卓上遊戯におけるアルパカとチーズの使い道
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2020年12月14日 19時37分13秒
●
それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部でのお話――。
●
ルアンナは窮地に立たされていた。
ルアンナは新米冒険者である。
いや、ルアンナは当時、学生であったはず――であるのだが。
今この時において、ルアンナは新米冒険者なのだ。
現状を説明しよう。
新米冒険者ルアンナは一攫千金を狙える珍しい素材を求め、迷宮都市エドゥノーグのダンジョンを訪れていたのだ。
迷宮に住まうカエル達を退けながら、奥へ、奥へと潜っていった――まではよかった。
そこでルアンナを襲ったのは。
自らがこれから進むべき道をあれこれと思い悩む、と表現をすると思春期にありがちな現象にも思える事態。
――端的に言えば、迷子であった。
闇を照らす『松明』が手元に残っていれば、どれだけ良かったであろう。そのようなものは迷っている間にとっくに尽きた。
空腹を満たす『獣の肉』や『チーズ』が手元に残っていれば、どれだけ良かったであろう。そのようなものも迷っている間にとっくに尽きた。
今、ルアンナの手元に残されているものは『剣』『弓矢』『盾』くらいのものであろう。
ルアンナはこれらの物品で、この状況を切り抜けなければならない。
ああ、敵を目の前にしている状況であれば、これらも有用であったろう。
しかし、ルアンナの相手は複雑に枝分かれした道である。
一体、どうしろというのか――。
だが、ルアンナには秘策があった。
ルアンナは鞘に納めてあった剣を手にすると、スラリ、と抜き放ち――。
●
「地面に『剣』を立て手を放し、倒れた方向に進みます!」
ルアンナが勢いよく放った宣言に。
「アウトだな」
「アウト、ですかねえ」
「アウトだと思います!」
ユーリと、その召使であるクラウス、ミアの容赦ない判定が下った。
ルアンナが実際に居たのは、卓上遊戯倶楽部の部室。
新米冒険者としてダンジョンに潜っていたのはゲーム中の話であり、ルアンナはやっぱりパンクリアース学園の学生であった。
●
時は遡り、部室にいつもの四人が集合した場面。
「今日はお題にアドリブで回答する遊戯をしようか」
卓上遊戯倶楽部の活動は、例によってユーリの提案から始まる。
「お題に回答、ですか?」
「ああ。今回のテーマは『新米冒険者が遭遇しそうなトラブル』で揃えよう」
ルアンナはまだピンときていないようだが、ユーリはテキパキと準備を進めていく。
「各自に三枚ずつ紙を配ったから、それにさっき言ったテーマで何か書いてくれ。あ、それぞれにバラバラのことを書くようにな」
「は、はい。とりあえずやってみます」
ユーリから渡された紙に、ルアンナは勝手が分からないながらも、一生懸命に考えたトラブルの内容を記していった。
「皆、書けたか? それでは、その紙は裏向きでよく混ぜて、他の三人に一枚ずつ配ってくれ。その後、自分に配られた紙も混ぜておくように」
ユーリの指示通りにすることで、四人の前には三件ずつのトラブルが積みあがったことになる。
「次に、あったら冒険の役に立ちそうなもの、または微妙に役に立たないものを適当に考えて、一個ずつカードに記していってくれ」
やはりユーリから数枚ずつ配られた白紙のカードに、参加者は思い思いの物品を記入した。
ユーリは参加者が記入したカードを裏向きで集め、よくシャッフルして一つの山にする。
そして参加者達に、カードを三枚ずつ引いて手札にするよう促した。
「これで準備は完了だ。これから何をするか、まず僕が例を見せようじゃないか」
そう言って、ユーリは参加者が考えたトラブルが書かれているはずの紙を、一枚めくってみせた。
「僕が出会うトラブルは『ホームシックになってしまった。家が恋しい』……って、誰だこれ書いたの」
「さて誰でしょうねー?」
ユーリが他の参加者達を見回したとき、ミアがユーリから目を反らしていた。
「こほん、まあいい。僕は、これを手札にあるアイテムを使って、どう解決するか自由に宣言する」
