I am always at your side.

キャラクターノベル(グループ)制作 卯佐乃心月納品 2023年12月30日 15時30分29秒

 人類の存亡を賭けた大一番、帝都奪還作戦。
 その戦況の厳しさは、街から消えた人の影だけで無く、立ち並ぶ商店も品薄で饒舌に語り始めた。
 不作を乗り越えた大陸の食料庫(リーンエス王国)にあるルクサリア領でもってしても、行き交う人々の背は丸く、顔色は暗かった。
 今夜はいよいよ聖霊節。だが街には例年ほどの活気は見られない。
 何故ならば、めぼしい物資は早々に戦地へ送り込まれ、また戦時下を理由に華やかな催しを控えるべしとの空気を誰もが共有していたからである。
(それで、も。ごちそうだけは、用意したい、よね)
 食べることが好きなだわおにいちゃんにと、健気な思いを胸にキッチンに立つサラ。
 聖霊節(この日)のために蓄えてきた香草や肉、露店を回って集めた野菜を丁寧に調理していく。
「あとはこれを……」
 薪オーブンにミートパイを入れ砂時計を倒すと、やれることは終わってしまった。
「ジュジュ、おいで」
 ピンク色のマグカップにお茶を入れて、ジュジュの毛繕いを始めるサラ。
「今日ね、お店の人に、旦那さんは元気? って聞かれちゃった。告白、もまだなのに、そんな風に、見えるの、かな。ジュジュは、どう思う?」
 照れくさそうに笑うサラ。
「でも、あと何回、一緒にごはん、食べられる、かな」
 領地を守るためにそう遠くない未来、騎士であるだわは戦地へと向かうのだろう。
 ジュジュが鼻を鳴らした。
「え? 恋人に、なりたくないの、かっ、て? い、言えないよ~。恥ずかしい、し、今のままでも……」
 刹那、毛流れの中にだわが雨に打たれ事切れているビジョンが見えた。
「っ!?」
 反射的に持っていたブラシから手を離す。
 それは静電気に驚いたからか、それとも無意識に避けていた不安を見たからか。
(……明日もし、世界が終わっちゃうとして、もう、会えないとしたら)
 砂時計が音も無く落ちていく。ひと砂毎に恋しさが募っていくような気がした。
「うん、そうだね。わたし、言わなかったら……きっと、ずっと、後悔する」

