戦乙女
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年12月17日 21時54分12秒
路地を曲がると壁から吊るされた小さな看板が見えた。
「こんな所にお店があったなんて知らなかったわ」
普段立ち寄る事の少ない区画だが『ヴェルクリエの申し子』を自称する身としては、知らなかったのが悔やまれる程お洒落な店構えだった。
「中に依頼人が居るはずだけど……おじゃましまーす」
戸を押し足を踏み入れた店内は、まだ開店前なのか薄暗い。アンネエルカは警戒しつつも店内を奥へと進んでいく。
――ガタッ。
辺りを見渡しながら進んでいたら、店の奥で物音がした。
アンネは咄嗟に身構え、穂鞘の留め具に手をかける。
「……あなたが依頼人さん?」
出てきたハーフリングが両手を上げてこくりと頷いた。
「よかった。誰も居ないのかと思ったわ」
アンネは槍を下ろしほっと胸をなでおろす。
ハーフリングも槍が下ろされたことに安堵したのか、ゆっくりと近づいてきた。
「これは……お手紙?」
差し出されたのは蝋封された封筒。
「開けてもいいのかしら?」
手紙を受け取り問いかけると、ハーフリングは無言で頷いた。
アンネは戸惑いながらも封を開ける。中に入っていたのはやはり手紙だった。
「……ここにある物を一緒に取りに行って欲しいのね?」
手紙に目を通し内容を確認する。
「でも、ここって……」
手紙に添えられたもう一枚の紙を見る。
それはヴェルクリエの地下に広がる水路の地図だった。
●
石造りの地下水路はとても寒かった。
軽装だったハーフリングに防寒着を貸して、地図を頼りに進む。
「ここから先には行った事がないのだけれど……」
依頼では何度か訪れた事のある場所だったが、それも一部だけ。
一説には地上の街よりも大きいと言われるヴェルクリエの地下水路は、未調査の場所も多い。そして、地図に示されていたのもそんな場所だった。
手紙に書かれた依頼の内容は、このハーフリングの護衛。地図が示す場所にある『あるモノ』を共に取ってきて欲しいというものだった。
「とりあえず、進むわね」
反応の変わらない依頼者に少しうんざりしながらも、アンネは薄暗い水路を進む。
石造りの水路に水音と足音だけが響いていた。
「――そろそろつくはずだけど」
と、再び地図に視線を落とした時。突然、首筋に痛みを感じた。
アンネは咄嗟に手を当てると、暖かいものに触れる。それは小さな手だった。
「えっ……なん……で……」
きっと毒だ。そう思うのに何もできない。――意識が遠のいていく。
――ごめんなさい。
意識の途切れる瞬間、そう聞こえた気がした――。
●
「ここは……」
靄のかかる視界が光を捉える。
「痛っ……」
体を動かすと、手首から痛みが走った。
――鎖……捕まっている……?
