【樹謂】見えない真実、護り手の声

アシムベート・グリオウ
まさか、イダ妃がそのようなことを……儂には信じられぬ。
グレイオンス
ヨゼフ帝が火神ボルガニスクの力を収奪したことを思えば有り得ぬ話ではあるまい、グリオウよ。……だが今は、『世界樹』の回復と防衛に全力を注がなければな。
アシムベート・グリオウ
樹花と夜天の住民が退避した先にも帝国過激派が迫っているそうだな。そちらへの対処は?
グレイオンス
ブラックデスと冒険者の一部がビッグオウムで向かっている。間に合うことを祈ろう。
フィルエス大森林で、大きな戦いが始まろうとしています――
(7月12日より 【樹謂】決戦シナリオリリース予定!)
assignment【樹謂】見えない真実、護り手の声 特設ページ
「見えない真実、護り手の声」連動は、フィルエス大森林で起こった大異変に関する一連の出来事を指す。大森林の各地で人や動物が忽然と消え、場所によっては里単位で住民が姿を消している。また、大森林内ではエルフ社会や森の破壊を望む者たちの活動が活発化。時を同じくして、大森林東部の帝国国境方面から正体不明のアンデッド集団も雪崩れ込む。大森林に住まうエルフの最古老の一人グレイオンスは混乱する各氏族の要請を受け、冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。
assignmentここまでの流れ
『青の示指』フェンヌ・ダーニが育成した魔獣によりダメージを受けたフィルエス大森林南東部では(【呪輪】連動)、森の再生をリザードマンや冒険者の助けを借りて行っていた。そのような中、大森林各地でエルフや動物などの消失が多発するようになった。また、シルトラース帝国側からはアンデッドを主体とした謎の勢力が侵攻を開始し、大森林内でもエルフ社会に敵対する何者かが攻撃を始める。
(2022/6/13追記)
各地にできたダンジョンの破壊やとらわれていた者の救出は進む。また、アンデッドを主体とした勢力は帝国皇帝ヨゼフ・バルダス配下の帝国過激派であると判明した。聖鳥(メイルアイレ)氏族の族長は、防衛の策を万全に巡らせながらも初戦で戦死。エルフ社会に対して攻撃する者たち――破壊者たちも「啓示」を聞いているという情報があり、聖鳥族長の不測の死にも関係しているようだ。そのような中、ダンジョンにとらわれていた者たちから「啓示を聞いてはならない」という声を聞いたとの情報がもたらされる。源流氏族の長たちは長く秘匿されてきた世界樹とハイアルヴの真実を明かし、異常事態に対処しようとする。
(2022/7/11追記)
大森林の異変の原因を探るため、大地の守護者でありハイアルヴと同一の存在であるはずの『世界樹』と対話を試みたグレイオンス。その結果、『世界樹』は帝国崩壊の夏にその力の多くを帝国皇女イダ・バルダスに収奪され、現在は彼女がハイアルヴに成り代わって啓示を与えていることが判明した。大森林各地でのダンジョン発生や行方不明者の多発は、世界の危機を感じた世界樹が急速な回復を目指し、人々や動物をエーテルとして吸収しようとしていたためだった。一方、帝国過激派率いるアンデッド勢力は『世界樹』の至近まで到達。グレイオンスは、レイウェストの身柄と引き換えに大森林へもたらされたエーテル石による『世界樹』の回復と『世界樹』の防衛、非戦闘員が退避した集落の防衛を行うため、冒険者ギルドへ再び協力を要請した。
assignment決戦の概要
戦域1:世界樹内部迷宮攻略・エーテル石の安置友軍:ニルヴァーナ、ルカンドラ/敵軍:混沌の残滓たる大腐樹の眷属
戦域2:世界樹防衛・帝国過激派アンデッド軍の迎撃
友軍:グレイオンス、アシムベート・グリオウ、大森林エルフ戦士達
敵軍:ザフィーア・ハイセン、ゾンビ、スケルトン、死霊術師
戦域3:エルフ集落防衛・避難民の保護
友軍:アダム、サチコ、ブラックデス構成員
敵軍:アルヴァス、魔獣ゾンビ、帝国過激派(授恵者、死霊術師)
assignment決戦のスケジュール
2022年7月12日 決戦シナリオ「【樹謂】決戦:見えない真実、護り手の声」公開2022年7月19日 決戦シナリオ 出発
