放課後の卓上遊戯
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2020年12月10日 18時52分16秒
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それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園での、ある放課後のお話――。
●
「まずは一度でいい。部室に来てみては貰えないだろうか」
同じくパンクリアース学園に通う貴族の坊であるユーリに、ルアンナが連れて来られたのは「卓上遊戯倶楽部」なる集まりの部室であった。
「これから付き合ってもらう遊戯は、このカードだ」
そう言ってユーリは一山のカードを取り出し、ルアンナに手渡した。
「カード……」
それを手に取ったルアンナはカードを広げてみる。
するとカードの一枚一枚に、勇壮な冒険者を描いていると思われる版画が刷られているのが分かった。
鎧で身を固めた戦士、短剣を握る斥候、祈りを捧げる癒し手、杖を掲げた魔術師、弓を引き絞る射手――そして。
「これは――アルパカ?」
冒険者達が描かれたカードの中にあって、それだけ異質な一枚のカードが目に留まり、ルアンナはそれをしげしげと眺めた。
「そう、アルパカだ。このゲームは冒険者達を雇って、最終的にアルパカにコネを結ぶことを目的とする」
なるほど、つまりは――どういうことでしょう? ユーリの説明を聞いてなお、ルアンナは首を傾げている。
「何はともあれ、まずは一度やってみることだ。習うより慣れろと言うだろう?」
ユーリはカードを返すよう促すと、テキパキとゲームの準備を開始したのだった。
●
「さあ皆、一枚ずつ手札は手に持ったな?」
「は、はい」
ユーリの呼びかけに、ルアンナはぎこちないながらも返事を返す。
テーブルの周囲には、ルアンナとユーリに加え、ユーリの召使二人を合わせた計四人の参加者が席についていた。
なお、体験入部であるルアンナを含め、部員はこれで全てである。
「さて、最初の手番だが、最もアルパカに唾をかけられた回数が多い者が行う――と説明書きにある」
「えっと……」
ユーリの説明にルアンナが分かりやすく戸惑っていると。
「と、いうのは大体はジョークなので、適当な方法で決めてしまっていいだろう。クラウス、四面ダイスだ」
「はい、ユーリ様」
ユーリが悪戯っぽく笑い、召使の一人、クラウスに正四面体の賽子を振らせた。
「では僭越ながら、と」
その結果、最初の手番となったクラウスは、テーブル中央に置かれた山札から、一枚のカードを引く。
「最初は慎重にいきましょう。出すのは癒し手です」
そしてクラウスは二枚になった手札の中から一枚を選び、場に公開した。
山札から一枚引いては、手札から一枚出し、出したカードの効果を解決する。
これがこのゲームの基本的な進行だ。
「癒し手、癒し手……なるほど、次の番まで安全になるのですね」
ルアンナは自分の手元に配られた、カードの一覧に視線を落とし、先ほど出されたカードの効果を確認する。
ルアンナが理解した通り、手番が一巡する間、他の者が出したカードにより受ける効果を無効化するカードが癒し手だ。
「では、次どうぞ」
クラウスに促され、ユーリのもう一人の召使が、一枚引き、一枚出す。
召使が出したカードに描かれていたのは、魔術師。
そこで召使は残したほうの手札を山札に戻し、よくシャッフルしてから、改めて手札を一枚引き直した。
これは魔術師の効果によるものである。
「次はいよいよ私ですね」
ルアンナの手元にも元々、魔術師のカードがあったが、新たに山札から引いたカードは射手であった。
「じゃあ射手を使ってみます」
初めて触れるゲームに戸惑いながらも、ルアンナは手を進めていく。
射手は他の参加者一人を指名し、その者が手札に持つカードを言い当てることができれば、相手をゲームから脱落させることのできるカードだ。
このゲームにおいて、自分以外の全ての参加者を脱落させることが勝利する方法の一つである。
「えと、指名するのは――」
きょろきょろと周囲を見回したルアンナの目がユーリと合ったとき。
ユーリはニッコリと微笑んだが――目は笑っていない気がした。
「そ、そちらの方にします」
結局、ルアンナの白羽の矢は召使に突き立った。
「うーん、カードは何をお持ちでしょうか」
「そいつは魔術師で引き直してるし、カードの枚数を見るのもいいぞ」
悩むルアンナに、ユーリが助言を添える。
改めてルアンナがカード一覧に視線を走らせると、なるほど、各カードには全部で何枚存在するか、内訳が数字として記されているようだ。
射手が一番多く五枚。次いで魔術師が四枚。癒し手が三枚、斥候が二枚、戦士が一枚と続き……アルパカも一枚。
「それでは、私が出した分を除いても沢山ありそうな射手にしておきますね。どうですか?」
ルアンナに問われた召使は「正解!」と言って、持っていた手札を公開した。それはまさしく射手であった。