痛みにつられ頭上を見る。両手を鎖に繋がれ天井から吊り下げられていた。
「もうお目覚めか。流石は冒険者だな」
かけられた声に振り向く。
「こんなガキ一匹捕まえるのにここまで仕込みがいるんだから、厄介な存在だぜ、冒険者ってのはよ」
ナイフをちらつかせる男は、吐き捨てる様にそう口にした。
「私をどうする気……」
そう呟きながらも、目だけを動かし部屋を見渡す。
石造りの小部屋。近くで水音がするから多分、地下水路。相手はこのナイフ男と後ろに3人。それに――。
「お客様がお前みたいなのをご所望なんだ」
視線だけで辺りを伺うアンネに、男はナイフを向けてきた。
「お前みたいな獣混じりでも需要があるんだ。ありがたく思えよ」
顎にナイフを当てられながら、アンネはキッと男を睨み付ける。
「おぉ、怖っ。だが、どうやっても逃げられないぜ」
明らかに勝ち誇った笑みだった。確かにそう思わせる程にこの鎖は頑丈そうだ。
「こんな事をして、ただで済むと思っているの」
意識は随分覚醒した。後は正確な情報を得るために時間を稼いで――。
「ふんっ! まだ自分の立場が分かってないようだ――な!」
男はアンネの言葉が気に食わなかったのか、ナイフでアンネの服の胸元を裂いた。
裂け目から未成熟な乳房がこぼれる。
「商品は商品らしく、黙ってな。あまりうるさい様だと……わかってるよな?」
男がナイフを舌で舐め、いやらしい視線をアンネに向けた。
悲鳴を上げなかった自分を褒めてあげたい。
それでもこの状況は好転する気配はない。どうにかして切っ掛けを――。
そう頭の中で思考を巡らせていると、思いもしなかった影が目の前に立ち塞がった。
「あぁ? なにしてやがる」
はだけた肌を隠す様に前に立ってくれたのは、あのハーフリングだった。
「なんだ、その反抗的な目は。人質がどうなってもいいのか?」
――人質を取られて無理やりいう事を聞かされていたのね。
「邪魔だ、どけ!」
男が思い切り拳を横に振るう。
顔面を強打され、ハーフリングが壁際まで吹き飛ばされた。
「なんてことを……許さない」
「許さない? はっ、今のお前に何ができる!」
悔しさに歯噛みするアンネを見て、はははっ!と勝ち誇ったように笑う男。
「あいつ等はもう用なしだ。お前を捕まえた褒美に苦しまずに殺してやるよ」
その男の言葉に――頭の中で何かが弾けた。
『黙りなさい!』
「ぐっ!」
裂帛の気合いを浴び、男が膝をつく。
瞬間、アンネは吹き飛ばされたハーフリングに向け叫んだ。
「お願い!」
強い意志のこもった声にハーフリングはハッと顔を上げると、壁に立て掛けられてあったアンネの槍に手を伸ばす。
傷む身体を押し、懸命に投げた槍は――。
「……ははは! 残念だったな、作戦失敗か!」
床を転がりアンネの足元までしか届かない。
竦み状態から抜けた男が大きく笑い、槍を回収しようと歩み寄る。
「それはどうかしら」
だが、アンネもまた微笑んでいた。
その笑顔に不穏な気配を感じたのか、男はすぐにナイフを構えるが。
「ありがとう。とても助かったわ」
ちらりとハーフリングを見やり、アンネは足元に転がる槍を爪先で蹴り上げる。
そして、吊り下げられた両手に力を込め体をくの字に折り曲げると、宙を舞う槍を両足でとらえた。
「手で振るうだけが槍じゃないわ!」
瞬間、両足で挟んだ槍が光に包まれる。
脚を捻り横薙ぎに振られた槍は、一陣の軌跡を残しアンネを捕えていた鎖を切断した。
「なにっ!?」
驚愕する男を前に、アンネは舞う様に着地すると槍を構える。
ずしりと手に馴染む重さが心地いい。この槍はパパが私の為にあつらえてくれた特注品。この世に二本とないかけがえのない相棒。
挑発する様に槍先で床を二度打った。
「くっ! こっちには人質が――」
と、男が言い終わるよりも早くアンネの姿が消えた。
――ドンッ!