2022年7月30日 決戦シナリオ リプレイ公開(予定)
person_pin関連NPC
フィルエス大森林のエルフの最古老の一人であり、まとめ役。氏族間のもめごとなどが起きた際に調停にあたったり、他国や他種族に対してはフィルエス大森林を代表した立場で外交を行うこともある。
《本連動での動き》
冒険者ギルドとの窓口であり、森のエルフのまとめ役。大森林の異変とアンデッド勢力の侵攻、大森林内で多発する何者かの襲撃に対処するため、冒険者ギルドとアシムベート・グリオウに救援を要請した。
ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。武威ばった人物ではあるが、人柄は良く義理堅い。
《本連動での動き》
大森林の異変にリザードマンたちも巻き込まれたことから、ディズルのリザードマン戦士たちを率いて救援に駆けつけた。
亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われている。帝都から脱出して以降、各国の支援や冒険者達の助力を受けて帝国南部を奪還し、その後も帝国民の安住の地を確保しようと努めている。
《本連動での動き》
フィルエス大森林に侵攻中のアンデッドの大群が父帝ヨゼフと帝国過激派の軍勢であるという情報から、調査・解決のため関わることになった。現在はケンタウロスの『聖地』で人質になっている。
元メドゥの指先幹部「緑の親指」で、現ブラックデス構成員。短距離ながら影を渡る瞬間移動など特異な能力を持つ授恵者。
《本連動での動き》
ドン・ゴーフルにフィルエス大森林へ救援に向かうことを強く申し出、許可された。
ドン・ゴーフルが擁するマフィア「ブラックデス」の幹部にして実働部隊。あくまでも現場思考のため、戦略的な思考は不得手。攻撃魔法としての「消えない炎」を操る授恵者。
《本連動での動き》
フィルエス大森林への救援に行きたいと言うアダムに違和感を覚え、手下のブラックデス構成員とともに同行した。
30代後半のヒューマンの女。崩壊したシルトラース帝国の元宮廷女官長で、帝国過激派の重鎮の一人。高位の死霊術師でもあるらしい。
《本連動での動き》
配下の死霊術師らとともにアンデッドの大群を従え、フィルエス大森林へ侵攻。『聖鳥(メイルアイレ)』やその他氏族の里々に攻撃を仕掛けている。
シルトラース帝国の現皇帝。帝国崩壊に際し死亡したとみられていたが、1222年冬にシグモル火山帯にて生存が確認された。火生の神ボルガニスクの力を奪い、大陸全土を支配すべく更なる力を追い求めている。
《本連動での動き》
ザフィーア・ハイセンら配下の帝国過激派メンバーに命じ、フィルエス大森林を攻撃していると思われる。目標は世界樹とみられているが、現状は戦場に姿を見せていない。
フィルエス大森林の源流氏族『湖水(アエリゼル)』の巫女。亜人の言葉を僅かながら話せる特異な能力を持つ。
《本連動での動き》
『世界樹の核』にエーテル石を捧げるため、ケンタウロス代表のルカンドラとともに『世界樹』内部に入る。
帝国東部辺境にあるケンタウロスの『聖地』に住むとある部族の頭領。人語は解さない特異個体であり、エーテル石を『世界樹』に捧げる瞬間を見届けるため大森林へやって来た。
《本連動での動き》
『世界樹の核』にエーテル石を捧げるため、ニルヴァーナとともに『世界樹』内部に入る。
帝国過激派に属する老ゴブリン・ロードのキャスター。ザフィーアの配下ではないが協力関係にあるらしい。
《本連動での動き》
他の帝国過激派の授恵者や死霊術師とともに、エルフの非戦闘員が避難している集落を襲撃する。
menu_book関連用語・情報
フィルエス大森林
大陸西部に広がる大森林で、エルフが住まう地。ここに住まうエルフたちの暮らしは、大森林に現れるクリーパーなどの『外敵』を鑑みても長く安定している。彼らにとってそれは、外部の種族や国家との交流を不要と判断するには十分な根拠となっていた。
気候は穏やかで、年中暖かく寒さに凍えることもない。常春の森というにふさわしい環境である。ほとんどの氏族で農耕や牧畜は行っておらず、自然の恵みの中で暮らしている。