◆ 

「メリーユールフェス」
「メリー、ユールフェス」
 空色とピンク色のマグカップを鳴らして乾杯をするだわとサラ。
「帰りが遅くなってすまない」
「ううん。お疲れ様、だよ。それに、これもありが、とう」
 それは、だわがせめてもと持ち帰った柊の葉。小瓶に生けて早速テーブルに飾った。
「食事、沢山用意してくれたんだな」
「えへへ、こんな世の中だけど、ね、お祝い、したかったの」
「そうだな、それに無事でいてくれて何よりだ」
 バターを乗せたふかし芋、スモークサーモンとチーズのサンド、兎肉のミートパイ。温野菜のサラダは、以前だわが美味しいと言っていたサラダと同じ味付けになっている。
 料理の説明をしながらサラが取り分けようとするのだが、トングの大きさが手に合わず苦戦していた。
「貸してみろ」
 サラの頑張る姿は微笑ましかったが、冷めてしまってはと盛り付けはだわが代わった。
「どお? おいしい?」
「……ん、美味しい」
 ぱあっと、まるでテラリウムのように輝く笑顔を見せるサラ。
 その反応にだわは一層料理が旨く感じた。
 今日の出来事やこれまでの聖霊節の事、今年1年あったこと。久しぶりにゆっくりと食事を囲んで会話する2人。
 だわの食も進んだことから、用意された料理は綺麗に皿から消えていた。
「だわおにいちゃん、お茶、おかわりは?」
「ああ、貰おうか」
 ランタンの灯りの下、湯気の昇るマグカップへそれぞれのペースで息を吹きかける。
 テーブルの下ではジュジュが丸くなって寝ている。
 まるで平穏を切り取った1枚の絵画のような時間。
 凪いでいた時を動かしたのはサラだった。
「あの、ね。お話が、あるの」
「話?」
 ぎゅっとカップを握りながら、一生懸命に言葉を探している彼女を見て、だわは椅子を座り直した。
「わたし……だわおにいちゃんと、ずっと、こんな時間が続くと、思ってた、の。でも、今、こんなに大きな戦いが、起きて」
 声を立てるとサラの言葉を取り逃がしてしまいそうで、だわは静かに頷きながら聞いている。
「だわおにいちゃんも、行っちゃうかも、しれなくて」
「……そう、だな」
「わたしの前から、いなくなっちゃうかも、しれないって、思ったら……」
 その先に躊躇いがあるのか、サラの言葉が止まった。
 だわはサラの所へ行くと腰をかがめ、言い聞かせるように話す。
「サラ。俺にはこの領を守る役目がある。サラを守る考えに変わりは無い。だが、求められれば出なければならない」
「だいじょう、ぶ。わかってる、よ。わかってるから、言わないと、なの」
「ん……」
 短く返されただわの声に背中を押されて、小さな口から恋心がこぼれた。
「だわおにいちゃん……好き。好きだよ」
 顔は上げられなかった。服を握る指先は震えている。
「ずっと、ずっと、好きなの」
 幼いながらも熱を持ったその声に、少し戸惑いながら、答えを探して視線を迷わせるだわ。
「……そう、か ずっと……」
 歯切れの悪い相槌を聞いて、サラは取り繕うように慌てた。
「びっくり、させちゃった……よね。ごめん、なさい。どうしても、伝えたかった、の。迷惑、だったら……忘れて、ね」
 サラは涙を堪えて微笑んだ。
 それを見てだわは、屈んでいた腰を落として膝を立てると、意を決したように口を開いた。
「俺は……サラを、家族のように大切に思っている……これは、サラのいう感情と同じものではないと思う。だから、今ここでサラの気持ちに応えることはできない。すまない」
 ぽろっと、サラの目から涙がこぼれた。
 だわはそのしずくを親指で拭うと、サラを自分に向かせる。
「けれど、ちゃんと覚えておく。勇気を出して伝えてくれたんだろう。……ありがとう」
 サラは、今更ながら利己的な発言に気がついて恥ずかしくなった。そして、だわの相手を尊重する感謝を聞いて、惚れ直す不毛さに涙が止まらなくなってしまった。
「わたしこそ……ありがと、う。えへへ、美味しかった、ね。食器、ちょうだい。洗ってくる」
 決まりの悪い空気に耐えられなくなる前に、サラは勢いよく立ち上がった。
 小さな手で重ねるように食器をかき集めると、だわを背にキッチンへ向かった。
 不意に朧気になるサラの輪郭。彼は咄嗟に腕を伸ばした。
「サラ……っ?」
 だわは、自分の声の強ばりに驚いた。宙には自分の手が伸びている。
(なんだ、この手は……)
 同居を始めた理由を考えれば自分が思いに応えられない今、彼女はここを発つかもしれない。その考えは、だわの胸に不快感を植えた。
 所在を失った手のひらを握り、予期せず襲った感情を探りながら伝える。
「……出て行く必要は、ない、からな」
「それは……待って、ても、いい……ってこと?」
 小さな背中が震えている。その感情は見えない。
「サラさえ、良ければ……だが。また出迎えてくれるか?」
 どうやらだわは、サラの言う"待つ"の意味を額面通りに受け止めたようだった。
 それを聞いたサラは、袖で目元を拭ってから笑って振り向いて見せた。
「もちろん、だよ。おかえりなさい、は、任せて、ね?」
「ああ」
 相変わらず無表情なだわの短い返答。それでもサラは胸を撫で下ろしていた。
(ジュジュ。だわおにいちゃんが、わたしに、居場所を残してくれた、よ)
 聖霊節の夜が終わる。
 優しい眠りにつく前に、サラは静かに願った。
 だわも誠実に願った。
 
――どうか、優しき隣人に幸せを

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0