「心配しなくても、忘れていないわ」
「なっ!?」
その声に振り向けば、吹き飛ばされ気絶する味方。そして、アンネに抱かれたハーフリングの少女の姿が目に映る。
微笑むアンネに安堵した少女は、手を引かれるままに壁沿いを歩く。
「少しだけ待っていて。もう、あなた達には指一本触れさせないから」
少女をあのハーフリングに手渡し微笑むと、アンネはもう一度男達に向かう。
「ようやくこれで正々堂々と勝負ができるわ」
「くっ、お前等やってしまえ!」
一分の隙も無く槍を構えるアンネに、男が残った仲間に声をかける。
「人を人とも思わないあなた達の卑劣は私が許さない! さぁ、かかってらっしゃいな!」
相棒を握る手に力を込め、アンネエルカは床を蹴った――。
「こんな所にお店があったなんて知らなかったわ」
普段立ち寄る事の少ない区画だが『ヴェルクリエの申し子』を自称する身としては、知らなかったのが悔やまれる程お洒落な店構えだった。
「中に依頼人が居るはずだけど……おじゃましまーす」
戸を押し足を踏み入れた店内は、まだ開店前なのか薄暗い。アンネエルカは警戒しつつも店内を奥へと進んでいく。
――ガタッ。
辺りを見渡しながら進んでいたら、店の奥で物音がした。
アンネは咄嗟に身構え、穂鞘の留め具に手をかける。
「……あなたが依頼人さん?」
出てきたハーフリングが両手を上げてこくりと頷いた。
「よかった。誰も居ないのかと思ったわ」
アンネは槍を下ろしほっと胸をなでおろす。
ハーフリングも槍が下ろされたことに安堵したのか、ゆっくりと近づいてきた。
「これは……お手紙?」
差し出されたのは蝋封された封筒。
「開けてもいいのかしら?」
手紙を受け取り問いかけると、ハーフリングは無言で頷いた。
アンネは戸惑いながらも封を開ける。中に入っていたのはやはり手紙だった。
「……ここにある物を一緒に取りに行って欲しいのね?」
手紙に目を通し内容を確認する。
「でも、ここって……」
手紙に添えられたもう一枚の紙を見る。
それはヴェルクリエの地下に広がる水路の地図だった。
●
石造りの地下水路はとても寒かった。
軽装だったハーフリングに防寒着を貸して、地図を頼りに進む。
「ここから先には行った事がないのだけれど……」
依頼では何度か訪れた事のある場所だったが、それも一部だけ。
一説には地上の街よりも大きいと言われるヴェルクリエの地下水路は、未調査の場所も多い。そして、地図に示されていたのもそんな場所だった。
手紙に書かれた依頼の内容は、このハーフリングの護衛。地図が示す場所にある『あるモノ』を共に取ってきて欲しいというものだった。
「とりあえず、進むわね」
反応の変わらない依頼者に少しうんざりしながらも、アンネは薄暗い水路を進む。
石造りの水路に水音と足音だけが響いていた。
「――そろそろつくはずだけど」
と、再び地図に視線を落とした時。突然、首筋に痛みを感じた。
アンネは咄嗟に手を当てると、暖かいものに触れる。それは小さな手だった。
「えっ……なん……で……」
きっと毒だ。そう思うのに何もできない。――意識が遠のいていく。
――ごめんなさい。
意識の途切れる瞬間、そう聞こえた気がした――。
●
「ここは……」
靄のかかる視界が光を捉える。
「痛っ……」
体を動かすと、手首から痛みが走った。
――鎖……捕まっている……?