「そして、私達でそれが成功しそうかどうか判断するわけです」
ユーリの説明をクラウスが補足する。
「なるほど……では、解決に成功したらどうなるのですか?」
「いいところに気が付いたな。それは――成功したら、嬉しくなる」
ルアンナの素朴な疑問に、ユーリは妙に堂々と答えた。
「まあ、勝ち負けを競ってもいいのだが、あまり気にしないでもいいだろう」
「そういうものですか」
ユーリの説明にルアンナもひとまずは納得した様子である。
「さて、では解決法の宣言をするぞ。僕は『お母さん』から貰った『アルパカ』の『ぬいぐるみ』で心を癒す!」
ユーリは高らかに宣言しながら、宣言に含まれるアイテムが書かれた三枚のカードを手札から出した。
「おお、そうするのですね……それはホームシックも癒されると思います!」
宣言を聞いたルアンナは、素直に感心している様子だった。
「ユーリ様もお母様が恋しかったのですね。ええ、ええ、いいと思いますよ」
「ユーリ様には私達がいるじゃないですかー。でも、解決はできてると思いますー!」
クラウスとミアは茶化しながらも、成功は認めていた。
「うるさい、あくまでこれはゲームの話だろっ……成功を認められたのは嬉しいけどな」
ユーリは拗ねてみせながらも、まんざらでもない様子だ。
「と、こんな感じだ。次はセラフィアス君がやってみたまえ」
「はい、ではやってみます……!」
ユーリに促され、ルアンナは目前に積まれたトラブルの山から一枚を表にする。
そこには『ダンジョンで迷ってしまった。このままでは遭難だ!』と書かれていた。
こうして、冒頭の状況は生まれたのだ。
●
ルアンナが初挑戦の回答を終え、全会一致の失敗判定を貰ったところに場面を戻そう。
「やっぱり運任せではダメですよね……」
「そういうことだな。同じ剣でも、通った通路の壁を傷つけて印をつける……だとか、やりようによっては違ったかもしれない」
肩を落とすルアンナに、ユーリが助言する。
「なるほど……同じものでも、考える人が違えば、思いつく使い方が変わるのが面白いですね」
助言された方法でも成功するかどうかは分からない部分はあったが、いずれにせよルアンナは発想の多様性に感心したようだった。
「ちなみに、残りの手札は何でしたか?」
「これは、見せてしまっても?」
クラウスのふとした問いに、ルアンナは残った手札の扱いを尋ね返す。
「そうだな、使った分を補充でもいいのだが、この際だから手札を公開して全部入れ替えてしまうのも面白いだろう」
「では、残りの手札は『弓矢』と『盾』でした」
ユーリもそのあたりは拘らないようであったので、ルアンナも手札を明らかにすることにした。
「それはまた極端でしたねー」
「弓矢……やっぱり矢を地面に落として、通った場所の目印にするとかですかね? ユーリ様のアイデアに引っ張られていますが」
手札事故に同情するミアに、他の手札の使い道を考えてみせるクラウスと、らしい反応がそれぞれ返ってくる。
「よし、じゃあ次はクラウスに手本を見せてもらおうじゃないか」
「御意に」
進行を担うユーリに話を振られたクラウスが、了承の意を示す。
「私が対処するのは『欲しい装備品がある。だが金が無い』ですね」
遭遇するトラブルが明らかになっても、クラウスは涼しい顔をしている。
「整いました。私は『薬草』を採集して『バックパック』に詰めることで持ち帰り、それを販売することで資金を得ます」
余裕を見せるだけあって、クラウスの回答は堅実であった。
「お金を地道に稼ぐ、真っすぐな答えでいいと思います!」
ルアンナを始めとし、この回答に文句があるものは居ない。
「残っていた手札は『先輩冒険者』か。こいつに金を無心する、というのではだめなのか?」
「先輩に借りを作ると後が怖いでしょう」
ユーリは残っていた手札で何か面白いことができないか考えていたようで。
それに対するクラウスの返しは、なんだか世知辛かった。
「はい、じゃあ次は私ですね! なるほど『クリーパーと戦闘! しかし仲間が逃げ出してしまった!』と」
やっと出番が来たと、ミアは元気にトラブルの内容を読み上げる。
