シスルと魔法のロウソク
キャラクターノベル制作 大和気 いぐる納品 2020年12月28日 21時05分24秒
慣れないことをしている、という自覚はあった。
浮かれている、という自覚もあった。
自己満足だ、という自覚もあった。
シスル・ノーティラスは、そわそわしていた。
ちょっといかがわしい宿の納屋、というのはどうかと思う。
だが、顔がきいて、厨房を貸してもらえて、大人数が入っても良い。
そんな都合のいい場所は他に用意できなかったのだ。
いや、もっと金を積めば、なんとかなるのかもしれない。
でも、今の懐具合では、これが精一杯だった。
ちなみに、掃除は一人でやった。
片付けは好きじゃない。結構、いや、かなり大変だった。
木箱やタルを寄せ集めて作った椅子。
テーブルはボロボロだったが、格子模様の布をかけて誤魔化した。
テーブルの中央には、真っ白な皿。
すこし前、マザキヤという街で手に入れたものだ。
皿の上には、シスルがそこで作ったパンがいくつか。
星やベル、柊などをかたどったものだ。
少し足りないと思ったから、買ったパンもいくつか乗せてある。
それと、保温のために布で覆った寸胴鍋の中には、シチューがたっぷり。
奮発して、鶏肉と野菜をゴロゴロ入れたやつ。これは自作だ。
他にも、リンゴや柑橘類などの冬の果物。ハムとチーズもある。
古ぼけた燭台には、ロウソクが三本。
慎ましやかながら、聖霊節のごちそうといって遜色はない。
部屋の様子をもう一度確認する。問題はなさそうだ。
シスルは衣装を着こんで、テーブルの下に潜り込んだ。
扉がきしむ音がして、子供たちが顔をのぞかせた。
「シスル? いるの?」
「なんだよ、こんなとこに呼び出して――!?」
いまだ。
気配を感じ取り、シスルはテーブルの下から飛び出した。
「めッ、メリー、ユールフェス!!」
テーブルの上のごちそうと、赤白衣装に白ヒゲをつけたシスル。
どちらに驚いてよいのか分からず、子供たちは目を白黒させた。
「……どうしちゃったんだよ、シスル」
反応は、いまいちだった。
「なあ、悪かったよ。驚いただけだったんだ」
「うるさい。いいから隣に回せ」
シスルはぶっきらぼうに、シチューをよそった器を子供に押し付けた。
顔が赤い。
赤白衣装と白ヒゲは早々に外した。
まったく、慣れないことなんて、するもんじゃない。
「怒るなよ。みんな喜んでるって」
「怒ってない」
らしくないことをやってしまったのが、恥ずかしいだけだ。
路地裏の子供たちは、それをからかわない程度には、優しい。
そして、ごちそうの提供者のご機嫌を伺う程度には、ずるい。
不安そうに、こちらを見ている子もいる。
「怒ってないよ。ホントさ」
シスルはため息をつき、笑ってみせた。
ちょっと大人げなかったかもしれない。
子供たちは、ほっとした様子だ。
「さ、みんなに渡ったな? じゃあ食っていいぞ!」
わっ、と歓声があがり、子供たちはいっせいに、ごちそうをかっこんだ。
「甘い!……甘い、でいいんだよな、これ?」
「はふっ……ふめえ! ほへはんのひくは?」
「何言ってんのか、わかりませーん!」
大騒ぎである。
見知った顔もあれば、見知らぬ顔も増えていた。
そして見なくなった顔も。
誰もそれに触れぬ程度には、薄情で、優しかった。
「おかわり!」
声があがって、つぎつぎ空の器が突き出された。
パンも、果物もあっという間に減ってゆく。
「ったく。時間かかったんだぜ。もっと味わって食えよ」
パンに至っては、試作品も入れれば数日かかって作っている。
少しは料理の大変さも、たたき込んだほうが良いかもしれない。
でも。
(まあ、こいつらが、腹いっぱい食ってるだけでも、よしとすべきか)
そう思える程度に、シスルは現実を見てきた。
そして、それをほろ苦く感じる程度にも、現実を見てきた。
お腹がふくれると、子供たちにも少し余裕が出てきたらしい。
「なあなあ、あのパン、なんで星のカタチしてたんだ?」
「そういや、おもしれーカタチだったッス」
「シスルがつくったの?」
(まったく、食い尽くす前に言えよ)
とはいえ、子供たちの事情は、シスルが一番把握していた。
「まあな。ああいう、凝ったパンを作って披露する町があったのさ」
子供たちが目を輝かせた。
旅の話を語って聞かせてほしい、という合図だ。
マザキヤでのパンづくりと、巨大パンの話。
迷宮都市でチキンを狩りまくった話。
難民キャンプで、炊き出しをした話。
血生臭い話を避けたら、飯の話ばかりだと言われた。
