【CP】帝国難民キャンプ2-4

イズレンディル・パラリム
コボルトとの戦闘は壮絶でしたが、何とか撃退できましたね。これで、しばらくは難民の方々も安心して過ごせるでしょう。
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
どうやら、まだ少し問題はあるようだけどね。ともあれ、難民キャンプに大きな被害が出なくて良かったよ。
イズレンディル・パラリム
そうですね。周辺のエルフと難民の方々の関係も良くなりましたし、彼らにとっては大きな一歩です。
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
それじゃ、アタイ達は祝杯でもあげようか。今回の勝利と難民キャンプの未来に――、
イズレンディル・パラリム
――乾杯!
冒険者たちの活躍により、帝国難民キャンプはコボルトの大集団から守られました!
"「とうちゃん、もうすぐ着く?」
子供の声は震えていた。
泣いても何も変わらないと10にも満たない歳で悟ってしまい、辛さを我慢して笑顔を浮かべようとしている。
だが貧しさと寒さの前には儚い抵抗だ。
帝国から逃げ出してから何もかもを失い、残っているのは互いだけだ。
冬用のコートも、とっくの昔に数日分の食料に化けた。
「ああ、もうすぐだよ」
上着を脱いで肩にかけてやる。
帝国の冬よりはましとはいえ十分に強烈な寒さが体に染みこんでくる。
「だからもうちょっと頑張ろうな」
諦めたら楽になれる。
そんな、死へ直結する考えが脳裏に浮かんで消えなない。
北にあるという難民キャンプを目指し、何度も倒れそうになりながら一歩ずつ進む。
「おーい!」
元気な声が聞こえる。
「おーい、そこのにーちゃんにガキんちょ、聞こえてるなら返事しろよ」
本当に元気だ。
鹿毛のコートを着込んだリットが駆けてきて数歩手前で止まる。
「こっから先にはキャンプしかねーぜ」
血色が良い。
そして、まるで直前まで料理をしていたような、暖かな食べ物の気配が漂っている。
父親は下手に出て食事や寝床を得ようと考えて、しかし何も言えなかった。
酷く疲れて、もう限界だ。
「またかよ」
リットは後ろ手に持っていた剣を鞘に戻す。
「ついて来い。メシおごってやるからよ」
疑わしい真似をすれば斬るという目を父親にだけ向け、子供の髪に積もっていた雪を乱暴に払う。
「いたいよ」
「うっせー俺のメシ分けてやるんだから文句言うな」
子供の手を引く。
とっさに止めようとした父親も肩に担ぐ。何故かとても手慣れていた。
「何を」
「今にも倒れそうだから運んでるんだよ」
「とうちゃんいい匂いがするよっ」
「今日の昼飯、麦粥に鹿肉が入ってるんだぜ! すげぇだろ」
リットは得意気に胸を張る。
「遠慮せず食えよ。明日からたっぷり働いてもらうんだからなぁ?」
悪ぶって笑っても、親子から何もかもを奪ったもの達と比べると無邪気に等しい。
「今帰ったぞー!!」
リットが天幕の入り口を開ける。
濃厚な脂と麦の香りが、不安も疑いも吹き飛ばした。
●
帝国貴族子女リュシエンヌ・テタールは執務机で数字と格闘していた。
食料の配給を減らせば怠業が発生しかねず、かといって配給を増やせばよく働くようになる訳でもない。
そもそも、食料が豊富にある訳ではないのだ。
「感謝祭に鳥料理を出せる程度の余裕は、ありそうですね」
計算結果を検算して安堵の息を吐き、安堵の息を吐いたことに気付いて微かに苦笑する。
相変わらず苦しいが、凍死者や餓死者がいつ出てもおかしくない状況ではなくなった。
「ねーちゃん!!」
聞き覚えのある声と気配が天幕の外から近づき、了解を得ようともせずに中に入ってくる。
「なんかメシある? 今日の昼飯、新入りに分けたから保存食しかねーんだよ」
貴族に対する態度としても女性に対する態度としても論外だが、リット本人に悪意はない。
悪意がないのにこの言動なのが大問題ともいえるが。
「水を汲んできてください。差入れのパンがありますから一緒に食べましょう」
「分かった!!」
足音が遠ざかる。
「なんだよこれすげー! 滅茶苦茶くみ易いじゃねーか!!」
冒険者が掘った井戸により水調達コストは激減した。
その分の人手と時間を他のことに向けることが出来る。
積雪への備えや春小麦を植えるための開墾などなすべきことは多数あるが、手段に悩める程度には余裕が出来たのだ。
「ねーちゃん水持って来たぜっ。こっちは試作の干し肉!!」
報告書がまだ載っているのに桶を置いて塩まみれの肉を直接置くリット。
指示に従ってくれるのは良いが、礼儀を含めた教養面ではスラム出身者の中でも底辺に近かった。
「お説教は食後にしますね」
野菜が足りない食事だが悪くは無かった。
直後に逃走しようとしたリットを応接用の席へ座らせ、理詰めと誠意で20分ほど言い聞かせてから本題に入る。
「今日は?」
「5人、じゃねーや、さっき2人来たから7人だ」
リットはぐったりしているが受け答えははっきりしている。
「お疲れ様。やはり王国側から? フィルエス大森林経由かしら」
「大森林ってのは知らねーけど全員南から来たぜ。北は0だ。……帝国は今どうなってんのかな」