「じゃあ、私は『ロープ』で作った投げ縄で逃げ出した人を捕まえます! そして『怪しい小瓶』に入った薬で眠らせ、囮に……」
「わわ、そんなのいいんですか!?」
ミアの実に物騒な回答に、焦るルアンナ。
「仲間は無事では済まないだろうな。しかしクリーパーから逃げ延びることには成功している……?」
「成功のためにクリーパーを倒す必要があるかどうかにもよるんじゃないでしょうか?」
その一方で、ユーリとクラウスは判定を成功にすべきか真剣に協議していたのだった。
●
「さて次に僕が出会うトラブルは『野盗に遭遇した!』だが……うん、少しばかり待って欲しい」
「制限時間でもカウントしましょうか?」
ユーリが悩む様子を、クラウスが楽しそうに茶化す。
「わかった、わかったから! ではいくぞ……僕は『10000G』を野党に渡し、命だけは助けて貰う!」
「屈してるじゃないですか!」
ユーリの苦し紛れの回答に、ルアンナのツッコミが鋭く刺さった。
「命は助かっているからいいだろう!」
「冒険者の設定なんですから、そこは財産も守りましょうよ……残りの手札は何でしたか?」
ユーリの主張に呆れたルアンナが手札の開示を求めると。
「いや『リス』はまだしも『謎のおっさん』って何なんだ。ていうか誰が入れたんだ……」
ユーリの残りの手札は、野盗退治に役立てるには、難があると言えば難があるものであった。
「謎のおっさんの正体が実は凄腕の先輩だった、っていうのはいかがです?」
「実はそれも考えなくもなかったが、何となく嫌すぎてやめたんだ……」
クラウスの提案した内容もユーリの想定にはあったようだ。
ユーリにとって謎のおっさんの何がそんなにいけないのだろう?
それこそ謎ではある。
いいではないか、おっさん。
「次は私……! 今度こそ成功させます!」
さあ、いよいよルアンナがリベンジを行う機会が訪れた。
勢い込んでルアンナがめくったトラブルは『マーメイドの魔法の歌が聞こえる。惑わされてはいけない!』であった。
そしてユーリの提案で、全て入れ替えた現在の手札は『ゴリラ』『エール』『蝋燭』の三枚。
「こ、これは……」
ルアンナは再び、窮地に陥った。
この事態をどうにか解決すべく、ルアンナの思考は忙しく働き始める。
ペットのゴリラに指示し、マーメイドを退治させる?
しかし相手はマーメイド、水中に暮らす亜人だ。
水の中に居る相手に対し、ゴリラは手が出るであろうか?
否。出ないであろう。
では、惑わされる意識も無くなるまで、エールを飲んで酔っ払う?
しかし酔っぱらう過程で判断能力が低下しては、かえって惑わされはしまいか?
となれば、残された選択肢は……蝋燭。
別名、キャンドル。言い換えたところで、何ら使い道に変わりはないが。
とにかく、このままでは新米冒険者ルアンナの命はそれこそ風前の灯火だ。
どうにか、この命を蝋燭でもって繋がねばならない。
――ここでルアンナは閃いた。
先の見えない暗闇の中を手探りで歩いていたら、蝋燭に火が灯って進むべき道が見えたような、そんな気がした。
「答えができました! 私はこの『蝋燭』を――」
「蝋燭を?」
答えができたと宣言したルアンナを、ユーリ達が見守る中。
「『蝋燭』を耳に差して耳栓にし、歌が聞こえないようにします!」
「ぶっ!?」
ルアンナが張り切って行なった回答に、耳から蝋燭が生えた絵面を想像したユーリ達は思わず吹き出してしまったのだった。
●
「はは! いやはや、こいつは傑作だ!」
「も、もう! 笑わないでください! これでも一生懸命考えたんですよっ」
未だ笑いが止まらない様子のユーリに、ルアンナは恥ずかしそうにしながらも食ってかかる。
「いや、悪かった悪かった。しかしセラフィアス君、こうも思わないかい? こうして皆で笑える、というのはそれはそれで、素晴らしいことだと」
ユーリは謝罪の言葉を述べながらも、ルアンナに一つの考え方を説いた。
「え? ……ふふ、確かにそうかもしれませんねっ」
それを聞いたルアンナは、自身もまた笑顔を見せたのだった。
それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部でのお話――。
