんだ? 儀式とかするタイプには見えないしな」
 そう言ってアルマ・ヴァレンタインに大ぶりの何かの塊を渡す猟師は不思議そうな顔をする。
 それもそのはず。彼が渡した塊は食べられるとはいえ『魔物の内臓』だからである。
 魔物の目や内臓などの特殊な部位は手に入りやすさで言えば授恵者や腕のいい猟師へ頼む事で入手自体はさほど難しくはない代物だ。
 だがゲテモノ食いと言われる類のものの為に薬物研究の為や儀式材料に使われるのが主であり、食すのは一般的ではないと言っていいだろう。
 アルマは馴染みの猟師から魔物の内臓を受け取ると笑顔で言葉を返す。
「ボク前に依頼でしくじちゃった事があってね……その時、気づいたんだ、彼らも他と変わらない、ううん、むしろもっと美味しい食材だっていう事に」
 昔語りを始めた彼女は目をきらきらと輝かせており、それはまぎれもない純真な笑顔そのものであった。

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「あはは……ちょっとミスっちゃったなぁ。食料の計算、ちゃんとしたのに」

 木の洞に身を隠し雨宿りをするアルマはぐうぐうとなるお腹をさすり、食料が入っていた袋を悲しそうな顔で見る。袋の中には食材の欠片すら残っていない
 彼女はある依頼の為に山へ入りその依頼を達成したものの、帰りの道程で食材を切らしてしまったのだ。
 狩りをして食材を得ようにも生憎の雨であり、小柄で小さな彼女では豪雨の中で獲物を追いかけるのは厳しかった。
 雨が止むのを待とうと木の洞に身を隠したまではよかったが雨脚はどんどんと強くなるばかりである。
 次第に水かさが増し彼女のいる洞にまで浸水してきた所で流石にまずいと思ったアルマは外に出て雨宿りできる場所を探す。
 歩く程に衣服は濡れ、靴の中にまで浸水し身体中はびしょ濡れであった。
 しばらく歩いた所で彼女はそこそこ大きな洞窟を見つける。そこは丘の上にあり水が浸水している様子はなかった。
 湿気で蒸れる中へと入ると鼻を突いたのは血の匂い。それも臓物の匂いまでもが混じっている。
 洞窟の奥は暗く、何か獣の類やクリーパーがいては一大事と彼女は何か明かりになるような物はないかと辺りを見回した。
 すると壁の傍に刺さっていた松明を発見、炎は消えていたが駆け寄って触ってみるとまだ松脂は少し残っているようで十分使用できるようだった。
 手持ちの火打石で何とか松明に火をつけると辺りがぱあっと火の光で明るくなる。
 揺らめく炎に照らされ浮かび上がったのは一体のビッグアントの死体であった。肩口を切り裂かれ、無数の刺し傷を受けていたそのビッグアントは絶命している。
 本来であれば経験の浅い授恵者ならばその様な光景を見れば悲鳴の一つでも上がるか吐き気を催すだろう。だが彼女は違った。
 ふらふらと近寄り、ビッグアントの死体に触れる。するとまだ少し温かく死亡してから時間の経っていない新鮮な死体であることがわかる。
「し、死んでる? 誰かが倒したのかな。あ、まだあったかい……それに、いい匂いが……する……」
 その瞬間、彼女の口の端から一筋涎が零れた。
 そう、血の匂い、臓物の香り、そして新鮮なビッグアントの肉……それが揃ったこの状況に彼女は食欲を掻き立てられたのである。
 彼女が計算していた食料を食べつくしてしまった事にもそれは関係があった。
 普通の食料を食べても満たされない特殊な体質……『見えない胃袋』。それは心に抱える精神的なものといえる。
 食べても食べても美味しいとは感じるが満たされない無限の食欲。それが彼女が食糧難に陥った原因であった。
 それまで彼女は何を食べても満たされず、常にある程度の空腹は当たり前となっていたのだがこの時ばかりは感じた事のない感覚を覚えたのだ。
 わかりやすくいうのならば……腹ペコの状態で肉汁滴るステーキを出された状態に近い。
 手持ちの肉類解体用のナイフを取り出すとアルマは手始めにビッグアントの足先を削ぎ落とす。ごとっと重量感のある足が地面に落ちた。