それもそうだと、クリーパーや蛮族退治の話もしておいた。
みやげ話は、夜もふけるまで続いた。
「明日まで借りてるから、今晩はここに泊まっていいぞ」
そう告げると、子供たちは、ほっとしたようだった。
たとえ立地の悪い納屋であっても、護衛がいれば話は違う。
「なあ、ひさしぶりに、魔法のロウソクの話、きかせてくれよ」
寝床の準備をしていると、ひとりの少年がそう言った。
燭台の上のロウソクを見て、思い出したのかもしれない。
魔法のロウソク。
偶然、魔法のロウソクを手に入れた子供の話。
ロウソクに火をともせば、赤白衣装の精霊が現れて願いを叶えてくれる。
そうだ、授恵者になる前。
寝物語をせがまれて、シスルがなんとか捻りだした作り話だ。
嫌いな話の結末を、無理やり変えようとして、そうなった。
見聞の広がった今では、鼻で笑いたくなるような、与太話。
「あんまり細かいとこまで覚えてないぞ」
「いいよ」
正直かなり記憶はあいまいで、話の筋はだいぶ変わったと思う。
魔法のロウソクを悪党に奪われてピンチになるくだりで気づいた。
というか、うろ覚えの他の話と、きっと混ぜこぜになっている。
それでも、子供たちには大ウケだった。
「それじゃあ、あかりはもう消すぞ」
話も終わり、すでに眠ってしまった子もいる。
シスルは小声で言った。
「なあ、シスル」
魔法のロウソクの話をせがんだ少年が、ぽつりと言った。
「……どうすりゃ、魔法のロウソクは、手に入るんだ?」
少年は、シスルの方を見ていない。
視線の先には、寝息を立てる、おさげ髪の少女。
ロウソクの明かりに照らされた彼は、少年の顔をしていなかった。
ああ、そういえば。
裏通りで、ふたりを助けたことがあったっけ。
きっと言葉通りに、寝物語を信じているわけじゃない。
彼が欲しがるロウソクは、シスルが得た【神の祝福】なのだ。
昼間に同じことを聞かれたのなら。
察しもしないふりをして、くだらない事言うなといったかもしれない。
でも、今日は――慰霊祭の夜なのだ。
「さあな。さっさと寝ろよ。
――寝てるあいだに、神様にでも頼んどいてやるよ」
毛布を広げ、彼にかけてやった。
「ゴメンな。変なこと言っちまって」
毛布がもこもこと動いて、かすれ声がした。
「いいさ、べつに」
あの顔を見なかったふりをして。
薄っぺらいはずの毛布を抱けば。
それは少しあたたかだった。
浮かれている、という自覚もあった。
自己満足だ、という自覚もあった。
シスル・ノーティラスは、そわそわしていた。
ちょっといかがわしい宿の納屋、というのはどうかと思う。
だが、顔がきいて、厨房を貸してもらえて、大人数が入っても良い。
そんな都合のいい場所は他に用意できなかったのだ。
いや、もっと金を積めば、なんとかなるのかもしれない。
でも、今の懐具合では、これが精一杯だった。
ちなみに、掃除は一人でやった。
片付けは好きじゃない。結構、いや、かなり大変だった。
木箱やタルを寄せ集めて作った椅子。
テーブルはボロボロだったが、格子模様の布をかけて誤魔化した。
テーブルの中央には、真っ白な皿。
すこし前、マザキヤという街で手に入れたものだ。
皿の上には、シスルがそこで作ったパンがいくつか。
星やベル、柊などをかたどったものだ。
少し足りないと思ったから、買ったパンもいくつか乗せてある。
それと、保温のために布で覆った寸胴鍋の中には、シチューがたっぷり。
奮発して、鶏肉と野菜をゴロゴロ入れたやつ。これは自作だ。
他にも、リンゴや柑橘類などの冬の果物。ハムとチーズもある。
古ぼけた燭台には、ロウソクが三本。
慎ましやかながら、聖霊節のごちそうといって遜色はない。
部屋の様子をもう一度確認する。問題はなさそうだ。
シスルは衣装を着こんで、テーブルの下に潜り込んだ。
扉がきしむ音がして、子供たちが顔をのぞかせた。
「シスル? いるの?」
「なんだよ、こんなとこに呼び出して――!?」
いまだ。
気配を感じ取り、シスルはテーブルの下から飛び出した。
「めッ、メリー、ユールフェス!!」
テーブルの上のごちそうと、赤白衣装に白ヒゲをつけたシスル。
どちらに驚いてよいのか分からず、子供たちは目を白黒させた。
「……どうしちゃったんだよ、シスル」
反応は、いまいちだった。
「なあ、悪かったよ。驚いただけだったんだ」
「うるさい。いいから隣に回せ」
シスルはぶっきらぼうに、シチューをよそった器を子供に押し付けた。
顔が赤い。
赤白衣装と白ヒゲは早々に外した。
まったく、慣れないことなんて、するもんじゃない。
