同じ時を刻み、共に生きるということ
キャラクターノベル制作 伊治納品 2024年03月03日 00時15分47秒
●
海神 江流が書状を携え、その商会を訪れたのはリヴァマス伯爵家の養子となってすぐのことだ。
都市同盟の中でも代表的な都市の1つ、ローレラウラにおいて、宝石の売買に特化した商会がある。この商会が仕入れた宝石に目的のものがある情報を得た為、自ら足を運んでいる。
「……この紹介状は……。会長を呼んで参ります」
取り扱う商品の性質上、一見は紹介状なしでは入店すら認めないだろうと渡された紹介状は思ったより威力があった。
……この紹介状を書いた友人達はローレラウラでも歴史ある商会の重役でもあるから。
(嫌な思いしたら遠慮なく言ってね……かぁ)
送り出した彼らの笑顔を思い出し、江流は苦笑した。
恐らく商会では最も格式の高い応接室で待たされること少々。
商会長が何人かの部下と共にやってきた。
「お待たせいたしまして申し訳ございません」
「いいえ、先触れが遅くなり、失礼いたしました」
先触れは出したが、商会の建物内にいなければ中々難しいだろうと江流は理解を示し、待たせたことは不問に処した。
「こちらの商会で品質の良いエメラルド、アイオライトを仕入れたと伺ったので……」
「流石にお耳が早い」
江流が用件を伝えると、紹介元が情報提供を行ったとすぐに結びついたらしく、商会長は苦笑した。
品質が良い故にそう簡単に購入はされないものだが、仕入れて然程経っていないそうで、彼らのネットワークの広さを知る。
「当商会ではあくまで宝石のみで、装飾品への加工などは取り扱っておりませんが、よろしいでしょうか」
「ええ、問題ありません。時計は職人を手配しているので……」
「ほう……。失礼ですが、ご用途をお伺いしても?」
商会の情報提供も受けていた江流はその質問も想定の範囲だ。
「婚約者へ婚姻前に贈る最後の誕生日プレゼントに、と思っています」
2月29日――江流の紫百合が生を受けた日である。
それ故に誕生石のアイオライトが文字盤にあしらわれた懐中時計をと思っているのだ。
同じく、5月のエメラルドが文字盤にあしらわれた懐中時計を作り、2人で同じ時間を生きる証にするつもりだ。
その時だ。
空間内に失笑が零れた。
●
「何か?」
江流が失笑を漏らした先へ視線を向ける。
商会長の部下で、江流と年齢が同じくらいの男性が「これは失礼」と慇懃無礼に江流へ一礼した。
「アイオライトは3月の誕生石でしょう。大切な贈り物で石の選択をお間違えになるのは……。本当にアイオライトでよろしいのでしょうか? 貴族になって日が浅いとのことですので、心配です」
「商会長」
江流が静かな言葉で言葉を遮り、商会長を見やる。
「こちらの方は?」
「申し訳ございません! とんだご無礼を……!」
「商会長、間違えているお客様が恥をかいたらどうされるのですか。きちんとご説明をして差し上げ……」
江流が深く息を吐き出した。
来歴を話して侮るのは自由だが、自分は既に伯爵家に入った身だ。面と向かって侮っていただいて無言で済ませるなどありえない。
「誕生日石をご存知ですか」
江流の声は落ち着いたトーンでその内心を初対面の未熟な商人如きが推し量るのは困難だ。
「確かにあなたが仰るように誕生月の括りであるならば、アイオライトは3月でしょう。近年において3月の誕生石にアイオライトもあることをご存知なのは流石彼の商会が推薦した商会にいらっしゃるだけのことはありますね」
3月の誕生石と聞き、誕生石というものを知っている者がまず思い浮かべるのはアクアマリンや珊瑚だろう。アイオライトが出てくるのは、希少な宝石を取り扱う商会ならではだ。
だが、誕生石は、月だけでなく日単位でも定められている。誕生花のように複数存在し、アイオライトはその1つだ。
「ですが、多くの方は……」
「商会長」