 あとは焼く為の火種がないかと辺りを物色する。数分程度物色したアルマはいくつかの木片と小枝を入手しそれらを火種に焚火作り火を起こした。洞窟の入口近くで煙が流れるように配慮することも忘れない。
 料理用に所持していた鉄串にビッグアントの足を刺し、火で直火焼きにする。香ばしい肉の焼ける匂いが彼女の鼻をくすぐった。
「あぁ、すごい……初めて焼くけどビッグアントの足ってこんな美味しいにおいがするの? 食べるのが楽しみだよぉ」
 恍惚としたその表情はある種常軌を逸しているが、それを見る者はここにはいない。
 こんがりと焼きあがったビッグアントの足の甲殻をナイフで裂き、カニの身のように肉を穿り出すとむしゃりとアルマはかぶりつく。
 アツアツのビッグアントの肉は柔らかく、口の中に溢れ出す肉汁はワイルドな野性味を感じさせる独特な物であった。
 はふはふと全く間にビッグアントの足を平らげたアルマはそこで初めて気が付いた。満たされる事のなかった自分の腹がある程度満たされ始めていることに。
「嘘……お腹が、満たされる……もっと、もっと食べたいっ!」
 お腹が満たされるという初めての感覚に喜んだアルマは嬉々としてビッグアントを魚を捌く様に的確に捌いていく。
 あっという間に骨と肉に切り分けられたビッグアントの死体をアルマは慣れた手つきで調理していった。調理方法は普通の食材となんら変わりはない。多少匂いが強い程度で彼女にとっては気になる程ではなかった。
 まずは肉をスライスし、豆から作った発酵タレにつけ、そのまま生で刺身として頂く。芳醇な豆のタレと肉の味が絡み合い、ほっぺたが落ちそうな程の旨味が彼女の口内いっぱいに広がった。
 お次は骨から出汁を取り香草と煮込んだ目玉と脳みそのスープである。とろとろとしたゼラチン質の目玉と半分溶けている脳が入ったそのスープはみてくれだけは凄まじいインパクトの一品だった。
 流石にアルマも躊躇したが恐る恐るスープに口をつける。すると味わい深い香りと味が彼女の喉を喜ばせた。そのままごくごくと飲み干し、ふうっと息を吐く。
「ビッグアントがこんなに美味しいなんて……今まで知らなかったよ! うんうん、次はどうかなあ?」
 期待に震えながら最後に彼女が口に運んだのはビッグアントの内臓を焼いた物。いわゆるレバーのソテーである。
 通常の動物のレバーよりもかなり匂いの強いそれを躊躇なくアルマは口に放り込む。普通のレバーとは違いこりこりでしっかりとした歯応えのそれを余すことなく堪能する。
「すごい、普通のレバーなんか比べ物にならないくらい美味しいッ! よし、帰ったら今まで避けてきた魔物達の料理素材も食べてみなくっちゃ」

●

 話をしながら調理を終え、ビッグアントのスープをアルマはよそう。
 馴染みの猟師の隣に座る年配の猟師へとそれを差し出す。馴染みの猟師はその隣でスープをごくごくと飲んでいた。
 年配の猟師はスープを受け取ると口に運び、頷く。その表情は旨いものを食べた人のそれであった。
「まさかここまでいい味になるとはな。経験上、ビッグアントも食った事はあるが鍋の出汁にした程度だ。肉や内臓まで食ったことはねえ」
「あの後色々調べてみたらボク、普通の食事じゃ満足できないってのがわかったんだ。それでビッグアントとかジャイアントバットとか……魔物の食材を食べるようになったんだよ。あ、勿論普通のご飯も食べれるけどね」
 そういうアルマは串に刺さったビッグアントの肉や内臓を美味しそうに頬張っている。心底美味しそうなその表情は実に愛らしい。
「そういう嬢ちゃんなら……これもお好みかもしれねえな。後で帰ったら俺の紹介する店に行くといい、そこじゃ普通じゃ食わないもんを扱ってるぜ。本来は儀式用だが鮮度はいいし食用にもなるんじゃねえかな」
 猟師は小さな羊皮紙を取り出すとそれをアルマに渡す。そこには店の場所とおすすめの食材が記されていた。
 後日、アルマは猟師に教えられたその店に行きおすすめの食材と気になった食材を買って家に戻る。