「怒るなよ。みんな喜んでるって」
「怒ってない」
らしくないことをやってしまったのが、恥ずかしいだけだ。
路地裏の子供たちは、それをからかわない程度には、優しい。
そして、ごちそうの提供者のご機嫌を伺う程度には、ずるい。
不安そうに、こちらを見ている子もいる。
「怒ってないよ。ホントさ」
シスルはため息をつき、笑ってみせた。
ちょっと大人げなかったかもしれない。
子供たちは、ほっとした様子だ。
「さ、みんなに渡ったな? じゃあ食っていいぞ!」
わっ、と歓声があがり、子供たちはいっせいに、ごちそうをかっこんだ。
「甘い!……甘い、でいいんだよな、これ?」
「はふっ……ふめえ! ほへはんのひくは?」
「何言ってんのか、わかりませーん!」
大騒ぎである。
見知った顔もあれば、見知らぬ顔も増えていた。
そして見なくなった顔も。
誰もそれに触れぬ程度には、薄情で、優しかった。
「おかわり!」
声があがって、つぎつぎ空の器が突き出された。
パンも、果物もあっという間に減ってゆく。
「ったく。時間かかったんだぜ。もっと味わって食えよ」
パンに至っては、試作品も入れれば数日かかって作っている。
少しは料理の大変さも、たたき込んだほうが良いかもしれない。
でも。
(まあ、こいつらが、腹いっぱい食ってるだけでも、よしとすべきか)
そう思える程度に、シスルは現実を見てきた。
そして、それをほろ苦く感じる程度にも、現実を見てきた。
お腹がふくれると、子供たちにも少し余裕が出てきたらしい。
「なあなあ、あのパン、なんで星のカタチしてたんだ?」
「そういや、おもしれーカタチだったッス」
「シスルがつくったの?」
(まったく、食い尽くす前に言えよ)
とはいえ、子供たちの事情は、シスルが一番把握していた。
「まあな。ああいう、凝ったパンを作って披露する町があったのさ」
子供たちが目を輝かせた。
旅の話を語って聞かせてほしい、という合図だ。
マザキヤでのパンづくりと、巨大パンの話。
迷宮都市でチキンを狩りまくった話。
難民キャンプで、炊き出しをした話。
血生臭い話を避けたら、飯の話ばかりだと言われた。
それもそうだと、クリーパーや蛮族退治の話もしておいた。
みやげ話は、夜もふけるまで続いた。
「明日まで借りてるから、今晩はここに泊まっていいぞ」
そう告げると、子供たちは、ほっとしたようだった。
たとえ立地の悪い納屋であっても、護衛がいれば話は違う。
「なあ、ひさしぶりに、魔法のロウソクの話、きかせてくれよ」
寝床の準備をしていると、ひとりの少年がそう言った。
燭台の上のロウソクを見て、思い出したのかもしれない。
魔法のロウソク。
偶然、魔法のロウソクを手に入れた子供の話。
ロウソクに火をともせば、赤白衣装の精霊が現れて願いを叶えてくれる。
そうだ、授恵者になる前。
寝物語をせがまれて、シスルがなんとか捻りだした作り話だ。
嫌いな話の結末を、無理やり変えようとして、そうなった。
見聞の広がった今では、鼻で笑いたくなるような、与太話。
「あんまり細かいとこまで覚えてないぞ」
「いいよ」
正直かなり記憶はあいまいで、話の筋はだいぶ変わったと思う。
魔法のロウソクを悪党に奪われてピンチになるくだりで気づいた。
というか、うろ覚えの他の話と、きっと混ぜこぜになっている。
それでも、子供たちには大ウケだった。
「それじゃあ、あかりはもう消すぞ」
話も終わり、すでに眠ってしまった子もいる。
シスルは小声で言った。
「なあ、シスル」
魔法のロウソクの話をせがんだ少年が、ぽつりと言った。
「……どうすりゃ、魔法のロウソクは、手に入るんだ?」
少年は、シスルの方を見ていない。
視線の先には、寝息を立てる、おさげ髪の少女。
ロウソクの明かりに照らされた彼は、少年の顔をしていなかった。
ああ、そういえば。
裏通りで、ふたりを助けたことがあったっけ。
きっと言葉通りに、寝物語を信じているわけじゃない。
彼が欲しがるロウソクは、シスルが得た【神の祝福】なのだ。
昼間に同じことを聞かれたのなら。
察しもしないふりをして、くだらない事言うなといったかもしれない。
でも、今日は――慰霊祭の夜なのだ。
「さあな。さっさと寝ろよ。
――寝てるあいだに、神様にでも頼んどいてやるよ」
毛布を広げ、彼にかけてやった。
「ゴメンな。変なこと言っちまって」
毛布がもこもこと動いて、かすれ声がした。
「いいさ、べつに」
あの顔を見なかったふりをして。
薄っぺらいはずの毛布を抱けば。
それは少しあたたかだった。