江流が商会長を一瞥すると、商会長は部下を見やった。
説明し、静かにさせろという言葉なき指示だが、こちらは熟練の商人だけあり、江流の意図を正確に読んだ。
「アイオライトは成功を導く加護があるとも言われるが、昔は結婚の誓いとして準備されることもあった」
通常は両親が結婚の決まった娘に贈るというものなのだが、江流は婿入りする身だし両親は掴まり難い実情もあったので、彼自身が彼女へ共に時を過ごし誠実である誓いとして贈る物だ。
宝石の菫と言う者すらいるこの石でなければ全く意味がない。
江流の宝石として愛や希望を象徴し、夫婦愛を示すエメラルドを選んでいることからも明らかである。
つまり、この短時間で知識面がまだ未熟であることを自ら明かしてしまったのだ。
「先程もアイオライトのブレスレットを去年贈られたと仰っておられた。お調べになっていない訳がなかろう。自身の知識の不足、文献に確認の仕方に問題があると思わないとは嘆かわしい。お客様に謝罪せよ!」
「……申し訳、ございません……」
屈辱と顔に書いてあったが、貴族になって日が浅い自分に読まれるようではまだまだだ。
ともかく、目的のものは入手した。
平身低頭といった様子で商会長が馬車に乗り込む江流を見送りに来る。
「あの方はおいくつの方で?」
「イーゴリと申しまして、今年36になります」
「自分と同い年ですか」
だいぶ下座に並ばされている男は周囲に見張られているようで動けない。
「ここは商会相手の商売が多いと聞きました。それだけに言葉一つで致命傷になるでしょう。少なくとも自分にこの紹介状を渡した彼らはあのような隙は見せません。今回は希少で品質の良い宝石を破格でお譲りいただいたので不問にしますが――努々ご注意ください、ヴィーク・コーディエ商会長」
「肝に銘じましてございます」
江流はその答えを聞き、馬車のドアを閉めた。
商談が終わった後は紹介状をくれた彼らの所に戻ることになっているのだが――江流はそれまでのやり取りを思い出し、軽く肩を竦めた。
「少しやりすぎたかな?」
イーゴリの物言いが非常に不快だったとは言え、彼以外の対応に問題なかったのだから。
……不問にしたとは言え、紹介状をくれた彼らに今回のことはちゃんと話すので、そこは悪く思わないでくれ。
●
江流の目の前には、2つの手巻き式蓋付き懐中時計が置かれてある。
時計部分に関しては職人を手配し、恙無く納品され、文字盤にはそれぞれの石、アイオライトとエメラルドが輝いている。
白金製であることも踏まえれば、彼女程の貴人が持っても遜色ない品となった。
君と同じ時間を生きる証として贈り、君と同じ時を刻んでいる証として自身でも持つ。
2人寄り添って、互いの懐中時計が同じ速度で秒針を刻む、その音を確かめ合うひと時はそう持てるものではないかもしれないが、数少なかろうとそんな時を大切に。
導きの石が示す道を歩く彼女を支えられる自分であるように。
と、傍の止まり木で毛繕いしていた揺満月が江流の肩の上まで飛んできた。
「コロコロ」
「お前のこともちゃんと彼女に紹介してやらないとな」
江流にとって大切な相棒を実はまだ紹介できていない。
けれども、江流にとっては大切な相棒なのだから彼女に紹介しなければ。
「俺は冒険者として、彼女とは出会ったんだ。彼女は貴族の姫君で……あ、今は侯爵なんだけれどね、ともかく、冒険者でなければ言葉を交わす機会もなかっただろう女性なんだ」
江流は自分の肩の上で首を傾げる揺満月へこの懐中時計を贈る彼女がどのような女性なのか話して聞かせる。
きっと、揺満月には人の世界の理など解らないだろうが、共に生きたいと願った女性がどのような女性なのかを話したかった。
「この蓋にお前を刻んだのは、俺達は繋がっているって意味も込めたんだ」
今この瞬間のように物理的に距離が離れていようと、空を飛ぶ鳥が大地の制約を受けないように、この思いも距離の制約を受けないという意味だ。