 キッチンには一見しただけでは何の肉かわからない食材が並んでおり、ぱっと見は呪術や薬剤の調合でもするかのようであった。
 まずアルマは細長い鎌状の足『キラーマンティスの鎌足』を取り出すとそれの硬い甲殻をナイフで裂き、かにの身の様に肉を穿り出すと鍋に入れる。
 次に取り出したのは『スライムの核』。脂肪分が豊富ではあるもののしっかりと洗い流さないと臭いアンモニア臭が取れない一品である。
 もにもにと形を変える核を流水でしっかりと洗い流し小分けに切ると鍋にぼとぼととアルマはそれらを入れた。
 鍋を火にかけ、煮込んでいる最中に別の料理の準備を進めていく。
 『アラクネの尻肉』を掴んだアルマは表面にある微細な毛をナイフで削ぎ落としつつ、食べられない変色した部分を除いていく。アラクネは肉の劣化が早く、色が変わってしまった部分は強い毒性を持つ為に除いて食べなければならない物である。
 綺麗に処理した尻肉をぶつぎりにし野菜と一緒に鉄串に刺した。それを火元に刺し、直火焼きにする。
 これらの食材は重ねて言うが一般的には食されず、基本的には薬物の生成に使われるものである。勿論、食す者がいないとは言わないが一般的ではない。
 数十分後、煮えた鍋に木材のスプーンを刺し、汁をひとすくいしてアルマは口に運ぶ。
 強い塩気と甘辛い味が広がり彼女の口内でそれらが合わさって踊る。
 なかなかに美味しいその味に彼女は自然と笑顔になった。
「あぁ……美味しいなぁ。うん、初めて食べたけどキラーマンティスもスライムもこんなに美味しいなんて。あとでメモしとかなきゃ」
 スープができた所で火から上げ少し冷ましていた鉄串を持ち、アラクネの尻肉をアルマはがぶりと頬張る。
 溢れ出る肉汁が口から零れそうになり慌てて指で拭った。思った以上に尻肉はジューシーであり、味付けをしていないにも関わらず非常に塩気が強い。多少ピリッとする辛味は毒素が影響しているのだろうか。
 一緒に焼き上げたスライスしたじゃがいもと一緒に口に運んでみる。
 すると芋の風味と味わいと共に尻肉の強い塩気が口内でハーモニーを奏でる。これらを合わせてみて正解だったとアルマはうんうんと頷いた。
 作った食材を食べながら彼女は机に向かい、メモを取り始める。そこには彼女が食べた一般ではゲテモノと呼ばれるあらゆる食材が記されていた。
「え、と、んぐんぐ……スライムは味が強いけどよく洗うべし。核は大きいほど味わい深いと。キラーマンティスはあっさり目で味付けが重要……アラクネの尻肉は鮮度低下による毒の浸食に気を付けながら捌くべし。じゃがいもと合わせるとなおよし」
 それを記しながら彼女は淡く想い描き始めた夢を考えていた。
 それはゲテモノと称され、一般的には日の目を見ない食材達を用いた料理店の開店である。
 元来料理が得意であった彼女は元からなにかそれが生かせないかと考えてはいた。だが確固たる思いがなかった為にそれはいつもおぼろげだったのだ。
 そんな彼女がビッグアントの肉に出会い、そこから様々な『普通は食されない食材達』と出会った。
 普通の食材では満たされない彼女にとってそれは電撃的と見える衝撃を受ける出会いだったのである。
 どんな食材がどんな味なのか、それが気になった彼女は世間でいうゲテモノを食べ進める中で美味しく食べられる食材達を知ってほしいと思うようになった。
 それは日増しに強くなり、今では彼女の小さな夢の一つである。
「ふふ、これはあの香草で匂いを消せば癖もなくなるからいけるでしょ、あれはこっちの肉と合わせれば嫌な味も消えるし、これはあの羽と混ぜると辛味が生かせるよね」
 メモしながらいつの日か開くかもしれない彼女だけの小さな料理店で出す彼女だけの特別なメニューにアルマは想いを馳せる。
 それが実現するかどうかはまだわからない。
 だが彼女は食べ続ける。
 いつの日か訪れるかもしれない、小さな夢の為に。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0