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ルアンナは窮地に立たされていた。
ルアンナは新米冒険者である。
いや、ルアンナは当時、学生であったはず――であるのだが。
今この時において、ルアンナは新米冒険者なのだ。
現状を説明しよう。
新米冒険者ルアンナは一攫千金を狙える珍しい素材を求め、迷宮都市エドゥノーグのダンジョンを訪れていたのだ。
迷宮に住まうカエル達を退けながら、奥へ、奥へと潜っていった――まではよかった。
そこでルアンナを襲ったのは。
自らがこれから進むべき道をあれこれと思い悩む、と表現をすると思春期にありがちな現象にも思える事態。
――端的に言えば、迷子であった。
闇を照らす『松明』が手元に残っていれば、どれだけ良かったであろう。そのようなものは迷っている間にとっくに尽きた。
空腹を満たす『獣の肉』や『チーズ』が手元に残っていれば、どれだけ良かったであろう。そのようなものも迷っている間にとっくに尽きた。
今、ルアンナの手元に残されているものは『剣』『弓矢』『盾』くらいのものであろう。
ルアンナはこれらの物品で、この状況を切り抜けなければならない。
ああ、敵を目の前にしている状況であれば、これらも有用であったろう。
しかし、ルアンナの相手は複雑に枝分かれした道である。
一体、どうしろというのか――。
だが、ルアンナには秘策があった。
ルアンナは鞘に納めてあった剣を手にすると、スラリ、と抜き放ち――。
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「地面に『剣』を立て手を放し、倒れた方向に進みます!」
ルアンナが勢いよく放った宣言に。
「アウトだな」
「アウト、ですかねえ」
「アウトだと思います!」
ユーリと、その召使であるクラウス、ミアの容赦ない判定が下った。
ルアンナが実際に居たのは、卓上遊戯倶楽部の部室。
新米冒険者としてダンジョンに潜っていたのはゲーム中の話であり、ルアンナはやっぱりパンクリアース学園の学生であった。
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時は遡り、部室にいつもの四人が集合した場面。
「今日はお題にアドリブで回答する遊戯をしようか」
卓上遊戯倶楽部の活動は、例によってユーリの提案から始まる。
「お題に回答、ですか?」
「ああ。今回のテーマは『新米冒険者が遭遇しそうなトラブル』で揃えよう」
ルアンナはまだピンときていないようだが、ユーリはテキパキと準備を進めていく。
「各自に三枚ずつ紙を配ったから、それにさっき言ったテーマで何か書いてくれ。あ、それぞれにバラバラのことを書くようにな」
「は、はい。とりあえずやってみます」
ユーリから渡された紙に、ルアンナは勝手が分からないながらも、一生懸命に考えたトラブルの内容を記していった。
「皆、書けたか? それでは、その紙は裏向きでよく混ぜて、他の三人に一枚ずつ配ってくれ。その後、自分に配られた紙も混ぜておくように」
ユーリの指示通りにすることで、四人の前には三件ずつのトラブルが積みあがったことになる。
「次に、あったら冒険の役に立ちそうなもの、または微妙に役に立たないものを適当に考えて、一個ずつカードに記していってくれ」
やはりユーリから数枚ずつ配られた白紙のカードに、参加者は思い思いの物品を記入した。
ユーリは参加者が記入したカードを裏向きで集め、よくシャッフルして一つの山にする。
そして参加者達に、カードを三枚ずつ引いて手札にするよう促した。
「これで準備は完了だ。これから何をするか、まず僕が例を見せようじゃないか」
そう言って、ユーリは参加者が考えたトラブルが書かれているはずの紙を、一枚めくってみせた。
「僕が出会うトラブルは『ホームシックになってしまった。家が恋しい』……って、誰だこれ書いたの」
「さて誰でしょうねー?」
ユーリが他の参加者達を見回したとき、ミアがユーリから目を反らしていた。
「こほん、まあいい。僕は、これを手札にあるアイテムを使って、どう解決するか自由に宣言する」