フィルエス大森林のエルフ達
エルフとは、大陸各地の森の中で暮らし、その森における調和を保ちながら暮らす種族である。
伝統や生活、価値観は異なっても自然を愛し、保守的。
他種族にはない長命性や美貌を誇るものの彼らに選民思想はなく、彼ら自身は"森"という複雑な生命体系に属する一因子、という姿勢が根本にあり、基本的には謙虚な種族である。
環境を破壊し収奪する各国家・都市やドワーフという種への軽蔑は長い歴史の中で綿々と形成され、特にフィルエス大森林においては一部の氏族を除いて他種族との交流が乏しい。歴史的に友好関係を築いてきたリザードマンくらいしか交流がないエルフも、大森林では多数を占める。
氏族について
フィルエス大森林のエルフ達は入植当時から存在する「5氏族」を源流とし、現在では多くの氏族に分かれている。彼らの社会では、各氏族の長が合議によって意見を出し合い、ときに長老が助言を述べる。速断には向かないものの、もとより外部からの干渉を拒む同地域にとっては大きな支障を来たすことはなかったようだ。
源流の5氏族は『メイルアイレ(聖鳥)』『ロスラバ(樹花)』『ルイン(灰火)』『リシルド(夜天)』『アエリゼル(湖水)』である。
ハイアルヴ
「森の意思の代弁者」として各氏族の多くが信仰する霊的存在であり、エルフたちに啓示を与えている。その姿や存在の描かれ方、受け入れられ方は氏族ごとに異なるが、【ハイアルヴ】と交感することができた者は『覡』・『巫女』として、氏族の方針決定のキーパーソンとして扱われている。
(2022/6/13追記)
「ハイアルヴは本来、世界樹と同一の存在である」という源流氏族の長らによって代々秘匿されてきた真実が明かされた。なお、ダンジョンの中にとらわれていた者たちは「啓示を聞いてはならぬ、災厄が来る、我に力を与えよ」という世界樹の声を聞いたという。
帝国過激派(2022/6/13追記)
シルトラース帝国が崩壊する以前から存在していた派閥。当時は「実力派」と呼ばれていた。帝国こそがロスガリアの統治者として相応しく、王国も都市同盟も、その他の小国も全てを滅ぼすか吸収し永久に支配すべし、その為には手段など選んではおれぬ、という思想。帝国崩壊後はヨゼフを匿い、様々な事件の裏で暗躍するメドゥの指先とも蜜月の関係にある。
シグモル火山帯の辺獄では、宮廷道化師アルルカンの一派が人造授恵者ホムンクルスの製造などを行っていた。
破壊者(2022/6/13追記)
ハイアルヴの啓示を受け、それを利用してフィルエス大森林やそこに住むエルフ達に危害を加える者達。大森林のエルフ社会に対して敵意を持つ者が多く、その理由はさまざまである。
エーテル石(2022/6/13追記)
神代からケンタウロスが『聖地』と呼ぶ鉱脈に眠る不思議な光る石。自然にできた鉱石の一種。『神代の戦いで散った小さき神々の遺体が鉱石化したもの』とケンタウロスの間では伝えられている。
1221年に邪竜バイアーディスがドワーフ王国マミダ地域を侵略した争乱(【竜盤】連動)の中で初めて確認され、バイアーディスが都市の生命を纏めてエーテルに変換し収奪するための魔法陣の核としていた。「【竜盤】決戦:ドワーフ王国解放戦線」では、逆にバイアーディスを滅ぼすための魔法陣の核として使用された。
メドゥの指先による悪用が強く懸念されている。
世界樹(2022/7/11追記)
フィルエス大森林中北部にそびえる大樹。実は神代に創造神によって生み出された『大地の守護者』であり、本来は征竜と並ぶ強大な力を持つと言われている。また、その身をもってアストラル界との境界の裂け目を塞いでいるという。かつて大型級クリーパー『混沌の残滓たる大腐樹』とその眷属に寄生されたが、入植したエルフやリザードマンにより討伐された。1220年夏の帝国崩壊時に帝国皇女イダ・バルダスにより力を収奪され、回復を目指して大森林各地で異変を起こしていた。ハイアルヴとしてエルフに啓示を出していたのも『世界樹』であるが、イダに力を奪われてからは彼女がハイアルヴに成り代わっている。
イダ・バルダス(2022/7/11追記)