俺達は同じ時を刻み、共に生きている、と。
「懐中時計は……俺は仙人にはなれないって思った証でもあるんだ」
妹がいた。ロスガリア大陸を自分の足で歩き、行きたい場所に行きたいと願う妹は、そんなささやかな夢でさえ叶えることができなかった。
『仙人ってのになると霞食って生きていけるらしいんだよな。楽そうでいいだろ?』
口でそう言い、仙人の道を模索した。
仙人になれば、その能力で妹の寿命を延ばせるのではないかと思ったからだ。結局、間に合わなかったけれど、その考えをすぐに排することはできなかった。
超越者と呼ばれ、神の階段を登れば、仙人になれるのかもしれないと思ったこともある。
でも、それは違う。
人間性が失われること、自分が自分でなくなるということは、仙人の道を模索した自分も彼女と共に生きたいと思った自分も放棄することになる。妹が身に行きたかったであろうロスガリアを見ている両親の想いを知る自分も消えてしまう。
神になってしまえば、名前も顔も失われていく。受けた恩義も返せない。
両親は妹しかいない記憶になり、もっと救われない気持ちになるだろう。母が丈夫な子に産めなかったと苦しんでいることを江流は知っている。
冒険者として出会った友人だってそうだ。彼らがいて、今の自分がいる。
何より、彼女が自分のことを忘れ、自分以外の男と結ばれ、その男と同じ時を刻んで共に生きることを想像した時、エルは自分は仙人にはなれないと悟った。
俗物かもしれないが、だからこそ、俺は俺、海神 江流なんだ。
「今のはお前以外には内緒だよ」
江流はその身を摺り寄せてくる揺満月を撫でてやると、揺満月は心地よさそうに目を細めた。
その体は温かく、揺満月が生きていることを実感し、江流は穏やかな気持ちで目を閉じる。
そう、俺は生きている。
これからも、あなたと共に時を刻みたい。
「彼女に早く会いたいな……」
……こんな俺を見せるのもお前だけだから、このことは内緒にしてくれよ、揺満月。
海神 江流が書状を携え、その商会を訪れたのはリヴァマス伯爵家の養子となってすぐのことだ。
都市同盟の中でも代表的な都市の1つ、ローレラウラにおいて、宝石の売買に特化した商会がある。この商会が仕入れた宝石に目的のものがある情報を得た為、自ら足を運んでいる。
「……この紹介状は……。会長を呼んで参ります」
取り扱う商品の性質上、一見は紹介状なしでは入店すら認めないだろうと渡された紹介状は思ったより威力があった。
……この紹介状を書いた友人達はローレラウラでも歴史ある商会の重役でもあるから。
(嫌な思いしたら遠慮なく言ってね……かぁ)
送り出した彼らの笑顔を思い出し、江流は苦笑した。
恐らく商会では最も格式の高い応接室で待たされること少々。
商会長が何人かの部下と共にやってきた。
「お待たせいたしまして申し訳ございません」
「いいえ、先触れが遅くなり、失礼いたしました」
先触れは出したが、商会の建物内にいなければ中々難しいだろうと江流は理解を示し、待たせたことは不問に処した。
「こちらの商会で品質の良いエメラルド、アイオライトを仕入れたと伺ったので……」
「流石にお耳が早い」
江流が用件を伝えると、紹介元が情報提供を行ったとすぐに結びついたらしく、商会長は苦笑した。
品質が良い故にそう簡単に購入はされないものだが、仕入れて然程経っていないそうで、彼らのネットワークの広さを知る。
「当商会ではあくまで宝石のみで、装飾品への加工などは取り扱っておりませんが、よろしいでしょうか」
「ええ、問題ありません。時計は職人を手配しているので……」
「ほう……。失礼ですが、ご用途をお伺いしても?」
商会の情報提供も受けていた江流はその質問も想定の範囲だ。
「婚約者へ婚姻前に贈る最後の誕生日プレゼントに、と思っています」
2月29日――江流の紫百合が生を受けた日である。