「そして、私達でそれが成功しそうかどうか判断するわけです」
ユーリの説明をクラウスが補足する。
「なるほど……では、解決に成功したらどうなるのですか?」
「いいところに気が付いたな。それは――成功したら、嬉しくなる」
ルアンナの素朴な疑問に、ユーリは妙に堂々と答えた。
「まあ、勝ち負けを競ってもいいのだが、あまり気にしないでもいいだろう」
「そういうものですか」
ユーリの説明にルアンナもひとまずは納得した様子である。
「さて、では解決法の宣言をするぞ。僕は『お母さん』から貰った『アルパカ』の『ぬいぐるみ』で心を癒す!」
ユーリは高らかに宣言しながら、宣言に含まれるアイテムが書かれた三枚のカードを手札から出した。
「おお、そうするのですね……それはホームシックも癒されると思います!」
宣言を聞いたルアンナは、素直に感心している様子だった。
「ユーリ様もお母様が恋しかったのですね。ええ、ええ、いいと思いますよ」
「ユーリ様には私達がいるじゃないですかー。でも、解決はできてると思いますー!」
クラウスとミアは茶化しながらも、成功は認めていた。
「うるさい、あくまでこれはゲームの話だろっ……成功を認められたのは嬉しいけどな」
ユーリは拗ねてみせながらも、まんざらでもない様子だ。
「と、こんな感じだ。次はセラフィアス君がやってみたまえ」
「はい、ではやってみます……!」
ユーリに促され、ルアンナは目前に積まれたトラブルの山から一枚を表にする。
そこには『ダンジョンで迷ってしまった。このままでは遭難だ!』と書かれていた。
こうして、冒頭の状況は生まれたのだ。
●
ルアンナが初挑戦の回答を終え、全会一致の失敗判定を貰ったところに場面を戻そう。
「やっぱり運任せではダメですよね……」
「そういうことだな。同じ剣でも、通った通路の壁を傷つけて印をつける……だとか、やりようによっては違ったかもしれない」
肩を落とすルアンナに、ユーリが助言する。
「なるほど……同じものでも、考える人が違えば、思いつく使い方が変わるのが面白いですね」
助言された方法でも成功するかどうかは分からない部分はあったが、いずれにせよルアンナは発想の多様性に感心したようだった。
「ちなみに、残りの手札は何でしたか?」
「これは、見せてしまっても?」
クラウスのふとした問いに、ルアンナは残った手札の扱いを尋ね返す。
「そうだな、使った分を補充でもいいのだが、この際だから手札を公開して全部入れ替えてしまうのも面白いだろう」
「では、残りの手札は『弓矢』と『盾』でした」
ユーリもそのあたりは拘らないようであったので、ルアンナも手札を明らかにすることにした。
「それはまた極端でしたねー」
「弓矢……やっぱり矢を地面に落として、通った場所の目印にするとかですかね? ユーリ様のアイデアに引っ張られていますが」
手札事故に同情するミアに、他の手札の使い道を考えてみせるクラウスと、らしい反応がそれぞれ返ってくる。
「よし、じゃあ次はクラウスに手本を見せてもらおうじゃないか」
「御意に」
進行を担うユーリに話を振られたクラウスが、了承の意を示す。
「私が対処するのは『欲しい装備品がある。だが金が無い』ですね」
遭遇するトラブルが明らかになっても、クラウスは涼しい顔をしている。
「整いました。私は『薬草』を採集して『バックパック』に詰めることで持ち帰り、それを販売することで資金を得ます」
余裕を見せるだけあって、クラウスの回答は堅実であった。
「お金を地道に稼ぐ、真っすぐな答えでいいと思います!」
ルアンナを始めとし、この回答に文句があるものは居ない。
「残っていた手札は『先輩冒険者』か。こいつに金を無心する、というのではだめなのか?」
「先輩に借りを作ると後が怖いでしょう」
ユーリは残っていた手札で何か面白いことができないか考えていたようで。
それに対するクラウスの返しは、なんだか世知辛かった。
「はい、じゃあ次は私ですね! なるほど『クリーパーと戦闘! しかし仲間が逃げ出してしまった!』と」
やっと出番が来たと、ミアは元気にトラブルの内容を読み上げる。
