その背を追いかけた先で
キャラクターノベル(グループ)制作 白葉うづき納品 2024年04月13日 09時09分25秒
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寮長に呼び止められたアルド・シャウアーは、ひとつの封筒を受け取った。部屋に帰って荷物を片付けた後、改めて手に取る。
「ロイエ様……?」
それは、かつて自身の住んでいた町で神官長をしていた人物の名前。事件後に交流もなかったアルドに、今になって何故。不思議に思いながら封を開けた。
几帳面な文字は時節の挨拶から始まる。今はシグモル火山にいること、そして学園に進学したアルドを祝い、案じる文面。ロイエの娘であるクラリスは今でも孤児院と交流がある。その伝手でアルドのことを知ったらしい。綴られる言葉の数々にどこか胸を撫で下ろしながら、けれどどうして手紙を、という疑問が晴れないまま二枚目に目を通す。そこにも見知った名前を見つけた。
『カイン・ステラという少年が先日訪ねてきた』
「!」
アルドは思わず手紙を引き寄せる。鼻が紙にぶつかってふるふると首を振り、改めて読み続けた。
『勤勉であり信心深く、集中力もあり己にストイックだ。地神についての知識も深い。彼が神職についていればさぞ高名な神官になっただろう。冒険者にしておくには勿体がない』
一度人を導く職についてみてはどうかなど、その後もカインに言及する言葉が続いた。アルドは尻尾を揺らしながら読む。
(カイン兄ちゃん、元気、なのかな)
別れたあの日から何の音沙汰もなく、別の形で知った近況は胸を痛めるものだった。今すぐにでも駆け出したい気持ちはあった。けれど、それを止めるのは小雨の降る日の光景。追いつかなかった背中をまた追いかけることは、迷惑なのではないか。手紙は終盤に差し掛かる。
『実は、彼によく似た顔を見たことがある。その方は王国貴族だ。カイン本人は村の生まれだと言っていたが、それにしても気にかかる。もしかしたら、彼も知らない血の繋がりが存在するのかもしれない。もし彼がルーツを知りたいといった暁には、私を頼れと伝えてはくれないか』
そして、結びにこう書かれていた。
『ただ、彼には脆いところがあるように見受けられる。それは彼生来の優しさが呪いに縛れらているようにも見えた。君は同じ冒険者であり、神父からは家族と聞いている。気にかけてやってくれ』
アルドは何度か手紙を読み返し、やがて大切そうにたたんで机の中の箱に収める。近い内に訪問したいと考えていた気持ちが、むくむくと膨れ上がっていた。
●
カインとアルドの出会いは、四年ほど前に遡る。アルドが一人で暴走し、盗賊団にいたところを助けてもらった。そこから何度も訪問してもらう内に、いつの間にかアルドはカインを兄と慕うようになった。
(格好いい人だと思ったんだ)
神父とはまた違う、自分よりもずっと大人で、色んなことを教えてくれる人。料理の仕方や気遣い方、思ってもみなかった選択肢の提示。少年はカインの教えてくれることが楽しくて仕方がなかった。そこから学ぶことが楽しくなり、視野が広がり、今の選択に辿り着いたと言ってもいい。いわば、大切な恩人。知り合いや友達とは別の絆が出来ていると思っていた。離れていても繋がっていて、思うだけで温かくなれる、そんな深い繋がり。アルドは、カインの笑った顔や、撫でてくれる手が大好きだった。新しい温もりをくれる人に、自分からも何か渡せていればいいと、そう願っていた。
(僕は、何が見えていないのかな)
背中を向けてしまった彼と少年の気持ちは異なっていたのだと、アルドはその時に初めて叩きつけられた。何が原因なのかはわからない。ずいぶん落ち込んで、悲しくて泣いていたのをフィオに見つかったり、嫌われたのだと自分を嫌いにもなりかけた。ただ、今はその時とは少し違う気持ちだ。わからないからこそ知ることが出来る。それに大切な人が苦しんでいることだけは、わかる。それを放っておけるほど彼との関係は浅くない。たとえこれがお節介だとしても、何もせずにはいられない。
がたん、と馬車が揺れた。徐々にスピードが落ち、目的地に辿り着いたのだと知る。窓の外を見ると、賑やかな街並みが広がっていた。
「ここ、かな……?」
以前教えられた商人を頼り、アルドはフロルの町を訪ねていた。知り合いのいない土地でどう見つけようかと困ったが、彼がここにいることは違いない。道行く人々に聞き込みをし、程なくしてそこに辿り着くことが出来た。
それは一軒の家だ。ここに彼がいる。呼吸を整えた後、家に向かって歩き出し、気付く。
誰かいる。テラスのところ、ロッキンチェアの上に寝ている。
(兄ちゃん……?)