「やった!」
「ふ、うまく決まると気持ちがいいだろ?」
初めての戦果に喜ぶルアンナに、ユーリも何故か自分のことのように得意気だ。
「さてセラフィアス君が一仕事してくれたところで、僕は癒し手を使わせて貰うよ」
そして手番はユーリまで回り、癒し手が場に出される。これで場に出た癒し手は二枚目だ。
「私ですね。今度は攻めに回りますよ。射手でセラフィアスさんを指名。貴女は射手をお持ちですね?」
「違います」
次にクラウスの射手がルアンナに射かけてきたが、ルアンナの手札は魔術師であったために、難を逃れた。
「クラウスさん、貴方の手札は魔術師ですね」
そこでお返しとばかりに、ルアンナは山札から引いた射手でクラウスを指名。
こちらは見事に命中し、クラウスは脱落となった。
「これで一騎打ちか。僕は斥候で君の手札を見せてもらうよ」
ここでユーリが新たに出した斥候は、指名した相手の手札を見る効果を持つ。
カードを出した者が望めば、相手と手札を交換することもできるが、ユーリはそれを選ばなかった。
「これは……魔術師を出しますね」
次にルアンナが山札から引いたのは戦士だ。
戦士は場に出したとき、手札に残しているカードの数字を指名した相手と比べ、数字がより小さい手札を自分が持っていたら相手を脱落させる、というカード。
相手を脱落させることができなければ、代わりに自分が脱落するという、まさに諸刃の剣だ。
魔術師を残して勝負を挑むのは分が悪いと判断したルアンナは、魔術師の効果で新たに斥候を引いた。
「それでは僕は射手を出す。ズバリ、君の手札はアルパカだ」
「違います!」
ここまで出ることのなかったアルパカの名前をユーリは宣言した。ルアンナは即座にそれを否定する。
アルパカは場に出すことができないカード。
射手でアルパカの持ち主を脱落させた者は、即座にゲームに勝利するというルールもある。
その代わり、山札が尽きることでゲームが終わった場合は持ち主が勝利するという、まさに死守すべき対象だ。
「ということは……私が出すのは、戦士ですっ」
ここで戦士を引いたルアンナの手元には、戦士と斥候の二枚のカードがあった。
斥候がすでに一枚場に出ている以上、数字の比較で斥候に勝てるのは――アルパカのみ。
しかしユーリは先程、一枚しかないはずのアルパカを、ルアンナが持っているであろうと宣言した。
つまり、ユーリの手札にアルパカは、ない――はずだった。
「えっ!?」
驚きの声を上げるルアンナの視線の先で、悪戯な笑みを浮かべたユーリの手にアルパカのカードが掲げられていた。
それは、ルアンナ・ミュラーの姓がまだセラフィアスだった頃。
パンクリアース学園での、ある放課後のお話――。
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「まずは一度でいい。部室に来てみては貰えないだろうか」
同じくパンクリアース学園に通う貴族の坊であるユーリに、ルアンナが連れて来られたのは「卓上遊戯倶楽部」なる集まりの部室であった。
「これから付き合ってもらう遊戯は、このカードだ」
そう言ってユーリは一山のカードを取り出し、ルアンナに手渡した。
「カード……」
それを手に取ったルアンナはカードを広げてみる。
するとカードの一枚一枚に、勇壮な冒険者を描いていると思われる版画が刷られているのが分かった。
鎧で身を固めた戦士、短剣を握る斥候、祈りを捧げる癒し手、杖を掲げた魔術師、弓を引き絞る射手――そして。
「これは――アルパカ?」
冒険者達が描かれたカードの中にあって、それだけ異質な一枚のカードが目に留まり、ルアンナはそれをしげしげと眺めた。
「そう、アルパカだ。このゲームは冒険者達を雇って、最終的にアルパカにコネを結ぶことを目的とする」
なるほど、つまりは――どういうことでしょう? ユーリの説明を聞いてなお、ルアンナは首を傾げている。
「何はともあれ、まずは一度やってみることだ。習うより慣れろと言うだろう?」
ユーリはカードを返すよう促すと、テキパキとゲームの準備を開始したのだった。
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「さあ皆、一枚ずつ手札は手に持ったな?」
「は、はい」
ユーリの呼びかけに、ルアンナはぎこちないながらも返事を返す。
テーブルの周囲には、ルアンナとユーリに加え、ユーリの召使二人を合わせた計四人の参加者が席についていた。
なお、体験入部であるルアンナを含め、部員はこれで全てである。
「さて、最初の手番だが、最もアルパカに唾をかけられた回数が多い者が行う――と説明書きにある」
「えっと……」
ユーリの説明にルアンナが分かりやすく戸惑っていると。
「と、いうのは大体はジョークなので、適当な方法で決めてしまっていいだろう。クラウス、四面ダイスだ」
「はい、ユーリ様」
ユーリが悪戯っぽく笑い、召使の一人、クラウスに正四面体の賽子を振らせた。
「では僭越ながら、と」