ヴィントは敵に占拠されたままで、ヴィント以北の状況は不明だ。
最悪の状況である可能性は、決して小さくはない。
「まー、なんとかなると思うぜ。冒険者のねーちゃんとにーちゃん達も協力してくれてるんだし」
気軽に言うリットに、リュシエンヌは曖昧に微笑んでうなずく。
貴族として高度な教育を受けた彼女は、今の状況が薄氷の上に成り立っていることを理解できている。
それでも今だけは、ここまでたどり着けたことを祝いたかった。
執筆:馬車猪
子供の声は震えていた。
泣いても何も変わらないと10にも満たない歳で悟ってしまい、辛さを我慢して笑顔を浮かべようとしている。
だが貧しさと寒さの前には儚い抵抗だ。
帝国から逃げ出してから何もかもを失い、残っているのは互いだけだ。
冬用のコートも、とっくの昔に数日分の食料に化けた。
「ああ、もうすぐだよ」
上着を脱いで肩にかけてやる。
帝国の冬よりはましとはいえ十分に強烈な寒さが体に染みこんでくる。
「だからもうちょっと頑張ろうな」
諦めたら楽になれる。
そんな、死へ直結する考えが脳裏に浮かんで消えなない。
北にあるという難民キャンプを目指し、何度も倒れそうになりながら一歩ずつ進む。
「おーい!」
元気な声が聞こえる。
「おーい、そこのにーちゃんにガキんちょ、聞こえてるなら返事しろよ」
本当に元気だ。
鹿毛のコートを着込んだリットが駆けてきて数歩手前で止まる。
「こっから先にはキャンプしかねーぜ」
血色が良い。
そして、まるで直前まで料理をしていたような、暖かな食べ物の気配が漂っている。
父親は下手に出て食事や寝床を得ようと考えて、しかし何も言えなかった。
酷く疲れて、もう限界だ。
「またかよ」
リットは後ろ手に持っていた剣を鞘に戻す。
「ついて来い。メシおごってやるからよ」
疑わしい真似をすれば斬るという目を父親にだけ向け、子供の髪に積もっていた雪を乱暴に払う。
「いたいよ」
「うっせー俺のメシ分けてやるんだから文句言うな」
子供の手を引く。
とっさに止めようとした父親も肩に担ぐ。何故かとても手慣れていた。
「何を」
「今にも倒れそうだから運んでるんだよ」
「とうちゃんいい匂いがするよっ」
「今日の昼飯、麦粥に鹿肉が入ってるんだぜ! すげぇだろ」
リットは得意気に胸を張る。
「遠慮せず食えよ。明日からたっぷり働いてもらうんだからなぁ?」
悪ぶって笑っても、親子から何もかもを奪ったもの達と比べると無邪気に等しい。
「今帰ったぞー!!」
リットが天幕の入り口を開ける。
濃厚な脂と麦の香りが、不安も疑いも吹き飛ばした。
●
帝国貴族子女リュシエンヌ・テタールは執務机で数字と格闘していた。
食料の配給を減らせば怠業が発生しかねず、かといって配給を増やせばよく働くようになる訳でもない。
そもそも、食料が豊富にある訳ではないのだ。
「感謝祭に鳥料理を出せる程度の余裕は、ありそうですね」
計算結果を検算して安堵の息を吐き、安堵の息を吐いたことに気付いて微かに苦笑する。
相変わらず苦しいが、凍死者や餓死者がいつ出てもおかしくない状況ではなくなった。
「ねーちゃん!!」
聞き覚えのある声と気配が天幕の外から近づき、了解を得ようともせずに中に入ってくる。
「なんかメシある? 今日の昼飯、新入りに分けたから保存食しかねーんだよ」
貴族に対する態度としても女性に対する態度としても論外だが、リット本人に悪意はない。
悪意がないのにこの言動なのが大問題ともいえるが。
「水を汲んできてください。差入れのパンがありますから一緒に食べましょう」
「分かった!!」
足音が遠ざかる。
「なんだよこれすげー! 滅茶苦茶くみ易いじゃねーか!!」
冒険者が掘った井戸により水調達コストは激減した。
その分の人手と時間を他のことに向けることが出来る。
積雪への備えや春小麦を植えるための開墾などなすべきことは多数あるが、手段に悩める程度には余裕が出来たのだ。
「ねーちゃん水持って来たぜっ。こっちは試作の干し肉!!」
報告書がまだ載っているのに桶を置いて塩まみれの肉を直接置くリット。
指示に従ってくれるのは良いが、礼儀を含めた教養面ではスラム出身者の中でも底辺に近かった。
「お説教は食後にしますね」
野菜が足りない食事だが悪くは無かった。
直後に逃走しようとしたリットを応接用の席へ座らせ、理詰めと誠意で20分ほど言い聞かせてから本題に入る。
「今日は?」
「5人、じゃねーや、さっき2人来たから7人だ」
リットはぐったりしているが受け答えははっきりしている。
「お疲れ様。やはり王国側から? フィルエス大森林経由かしら」
「大森林ってのは知らねーけど全員南から来たぜ。北は0だ。……帝国は今どうなってんのかな」
ヴィントは敵に占拠されたままで、ヴィント以北の状況は不明だ。
最悪の状況である可能性は、決して小さくはない。
「まー、なんとかなると思うぜ。冒険者のねーちゃんとにーちゃん達も協力してくれてるんだし」
気軽に言うリットに、リュシエンヌは曖昧に微笑んでうなずく。
貴族として高度な教育を受けた彼女は、今の状況が薄氷の上に成り立っていることを理解できている。
それでも今だけは、ここまでたどり着けたことを祝いたかった。
執筆:馬車猪