シルトラース帝国現皇帝ヨゼフ・バルダスの第三皇女であり、皇妃(側室)でもある女性。第八皇子レイウェスト・バルダスの実母として知られている。『大陸一の美姫』と謳われた美貌の姫だが、ヨゼフ帝と婚姻し成人とされた後の彼女の姿を見た者は極端に少ない。1220年の夏、エフレムに命じて『天霧りに消ゆる幽界樹』を召喚させ、帝国を崩壊させた人物とされている。その際に死亡したとみられていたが、1221年秋に単身で帝都に潜入したアダムにより生存が確認された。
人を超えた『超越者』となり、神の領域にも近づいているイダは帝都の幽界樹と多数のクリーパーを支配下に置き、『世界樹』の力をも収奪。ハイアルヴに成り代わってエルフ達に啓示を与えている。
帝国東部辺境に位置するケンタウロスの『聖地』。レイウェスト・バルダスは、食事の配膳に来た初老のケンタウロスに平易な言葉で礼を述べた。通訳がいなくとも意味を察したのか、人の良さそうな笑顔が返ってくる。
エーテル石と彼らの代表者ルカンドラをフィルエス大森林へ送るための人質として、レイウェストはひとり、この地に残っていた。皇子という地位をケンタウロスが正しく理解しているかは不明だが、少なくとも丁重に扱われてはいる。
(大森林に戻れば、どこかで父上の真意を問う機会が得られるかと思ったのだが……)
父帝ヨゼフ・バルダスは、今やその配下たる帝国過激派とともに『世界の敵』になろうとしている。そうなれば、帝国は――否、あの大崩壊 を生き延び、各国からの支援を得てようやく人間らしい暮らしを取り戻しかけている帝国民は、一体どうなってしまうのか。
(……己の理想のために、民を見捨てるなど)
「~~~? ~~~?」
「! すまない、スープが冷めてしまうな……」
心配そうに覗き込む配膳係に作り笑いを見せて、レイウェストはスプーンを取った。
●
「グレイオンス様、こちらは『聖地』からいらしたケンタウロス代表のルカンドラ様ですわ。エーテル石をご提供いただく代わりに、それを『世界樹』の核へくべる瞬間を見届けていただく約束ですの」
『聖地』から帰還した『湖水 』の巫女ニルヴァーナがグレイオンスの元を訪れた時、彼女は見慣れぬ平原の亜人 をひとり伴っていた。
異種族どころか亜人の訪問には面食らった大森林の面々だが、彼の代わりに帝国皇子レイウェストを聖地に残してきたと聞いては、無下に扱うわけにもいかない。
「ルカンドラ殿。エーテル石の提供、深く感謝する」
グレイオンスの言葉は通じない様子だったが、ニルヴァーナが何事かを囁いたところで、ルカンドラは軽い会釈のような仕草を返した。そういえばこの巫女は亜人の言葉を僅かながら話せる能力を持っていたな――と、グレイオンスは思い当たる。
「それで、グレイオンス様。『世界樹』の意思はお聞きになりましたの?」
「うむ。その件については、源流氏族の長らにも伝え終わっている。これからアシムベート・グリオウ殿らと話す。共に来てくれ」
●
イダ・バルダス。
『世界樹』と直接対話することでグレイオンスが得た情報の中に、その名前はあった。
帝国皇帝ヨゼフ・バルダスの実娘にして、大陸一の美姫と謳われた皇妃。レイウェスト・バルダスの実母としても知られる女性だ。
「イダ姫、いやイダ妃が、まさかそのような。……何かの間違いであろう、グレイオンス」
怒気すら孕んだ声を挙げたのは、ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長アシムベート・グリオウだ。弟分のエフレム がかつてイダの護衛騎士であったためか、何らかの交流があったのかもしれない。
「その……イダ様という帝国の皇女様が、『世界樹』の力を奪ったのですか? 俄かには信じがたいお話ですわね」
ニルヴァーナが不思議そうに首を傾げる。ブラックデスのサチコとアダムは、無言のままだ。
「だが、事実だ。『世界樹』は神が創りし大地の守護者……私の問いに偽りを返すとは思えぬ」
グレイオンスの言葉を受けて、アシムベートは不服げに押し黙る。
『イダ・バルダスは『世界樹』の力を収奪し、ハイアルヴに成り代わって人々に啓示を与え続けている』
それが、『世界樹』の告げた真実だった。
――人は時として人を超える。そして神と成り、世界の理を変えるのだ。