「じゃあ、私は『ロープ』で作った投げ縄で逃げ出した人を捕まえます! そして『怪しい小瓶』に入った薬で眠らせ、囮に……」
「わわ、そんなのいいんですか!?」
ミアの実に物騒な回答に、焦るルアンナ。
「仲間は無事では済まないだろうな。しかしクリーパーから逃げ延びることには成功している……?」
「成功のためにクリーパーを倒す必要があるかどうかにもよるんじゃないでしょうか?」
その一方で、ユーリとクラウスは判定を成功にすべきか真剣に協議していたのだった。
●
「さて次に僕が出会うトラブルは『野盗に遭遇した!』だが……うん、少しばかり待って欲しい」
「制限時間でもカウントしましょうか?」
ユーリが悩む様子を、クラウスが楽しそうに茶化す。
「わかった、わかったから! ではいくぞ……僕は『10000G』を野党に渡し、命だけは助けて貰う!」
「屈してるじゃないですか!」
ユーリの苦し紛れの回答に、ルアンナのツッコミが鋭く刺さった。
「命は助かっているからいいだろう!」
「冒険者の設定なんですから、そこは財産も守りましょうよ……残りの手札は何でしたか?」
ユーリの主張に呆れたルアンナが手札の開示を求めると。
「いや『リス』はまだしも『謎のおっさん』って何なんだ。ていうか誰が入れたんだ……」
ユーリの残りの手札は、野盗退治に役立てるには、難があると言えば難があるものであった。
「謎のおっさんの正体が実は凄腕の先輩だった、っていうのはいかがです?」
「実はそれも考えなくもなかったが、何となく嫌すぎてやめたんだ……」
クラウスの提案した内容もユーリの想定にはあったようだ。
ユーリにとって謎のおっさんの何がそんなにいけないのだろう?
それこそ謎ではある。
いいではないか、おっさん。
「次は私……! 今度こそ成功させます!」
さあ、いよいよルアンナがリベンジを行う機会が訪れた。
勢い込んでルアンナがめくったトラブルは『マーメイドの魔法の歌が聞こえる。惑わされてはいけない!』であった。
そしてユーリの提案で、全て入れ替えた現在の手札は『ゴリラ』『エール』『蝋燭』の三枚。
「こ、これは……」
ルアンナは再び、窮地に陥った。
この事態をどうにか解決すべく、ルアンナの思考は忙しく働き始める。
ペットのゴリラに指示し、マーメイドを退治させる?
しかし相手はマーメイド、水中に暮らす亜人だ。
水の中に居る相手に対し、ゴリラは手が出るであろうか?
否。出ないであろう。
では、惑わされる意識も無くなるまで、エールを飲んで酔っ払う?
しかし酔っぱらう過程で判断能力が低下しては、かえって惑わされはしまいか?
となれば、残された選択肢は……蝋燭。
別名、キャンドル。言い換えたところで、何ら使い道に変わりはないが。
とにかく、このままでは新米冒険者ルアンナの命はそれこそ風前の灯火だ。
どうにか、この命を蝋燭でもって繋がねばならない。
――ここでルアンナは閃いた。
先の見えない暗闇の中を手探りで歩いていたら、蝋燭に火が灯って進むべき道が見えたような、そんな気がした。
「答えができました! 私はこの『蝋燭』を――」
「蝋燭を?」
答えができたと宣言したルアンナを、ユーリ達が見守る中。
「『蝋燭』を耳に差して耳栓にし、歌が聞こえないようにします!」
「ぶっ!?」
ルアンナが張り切って行なった回答に、耳から蝋燭が生えた絵面を想像したユーリ達は思わず吹き出してしまったのだった。
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「はは! いやはや、こいつは傑作だ!」
「も、もう! 笑わないでください! これでも一生懸命考えたんですよっ」
未だ笑いが止まらない様子のユーリに、ルアンナは恥ずかしそうにしながらも食ってかかる。
「いや、悪かった悪かった。しかしセラフィアス君、こうも思わないかい? こうして皆で笑える、というのはそれはそれで、素晴らしいことだと」
ユーリは謝罪の言葉を述べながらも、ルアンナに一つの考え方を説いた。
「え? ……ふふ、確かにそうかもしれませんねっ」
それを聞いたルアンナは、自身もまた笑顔を見せたのだった。