遠目からの姿はそう見えた。疲れて休んでいる最中なのかもしれない。後でまた来ようと踵を返した時――背中に衝撃が走った。
「わっ!? なに、……!」
慌てて振り向くと、大鼬のファがいた。アルドの友達、カインの家族でもある彼女は、歓迎するようアルドの周りをまわって体を寄せる。しゃがんで柔らかく頭を撫でてやると、不意に走りだした。焦るよう、まるでついて来いと言わんばかりにテラスの手すりへと飛び乗る。
「ファ? 兄ちゃん、寝てるみたいだからまた後で、!」
声にもならない、けれど誰かがうめく音が聞こえた。それもすぐ近く――ロッキンチェアの方から。そこで初めて、アルドは寝ている人物をしっかりと見る。それは確かにカインであり、息遣いも荒く苦しげに身を捩っていた。
「カイン兄ちゃん!」
急いで手すりを飛び越え駆け寄る。必死に揺り動かすと、溜まっていた涙がカインからぽろぽろと零れ落ちた。
「……、……!」
「兄ちゃん……!」
目を覚ましたことにアルドは安堵する。アルドを見た時、驚きや戸惑い、色んな表情が浮かんだように思えたが、それでもアルドは嬉しそうに笑いかけた。
●
「お休み中に来ちゃってごめんね」
椅子に座ったアルドが声をかけると、この家の主であるカインは首を振った。カインの口から何も発せられることはなかったが、アルドはそれを気にする様子もなく話し続ける。
「町の人から聞いたよ。ここで採れる蓮華の蜜を使って、特産品や料理を作っているんだって。皆、すごく感謝してるって言ってた」
住民とはほんの少し言葉を交わしただけだったが、その端々にカインへの感謝や好意的な面が見えた。きっとこの場所で、アルドの知る姿で力を貸しているのだろうと思う。
ファが柔らかく、アルドに頭を擦り付ける。それを優しく撫でてから、アルドはカップを置いた。
「フィオから聞いたんだ。兄ちゃんも僕らと同じだって」
院出身であり、悲しい別れを経験している。そこを頼りに考えてみると、すとんと胸に落ちた気がした。
「兄ちゃんは、ばらばらになってく僕……僕ら孤児院の皆を見るのが、辛くなっちゃったのかな、って。間違ってたら、ごめんね」
心を傾けた存在がいなくなる恐怖は、拭おうとして拭えるものではない。心に閉じ込めたり、見ない振りをしたり、向き合ってその気持ちと一緒に生きていたり、それぞれだ。
そうして、それが間違っていなかったら、アルドは言える言葉があった。
「寂しかったら言っていいんだよ。悲しかったら泣いてもいいんだよ。結果は変わらないかもしれない。でも、辛い気持ちを一人で抱えないでいいんだ。……兄ちゃんだって、たくさん不安になったよね。今度は、僕に支えさせて」
アルドは、自分よりもずっと背の高いカインを抱きしめる。手を精一杯伸ばし、優しく、何度もその頭を撫でた。
寮長に呼び止められたアルド・シャウアーは、ひとつの封筒を受け取った。部屋に帰って荷物を片付けた後、改めて手に取る。
「ロイエ様……?」
それは、かつて自身の住んでいた町で神官長をしていた人物の名前。事件後に交流もなかったアルドに、今になって何故。不思議に思いながら封を開けた。
几帳面な文字は時節の挨拶から始まる。今はシグモル火山にいること、そして学園に進学したアルドを祝い、案じる文面。ロイエの娘であるクラリスは今でも孤児院と交流がある。その伝手でアルドのことを知ったらしい。綴られる言葉の数々にどこか胸を撫で下ろしながら、けれどどうして手紙を、という疑問が晴れないまま二枚目に目を通す。そこにも見知った名前を見つけた。
『カイン・ステラという少年が先日訪ねてきた』
「!」
アルドは思わず手紙を引き寄せる。鼻が紙にぶつかってふるふると首を振り、改めて読み続けた。
『勤勉であり信心深く、集中力もあり己にストイックだ。地神についての知識も深い。彼が神職についていればさぞ高名な神官になっただろう。冒険者にしておくには勿体がない』
一度人を導く職についてみてはどうかなど、その後もカインに言及する言葉が続いた。アルドは尻尾を揺らしながら読む。
(カイン兄ちゃん、元気、なのかな)
別れたあの日から何の音沙汰もなく、別の形で知った近況は胸を痛めるものだった。今すぐにでも駆け出したい気持ちはあった。けれど、それを止めるのは小雨の降る日の光景。追いつかなかった背中をまた追いかけることは、迷惑なのではないか。手紙は終盤に差し掛かる。
『実は、彼によく似た顔を見たことがある。その方は王国貴族だ。カイン本人は村の生まれだと言っていたが、それにしても気にかかる。もしかしたら、彼も知らない血の繋がりが存在するのかもしれない。もし彼がルーツを知りたいといった暁には、私を頼れと伝えてはくれないか』
そして、結びにこう書かれていた。
『ただ、彼には脆いところがあるように見受けられる。それは彼生来の優しさが呪いに縛れらているようにも見えた。君は同じ冒険者であり、神父からは家族と聞いている。気にかけてやってくれ』