痛みにつられ頭上を見る。両手を鎖に繋がれ天井から吊り下げられていた。
「もうお目覚めか。流石は冒険者だな」
かけられた声に振り向く。
「こんなガキ一匹捕まえるのにここまで仕込みがいるんだから、厄介な存在だぜ、冒険者ってのはよ」
ナイフをちらつかせる男は、吐き捨てる様にそう口にした。
「私をどうする気……」
そう呟きながらも、目だけを動かし部屋を見渡す。
石造りの小部屋。近くで水音がするから多分、地下水路。相手はこのナイフ男と後ろに3人。それに――。
「お客様がお前みたいなのをご所望なんだ」
視線だけで辺りを伺うアンネに、男はナイフを向けてきた。
「お前みたいな獣混じりでも需要があるんだ。ありがたく思えよ」
顎にナイフを当てられながら、アンネはキッと男を睨み付ける。
「おぉ、怖っ。だが、どうやっても逃げられないぜ」
明らかに勝ち誇った笑みだった。確かにそう思わせる程にこの鎖は頑丈そうだ。
「こんな事をして、ただで済むと思っているの」
意識は随分覚醒した。後は正確な情報を得るために時間を稼いで――。
「ふんっ! まだ自分の立場が分かってないようだ――な!」
男はアンネの言葉が気に食わなかったのか、ナイフでアンネの服の胸元を裂いた。
裂け目から未成熟な乳房がこぼれる。
「商品は商品らしく、黙ってな。あまりうるさい様だと……わかってるよな?」
男がナイフを舌で舐め、いやらしい視線をアンネに向けた。
悲鳴を上げなかった自分を褒めてあげたい。
それでもこの状況は好転する気配はない。どうにかして切っ掛けを――。
そう頭の中で思考を巡らせていると、思いもしなかった影が目の前に立ち塞がった。
「あぁ? なにしてやがる」
はだけた肌を隠す様に前に立ってくれたのは、あのハーフリングだった。
「なんだ、その反抗的な目は。人質がどうなってもいいのか?」
――人質を取られて無理やりいう事を聞かされていたのね。
「邪魔だ、どけ!」
男が思い切り拳を横に振るう。
顔面を強打され、ハーフリングが壁際まで吹き飛ばされた。
「なんてことを……許さない」
「許さない? はっ、今のお前に何ができる!」
悔しさに歯噛みするアンネを見て、はははっ!と勝ち誇ったように笑う男。
「あいつ等はもう用なしだ。お前を捕まえた褒美に苦しまずに殺してやるよ」
その男の言葉に――頭の中で何かが弾けた。
『黙りなさい!』
「ぐっ!」
裂帛の気合いを浴び、男が膝をつく。
瞬間、アンネは吹き飛ばされたハーフリングに向け叫んだ。
「お願い!」
強い意志のこもった声にハーフリングはハッと顔を上げると、壁に立て掛けられてあったアンネの槍に手を伸ばす。
傷む身体を押し、懸命に投げた槍は――。
「……ははは! 残念だったな、作戦失敗か!」
床を転がりアンネの足元までしか届かない。
竦み状態から抜けた男が大きく笑い、槍を回収しようと歩み寄る。
「それはどうかしら」
だが、アンネもまた微笑んでいた。
その笑顔に不穏な気配を感じたのか、男はすぐにナイフを構えるが。
「ありがとう。とても助かったわ」
ちらりとハーフリングを見やり、アンネは足元に転がる槍を爪先で蹴り上げる。
そして、吊り下げられた両手に力を込め体をくの字に折り曲げると、宙を舞う槍を両足でとらえた。
「手で振るうだけが槍じゃないわ!」
瞬間、両足で挟んだ槍が光に包まれる。
脚を捻り横薙ぎに振られた槍は、一陣の軌跡を残しアンネを捕えていた鎖を切断した。
「なにっ!?」
驚愕する男を前に、アンネは舞う様に着地すると槍を構える。
ずしりと手に馴染む重さが心地いい。この槍はパパが私の為にあつらえてくれた特注品。この世に二本とないかけがえのない相棒。
挑発する様に槍先で床を二度打った。
「くっ! こっちには人質が――」
と、男が言い終わるよりも早くアンネの姿が消えた。
――ドンッ!
「心配しなくても、忘れていないわ」
「なっ!?」
その声に振り向けば、吹き飛ばされ気絶する味方。そして、アンネに抱かれたハーフリングの少女の姿が目に映る。
微笑むアンネに安堵した少女は、手を引かれるままに壁沿いを歩く。
「少しだけ待っていて。もう、あなた達には指一本触れさせないから」
少女をあのハーフリングに手渡し微笑むと、アンネはもう一度男達に向かう。
「ようやくこれで正々堂々と勝負ができるわ」
「くっ、お前等やってしまえ!」
一分の隙も無く槍を構えるアンネに、男が残った仲間に声をかける。
「人を人とも思わないあなた達の卑劣は私が許さない! さぁ、かかってらっしゃいな!」
相棒を握る手に力を込め、アンネエルカは床を蹴った――。