かの火神ボルガニスクは、眠りに落ちる間際にそう告げた。
『世界樹』によれば、イダ・バルダスが明確に人を超え――超越者と成ったのは、奇しくも彼女の命によりエフレムが天霧りに消ゆる幽界樹 を召喚し帝国を崩壊させた、二年前の夏だという。
イダは人に非ざる能力 をもって、帝都に生じた幽界樹と無数のクリーパーらを支配下に置いた。更にはイダを滅するべく遠き世界 から参じた神々の幾らかは、彼女に力を収奪され消えた。その中に、帝都まで根の一本を伸ばしていた『世界樹』も含まれていた。
そしてイダは、ハイアルヴとしての力も失った『世界樹』に成り代わり、大森林のエルフ達に気付かれぬまま二年もの間、啓示を与え続けていたという。
「つまり、帝国崩壊以降、ハイアルヴだと思われていたものは『森の意思の代弁者』ではない……ということですね。目的は不明ながら、森やエルフを害する者達 にも啓示が下りるのは、イダ様に森や大地を守るという意思がないからでしょうか」
「イダ妃の意図は『世界樹』にも読み取れん。だが今の『世界樹』にイダ妃の啓示を止める力は残っていない。いずれイダ妃が『神』の領域に達する日が来れば、『世界樹』は抗うこともできず彼女の支配下に置かれるだろう。奪われた力を取り戻すため、エーテルを掻き集めてはいたようだが……」
サチコの問いに答えるグレイオンスの眉間の皺は、これ以上ないほど深まっていた。
イダによる力の収奪を受けた際、『世界樹』が消滅を免れたのは幸運だった。幽界樹の出現以前からイダの存在を危険視し、大森林の環境をやや不安定にしてでもエーテルを吸い上げ、蓄えていたことが功を奏したらしい。
『世界樹』は自身を支配しようと魔手を伸ばし続けるイダの気配に抵抗しながら、再び森のエーテルを吸い集めた。だが、それは大森林のエーテルの流れを偏らせ、生じたエーテル溜まりが『青の示指』フェンヌ・ダーニによって魔獣ケアイデらの育成に利用されてしまう。『世界樹』は枯れ腐った森の再生に力を注ぐことになり、イダの存在を掃えぬまま二年が過ぎた。
「この春から多発した大森林各地でのダンジョン発生と行方不明者の急増は、すべて『世界樹』が行ったことだ。帝国の幽界樹は大地のエーテルを喰い荒らし、その影響はリーンエス王国北部にまで及んでいる。いずれ、この大森林にもその害は達するだろう。『世界樹』は、この世界の崩壊を危惧している。我らエルフを含む人間を切り捨てる事もやむを得ないと判断するほどに」
もはや猶予がないと判断した『世界樹』は、この世界を崩壊から守る力を取り戻すため、大森林に生きる『小さき者』達をエーテルと化して収集する方向に舵を切った。
大森林地下に張り巡らせた根を通じてダンジョンを生じさせ、人々や動物達を誘い込み、その身に宿るエーテルを吸収することで、『世界樹』自身の急速な回復を目指したのだ。
「『啓示を聞いてはならぬ。災厄が来る。我に力を与えよ』……ダンジョンから生還した方々が聞いたという『世界樹』の言葉 には、我々エルフにも見えない真実が隠されていたのですね……」
ハイアルヴの啓示を受けて氏族を導く巫女であるニルヴァーナの心中には、他の誰よりも複雑な感情があった。
「『世界樹』の回復は急務だ。それに、『世界樹』が力を弱めたこの時を狙ってか、かの帝国皇帝ヨゼフ・バルダスら帝国過激派も侵攻を続けている」
グレイオンスは卓上に広げた大森林の地図を指した。各地で勝利と敗北を繰り返しながら徐々に前進した帝国宮廷女官長ザフィーア・ハイセン率いるアンデッドの軍勢は、既に『世界樹』の直下を守る源流氏族『樹花 』『夜天 』の里に迫ろうとしている。
「今、ヨゼフ帝の刃が『世界樹』に届くことだけは避けなければならぬ。『世界樹』が本来の力を取り戻すことができれば、イダ妃の魔手もヨゼフ帝の刃も退け、大森林の異変も収めることができよう」
「ええ。わたくしはルカンドラ様とともに『世界樹』の元へ行き、必ずエーテル石を捧げてまいります」
グレイオンスとニルヴァーナが、長旅の疲れからか部屋の隅で脚を曲げ、休んでいるらしいケンタウロスへと視線を遣る。
――彼が背負った麻袋から洩れる光は、聖地を出た時よりも明るさを増していた。
執筆:桃谷かな
監修:狐野径