アルドは何度か手紙を読み返し、やがて大切そうにたたんで机の中の箱に収める。近い内に訪問したいと考えていた気持ちが、むくむくと膨れ上がっていた。
●
カインとアルドの出会いは、四年ほど前に遡る。アルドが一人で暴走し、盗賊団にいたところを助けてもらった。そこから何度も訪問してもらう内に、いつの間にかアルドはカインを兄と慕うようになった。
(格好いい人だと思ったんだ)
神父とはまた違う、自分よりもずっと大人で、色んなことを教えてくれる人。料理の仕方や気遣い方、思ってもみなかった選択肢の提示。少年はカインの教えてくれることが楽しくて仕方がなかった。そこから学ぶことが楽しくなり、視野が広がり、今の選択に辿り着いたと言ってもいい。いわば、大切な恩人。知り合いや友達とは別の絆が出来ていると思っていた。離れていても繋がっていて、思うだけで温かくなれる、そんな深い繋がり。アルドは、カインの笑った顔や、撫でてくれる手が大好きだった。新しい温もりをくれる人に、自分からも何か渡せていればいいと、そう願っていた。
(僕は、何が見えていないのかな)
背中を向けてしまった彼と少年の気持ちは異なっていたのだと、アルドはその時に初めて叩きつけられた。何が原因なのかはわからない。ずいぶん落ち込んで、悲しくて泣いていたのをフィオに見つかったり、嫌われたのだと自分を嫌いにもなりかけた。ただ、今はその時とは少し違う気持ちだ。わからないからこそ知ることが出来る。それに大切な人が苦しんでいることだけは、わかる。それを放っておけるほど彼との関係は浅くない。たとえこれがお節介だとしても、何もせずにはいられない。
がたん、と馬車が揺れた。徐々にスピードが落ち、目的地に辿り着いたのだと知る。窓の外を見ると、賑やかな街並みが広がっていた。
「ここ、かな……?」
以前教えられた商人を頼り、アルドはフロルの町を訪ねていた。知り合いのいない土地でどう見つけようかと困ったが、彼がここにいることは違いない。道行く人々に聞き込みをし、程なくしてそこに辿り着くことが出来た。
それは一軒の家だ。ここに彼がいる。呼吸を整えた後、家に向かって歩き出し、気付く。
誰かいる。テラスのところ、ロッキンチェアの上に寝ている。
(兄ちゃん……?)
遠目からの姿はそう見えた。疲れて休んでいる最中なのかもしれない。後でまた来ようと踵を返した時――背中に衝撃が走った。
「わっ!? なに、……!」
慌てて振り向くと、大鼬のファがいた。アルドの友達、カインの家族でもある彼女は、歓迎するようアルドの周りをまわって体を寄せる。しゃがんで柔らかく頭を撫でてやると、不意に走りだした。焦るよう、まるでついて来いと言わんばかりにテラスの手すりへと飛び乗る。
「ファ? 兄ちゃん、寝てるみたいだからまた後で、!」
声にもならない、けれど誰かがうめく音が聞こえた。それもすぐ近く――ロッキンチェアの方から。そこで初めて、アルドは寝ている人物をしっかりと見る。それは確かにカインであり、息遣いも荒く苦しげに身を捩っていた。
「カイン兄ちゃん!」
急いで手すりを飛び越え駆け寄る。必死に揺り動かすと、溜まっていた涙がカインからぽろぽろと零れ落ちた。
「……、……!」
「兄ちゃん……!」
目を覚ましたことにアルドは安堵する。アルドを見た時、驚きや戸惑い、色んな表情が浮かんだように思えたが、それでもアルドは嬉しそうに笑いかけた。
●
「お休み中に来ちゃってごめんね」
椅子に座ったアルドが声をかけると、この家の主であるカインは首を振った。カインの口から何も発せられることはなかったが、アルドはそれを気にする様子もなく話し続ける。
「町の人から聞いたよ。ここで採れる蓮華の蜜を使って、特産品や料理を作っているんだって。皆、すごく感謝してるって言ってた」
住民とはほんの少し言葉を交わしただけだったが、その端々にカインへの感謝や好意的な面が見えた。きっとこの場所で、アルドの知る姿で力を貸しているのだろうと思う。
ファが柔らかく、アルドに頭を擦り付ける。それを優しく撫でてから、アルドはカップを置いた。
「フィオから聞いたんだ。兄ちゃんも僕らと同じだって」
院出身であり、悲しい別れを経験している。そこを頼りに考えてみると、すとんと胸に落ちた気がした。
「兄ちゃんは、ばらばらになってく僕……僕ら孤児院の皆を見るのが、辛くなっちゃったのかな、って。間違ってたら、ごめんね」
心を傾けた存在がいなくなる恐怖は、拭おうとして拭えるものではない。心に閉じ込めたり、見ない振りをしたり、向き合ってその気持ちと一緒に生きていたり、それぞれだ。
そうして、それが間違っていなかったら、アルドは言える言葉があった。
「寂しかったら言っていいんだよ。悲しかったら泣いてもいいんだよ。結果は変わらないかもしれない。でも、辛い気持ちを一人で抱えないでいいんだ。……兄ちゃんだって、たくさん不安になったよね。今度は、僕に支えさせて」
アルドは、自分よりもずっと背の高いカインを抱きしめる。手を精一杯伸ばし、優しく、何度もその頭を撫でた。