その結果、最初の手番となったクラウスは、テーブル中央に置かれた山札から、一枚のカードを引く。
「最初は慎重にいきましょう。出すのは癒し手です」
そしてクラウスは二枚になった手札の中から一枚を選び、場に公開した。
山札から一枚引いては、手札から一枚出し、出したカードの効果を解決する。
これがこのゲームの基本的な進行だ。
「癒し手、癒し手……なるほど、次の番まで安全になるのですね」
ルアンナは自分の手元に配られた、カードの一覧に視線を落とし、先ほど出されたカードの効果を確認する。
ルアンナが理解した通り、手番が一巡する間、他の者が出したカードにより受ける効果を無効化するカードが癒し手だ。
「では、次どうぞ」
クラウスに促され、ユーリのもう一人の召使が、一枚引き、一枚出す。
召使が出したカードに描かれていたのは、魔術師。
そこで召使は残したほうの手札を山札に戻し、よくシャッフルしてから、改めて手札を一枚引き直した。
これは魔術師の効果によるものである。
「次はいよいよ私ですね」
ルアンナの手元にも元々、魔術師のカードがあったが、新たに山札から引いたカードは射手であった。
「じゃあ射手を使ってみます」
初めて触れるゲームに戸惑いながらも、ルアンナは手を進めていく。
射手は他の参加者一人を指名し、その者が手札に持つカードを言い当てることができれば、相手をゲームから脱落させることのできるカードだ。
このゲームにおいて、自分以外の全ての参加者を脱落させることが勝利する方法の一つである。
「えと、指名するのは――」
きょろきょろと周囲を見回したルアンナの目がユーリと合ったとき。
ユーリはニッコリと微笑んだが――目は笑っていない気がした。
「そ、そちらの方にします」
結局、ルアンナの白羽の矢は召使に突き立った。
「うーん、カードは何をお持ちでしょうか」
「そいつは魔術師で引き直してるし、カードの枚数を見るのもいいぞ」
悩むルアンナに、ユーリが助言を添える。
改めてルアンナがカード一覧に視線を走らせると、なるほど、各カードには全部で何枚存在するか、内訳が数字として記されているようだ。
射手が一番多く五枚。次いで魔術師が四枚。癒し手が三枚、斥候が二枚、戦士が一枚と続き……アルパカも一枚。
「それでは、私が出した分を除いても沢山ありそうな射手にしておきますね。どうですか?」
ルアンナに問われた召使は「正解!」と言って、持っていた手札を公開した。それはまさしく射手であった。
「やった!」
「ふ、うまく決まると気持ちがいいだろ?」
初めての戦果に喜ぶルアンナに、ユーリも何故か自分のことのように得意気だ。
「さてセラフィアス君が一仕事してくれたところで、僕は癒し手を使わせて貰うよ」
そして手番はユーリまで回り、癒し手が場に出される。これで場に出た癒し手は二枚目だ。
「私ですね。今度は攻めに回りますよ。射手でセラフィアスさんを指名。貴女は射手をお持ちですね?」
「違います」
次にクラウスの射手がルアンナに射かけてきたが、ルアンナの手札は魔術師であったために、難を逃れた。
「クラウスさん、貴方の手札は魔術師ですね」
そこでお返しとばかりに、ルアンナは山札から引いた射手でクラウスを指名。
こちらは見事に命中し、クラウスは脱落となった。
「これで一騎打ちか。僕は斥候で君の手札を見せてもらうよ」
ここでユーリが新たに出した斥候は、指名した相手の手札を見る効果を持つ。
カードを出した者が望めば、相手と手札を交換することもできるが、ユーリはそれを選ばなかった。
「これは……魔術師を出しますね」
次にルアンナが山札から引いたのは戦士だ。
戦士は場に出したとき、手札に残しているカードの数字を指名した相手と比べ、数字がより小さい手札を自分が持っていたら相手を脱落させる、というカード。
相手を脱落させることができなければ、代わりに自分が脱落するという、まさに諸刃の剣だ。
魔術師を残して勝負を挑むのは分が悪いと判断したルアンナは、魔術師の効果で新たに斥候を引いた。
「それでは僕は射手を出す。ズバリ、君の手札はアルパカだ」
「違います!」
ここまで出ることのなかったアルパカの名前をユーリは宣言した。ルアンナは即座にそれを否定する。
アルパカは場に出すことができないカード。
射手でアルパカの持ち主を脱落させた者は、即座にゲームに勝利するというルールもある。
その代わり、山札が尽きることでゲームが終わった場合は持ち主が勝利するという、まさに死守すべき対象だ。
「ということは……私が出すのは、戦士ですっ」
ここで戦士を引いたルアンナの手元には、戦士と斥候の二枚のカードがあった。
斥候がすでに一枚場に出ている以上、数字の比較で斥候に勝てるのは――アルパカのみ。
しかしユーリは先程、一枚しかないはずのアルパカを、ルアンナが持っているであろうと宣言した。
つまり、ユーリの手札にアルパカは、ない――はずだった。
「えっ!?」
驚きの声を上げるルアンナの視線の先で、悪戯な笑みを浮かべたユーリの手にアルパカのカードが掲げられていた。