アルシエラの釣り休暇

アルシエラ・ライゼルアルシエラ・ライゼル更新 2023年01月16日 22時47分53秒

師匠に添削して貰った自作SSです。

アルシエラの釣り休暇
 ──時は冬の早朝。霜が降りた川原の積み重なる石の上にて。
 白狼のハーフビーストである冒険者のアルシエラは、今日は長い髪をツインテールにして、相棒の狼のシアを付き添いに川で釣りをしていた。シアは、アルシエラの傍らで丸まり、しっかり寒さ対策をしている。

「川は良い……この世の全てが見える」

空いた片手で、あるはずもない顎髭をさすり目を細め、シャルガネ仙人を気取っていた。彼女にとってはその雰囲気は醍醐味なのだ。例え真実とかけ離れていたとしても。

「ほっほっほっ、これはまた凄いお嬢さんじゃの」

 アルシエラが背後から聴こえた声に振り返ると、杖をついた老人がひとり、こちらに歩いてきていた。曲がった腰で釣り竿袋を背負っており、おそらくはアルシエラと目的を同じくする者だろう。

「隣に座らせて貰って良いかな?」と聞かれたので、アルシエラが「良いよ」と答えると、ご老人はアルシエラの隣に空いたの石の上に腰かけた。そして釣り竿を取り出すと、アルシエラを見てニッと不敵な笑みを浮かべた。アルシエラは老人から只者ではない雰囲気を感じとり、思わず口を開く。

「ふっ、私とすごい勝負、する?」

 無表情ながら声音に不遜さを孕むアルシエラに対し、しかし老人は笑顔で頷いた。

「では先に魚が釣れた方が勝ち、という事でどうじゃろか?」
「わかった。それでいい」

 アルシエラは頷き、ふたりは少し距離を取って釣りを始めた。
 しばらくすると老人の釣り針に魚がかかり、老人は「ほいっ」っと川魚を釣り上げた。

「なかなかじゃの」
「おー、すごい」

 アルシエラが賞賛の声を送り、勝負はあっけなく幕を閉じた。

「よっと……それじゃ、そろそろ帰るね」

 アルシエラが釣り竿を引き上げると、釣り糸の先には釣り針ではなく真っ直ぐな裁縫針がついていた。

「お前さん、それじゃあ魚は釣れんぞ?」
「だって、仙人は生魚を食べないから」
 
 そう去り際に言い残しながら去っていく彼女を、老人は呆気に取られた顔で見送る。そして「一本取られた」と笑うのだった。
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0