それ故に誕生石のアイオライトが文字盤にあしらわれた懐中時計をと思っているのだ。
同じく、5月のエメラルドが文字盤にあしらわれた懐中時計を作り、2人で同じ時間を生きる証にするつもりだ。
その時だ。
空間内に失笑が零れた。
●
「何か?」
江流が失笑を漏らした先へ視線を向ける。
商会長の部下で、江流と年齢が同じくらいの男性が「これは失礼」と慇懃無礼に江流へ一礼した。
「アイオライトは3月の誕生石でしょう。大切な贈り物で石の選択をお間違えになるのは……。本当にアイオライトでよろしいのでしょうか? 貴族になって日が浅いとのことですので、心配です」
「商会長」
江流が静かな言葉で言葉を遮り、商会長を見やる。
「こちらの方は?」
「申し訳ございません! とんだご無礼を……!」
「商会長、間違えているお客様が恥をかいたらどうされるのですか。きちんとご説明をして差し上げ……」
江流が深く息を吐き出した。
来歴を話して侮るのは自由だが、自分は既に伯爵家に入った身だ。面と向かって侮っていただいて無言で済ませるなどありえない。
「誕生日石をご存知ですか」
江流の声は落ち着いたトーンでその内心を初対面の未熟な商人如きが推し量るのは困難だ。
「確かにあなたが仰るように誕生月の括りであるならば、アイオライトは3月でしょう。近年において3月の誕生石にアイオライトもあることをご存知なのは流石彼の商会が推薦した商会にいらっしゃるだけのことはありますね」
3月の誕生石と聞き、誕生石というものを知っている者がまず思い浮かべるのはアクアマリンや珊瑚だろう。アイオライトが出てくるのは、希少な宝石を取り扱う商会ならではだ。
だが、誕生石は、月だけでなく日単位でも定められている。誕生花のように複数存在し、アイオライトはその1つだ。
「ですが、多くの方は……」
「商会長」
江流が商会長を一瞥すると、商会長は部下を見やった。
説明し、静かにさせろという言葉なき指示だが、こちらは熟練の商人だけあり、江流の意図を正確に読んだ。
「アイオライトは成功を導く加護があるとも言われるが、昔は結婚の誓いとして準備されることもあった」
通常は両親が結婚の決まった娘に贈るというものなのだが、江流は婿入りする身だし両親は掴まり難い実情もあったので、彼自身が彼女へ共に時を過ごし誠実である誓いとして贈る物だ。
宝石の菫と言う者すらいるこの石でなければ全く意味がない。
江流の宝石として愛や希望を象徴し、夫婦愛を示すエメラルドを選んでいることからも明らかである。
つまり、この短時間で知識面がまだ未熟であることを自ら明かしてしまったのだ。
「先程もアイオライトのブレスレットを去年贈られたと仰っておられた。お調べになっていない訳がなかろう。自身の知識の不足、文献に確認の仕方に問題があると思わないとは嘆かわしい。お客様に謝罪せよ!」
「……申し訳、ございません……」
屈辱と顔に書いてあったが、貴族になって日が浅い自分に読まれるようではまだまだだ。
ともかく、目的のものは入手した。
平身低頭といった様子で商会長が馬車に乗り込む江流を見送りに来る。
「あの方はおいくつの方で?」
「イーゴリと申しまして、今年36になります」
「自分と同い年ですか」
だいぶ下座に並ばされている男は周囲に見張られているようで動けない。
「ここは商会相手の商売が多いと聞きました。それだけに言葉一つで致命傷になるでしょう。少なくとも自分にこの紹介状を渡した彼らはあのような隙は見せません。今回は希少で品質の良い宝石を破格でお譲りいただいたので不問にしますが――努々ご注意ください、ヴィーク・コーディエ商会長」
「肝に銘じましてございます」
江流はその答えを聞き、馬車のドアを閉めた。
商談が終わった後は紹介状をくれた彼らの所に戻ることになっているのだが――江流はそれまでのやり取りを思い出し、軽く肩を竦めた。
「少しやりすぎたかな?」
イーゴリの物言いが非常に不快だったとは言え、彼以外の対応に問題なかったのだから。
……不問にしたとは言え、紹介状をくれた彼らに今回のことはちゃんと話すので、そこは悪く思わないでくれ。
●
江流の目の前には、2つの手巻き式蓋付き懐中時計が置かれてある。
時計部分に関しては職人を手配し、恙無く納品され、文字盤にはそれぞれの石、アイオライトとエメラルドが輝いている。
白金製であることも踏まえれば、彼女程の貴人が持っても遜色ない品となった。
君と同じ時間を生きる証として贈り、君と同じ時を刻んでいる証として自身でも持つ。
2人寄り添って、互いの懐中時計が同じ速度で秒針を刻む、その音を確かめ合うひと時はそう持てるものではないかもしれないが、数少なかろうとそんな時を大切に。
導きの石が示す道を歩く彼女を支えられる自分であるように。
と、傍の止まり木で毛繕いしていた揺満月が江流の肩の上まで飛んできた。
「コロコロ」
「お前のこともちゃんと彼女に紹介してやらないとな」
江流にとって大切な相棒を実はまだ紹介できていない。
けれども、江流にとっては大切な相棒なのだから彼女に紹介しなければ。
「俺は冒険者として、彼女とは出会ったんだ。彼女は貴族の姫君で……あ、今は侯爵なんだけれどね、ともかく、冒険者でなければ言葉を交わす機会もなかっただろう女性なんだ」
江流は自分の肩の上で首を傾げる揺満月へこの懐中時計を贈る彼女がどのような女性なのか話して聞かせる。
きっと、揺満月には人の世界の理など解らないだろうが、共に生きたいと願った女性がどのような女性なのかを話したかった。
「この蓋にお前を刻んだのは、俺達は繋がっているって意味も込めたんだ」
今この瞬間のように物理的に距離が離れていようと、空を飛ぶ鳥が大地の制約を受けないように、この思いも距離の制約を受けないという意味だ。
俺達は同じ時を刻み、共に生きている、と。
「懐中時計は……俺は仙人にはなれないって思った証でもあるんだ」
妹がいた。ロスガリア大陸を自分の足で歩き、行きたい場所に行きたいと願う妹は、そんなささやかな夢でさえ叶えることができなかった。
『仙人ってのになると霞食って生きていけるらしいんだよな。楽そうでいいだろ?』
口でそう言い、仙人の道を模索した。
仙人になれば、その能力で妹の寿命を延ばせるのではないかと思ったからだ。結局、間に合わなかったけれど、その考えをすぐに排することはできなかった。
超越者と呼ばれ、神の階段を登れば、仙人になれるのかもしれないと思ったこともある。
でも、それは違う。
人間性が失われること、自分が自分でなくなるということは、仙人の道を模索した自分も彼女と共に生きたいと思った自分も放棄することになる。妹が身に行きたかったであろうロスガリアを見ている両親の想いを知る自分も消えてしまう。
神になってしまえば、名前も顔も失われていく。受けた恩義も返せない。
両親は妹しかいない記憶になり、もっと救われない気持ちになるだろう。母が丈夫な子に産めなかったと苦しんでいることを江流は知っている。
冒険者として出会った友人だってそうだ。彼らがいて、今の自分がいる。
何より、彼女が自分のことを忘れ、自分以外の男と結ばれ、その男と同じ時を刻んで共に生きることを想像した時、エルは自分は仙人にはなれないと悟った。
俗物かもしれないが、だからこそ、俺は俺、海神 江流なんだ。
「今のはお前以外には内緒だよ」
江流はその身を摺り寄せてくる揺満月を撫でてやると、揺満月は心地よさそうに目を細めた。
その体は温かく、揺満月が生きていることを実感し、江流は穏やかな気持ちで目を閉じる。
そう、俺は生きている。
これからも、あなたと共に時を刻みたい。
「彼女に早く会いたいな……」
……こんな俺を見せるのもお前だけだから、このことは内緒にしてくれよ、揺満月。