「ドン・ゴーフルと過ごす権利」ノベル

エルゼリオ・レイノーラ
えっ、ドン・ゴーフルがどうだったか……?
うーん。そうだなぁ……優しかった……かな。お祖父様って感じだったよ!
ヴァイセントラフ砦にいるリーンエス王子がとても楽しんだようです。 その1、その2
ドン・ゴーフルはとても喜んだようです。 ノベル
●
「すいやせん、ちと歩きやす」
リブラネスタの某所でエルゼリオ・レイノーラと合流したブラックデスの構成員は小さく会釈をすると、歩き始めた。
――なるほど、暗殺対策……?
彼方此方と移動をする中、エルゼリオは何人か他の構成員を目にした。エルゼリオたちを追跡する人物や小動物などいれば洗い出すためだろう。サウゼル大樹海への騒動を越えても、身の安全が確保されたわけではないらしい。感心しながらも、手土産が傷まないうちに到着できればいいな……と思っていたころ、一軒の民家にたどり着いた。
「遠回りさせてすまねェな、兄弟」
エルゼリオを迎え入れた黒服のゴブリン、ドン・ゴーフルは頬を釣り上げるような笑みを浮かべていた。差し出されたのは、武威とは程遠い素人の手。浮かんだ疑問を笑顔に塗り込めて、握手を返す。
「いやいや! 密偵活動みたいで楽しかったよ! 普段からこんな感じなの?」
「ハ。これでも随分と楽になったほうよ。さて……」
その背には、大量の甘味が置かれていた。
「今日は口うるせェサチコもいねェ。ぱァっとやろう、ぜ……?」
ドンはそこで初めて、エルゼリオが持参してきた菓子に気づいたようだった。無言で手土産の箱の中身を覗き見たドンは、
「ヒュ~」
と、口笛を吹いたのだった。
●
話の肴にはカロリー控えめ、どことなく健康に良さそうなエルゼリオ・チョイスが採用された。
「ね。ドンにとって、リーンエス王国は仮想敵……と考えていいのかな?」
「そうさな。ビジネスでは上客には違いねェが」
意外と少食なのか、エルゼリオのペースに合わせてちまちまと菓子を食っている。
「俺たちのアガリ目は少ねェからな。王国がヒューマン至上を掲げる以上、対立は避けられねェ。俺たちは貴族になりたいわけじゃァねェが、対等には到底なれやしねェしな」
それは、貴族として了解できる話だった。だからこそ、
「状況によっては、ゴールディと王国が協力関係を結ぶことは……できないかな?」
――だからこそ、違う可能性をとエルゼリオは思ってしまうのだった。
将来の対立を前提とした関係は――ひどく、危ういものに見えたから。こういう盤面は、エルゼリオではなく彼の父の領分だと自分でも思う。それでも、この機会を得たのはエルゼリオだった。
「王国の食糧生産力とゴールディの情報収集力が合わされば――結構面白い事になりそう、かなって」
「はン……」
ドンの手が止まる。同時にその気配が変容した。
重く、粘質な視線。エルゼリオを指し手と見て、相対したのだと知る。
「兄弟が言うように、俺たちのような日陰モンには実がねェ」
ドンはエルゼリオが持参したジュースを呷ると、続けた。
「捨てられるのが目に見えてるのさ。200年見てきて、帝国についたのだって、ソレしか道がねェからだ」
「…………」
王国一強の今、ドン・ゴーフルたちゴールディを拒んでいるのは、何よりも社会構造だと告げていた。エルゼリオはそれに返すべき言葉を持たない。事実に、他ならなかったからだ。
つと、ドンの表情が歪む。
苦笑――いや、微笑しているのだと、遅れて気づいた。
「俺たちは王国より弱いのさ、兄弟。これは摂理だ」
ドンは、これが生存戦略なのだと告げていた。どうしようもない外圧に晒されている弱者の生存戦略だと告げていた。
「摂理を歪めるとどっかに無理が出る。兄弟がそれをしようとするなら、俺ァ止めるぜ」
「……どうして、かな」
「土がねェと芽はでねェ。俺が土で……兄弟は芽だ」
ドンは手にした菓子を掲げる。それは、紛れもない配慮の証であり――だからこそ、ドンは笑ったのだと、エルゼリオは知った。
「今は無理でも、いつかって夢は見れる」
眼前にあるのは、緑色の肌にシワを浮かべた、ただの老人の笑みだった。
「それは、200年前には無かったモンなのさ、兄弟」
「すいやせん、ちと歩きやす」
リブラネスタの某所でエルゼリオ・レイノーラと合流したブラックデスの構成員は小さく会釈をすると、歩き始めた。
――なるほど、暗殺対策……?
彼方此方と移動をする中、エルゼリオは何人か他の構成員を目にした。エルゼリオたちを追跡する人物や小動物などいれば洗い出すためだろう。サウゼル大樹海への騒動を越えても、身の安全が確保されたわけではないらしい。感心しながらも、手土産が傷まないうちに到着できればいいな……と思っていたころ、一軒の民家にたどり着いた。
「遠回りさせてすまねェな、兄弟」
エルゼリオを迎え入れた黒服のゴブリン、ドン・ゴーフルは頬を釣り上げるような笑みを浮かべていた。差し出されたのは、武威とは程遠い素人の手。浮かんだ疑問を笑顔に塗り込めて、握手を返す。
「いやいや! 密偵活動みたいで楽しかったよ! 普段からこんな感じなの?」
「ハ。これでも随分と楽になったほうよ。さて……」
その背には、大量の甘味が置かれていた。
「今日は口うるせェサチコもいねェ。ぱァっとやろう、ぜ……?」
ドンはそこで初めて、エルゼリオが持参してきた菓子に気づいたようだった。無言で手土産の箱の中身を覗き見たドンは、
「ヒュ~」
と、口笛を吹いたのだった。
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話の肴にはカロリー控えめ、どことなく健康に良さそうなエルゼリオ・チョイスが採用された。
「ね。ドンにとって、リーンエス王国は仮想敵……と考えていいのかな?」
「そうさな。ビジネスでは上客には違いねェが」
意外と少食なのか、エルゼリオのペースに合わせてちまちまと菓子を食っている。
「俺たちのアガリ目は少ねェからな。王国がヒューマン至上を掲げる以上、対立は避けられねェ。俺たちは貴族になりたいわけじゃァねェが、対等には到底なれやしねェしな」
それは、貴族として了解できる話だった。だからこそ、
「状況によっては、ゴールディと王国が協力関係を結ぶことは……できないかな?」
――だからこそ、違う可能性をとエルゼリオは思ってしまうのだった。
将来の対立を前提とした関係は――ひどく、危ういものに見えたから。こういう盤面は、エルゼリオではなく彼の父の領分だと自分でも思う。それでも、この機会を得たのはエルゼリオだった。
「王国の食糧生産力とゴールディの情報収集力が合わされば――結構面白い事になりそう、かなって」
「はン……」
ドンの手が止まる。同時にその気配が変容した。
重く、粘質な視線。エルゼリオを指し手と見て、相対したのだと知る。
「兄弟が言うように、俺たちのような日陰モンには実がねェ」
ドンはエルゼリオが持参したジュースを呷ると、続けた。
「捨てられるのが目に見えてるのさ。200年見てきて、帝国についたのだって、ソレしか道がねェからだ」
「…………」
王国一強の今、ドン・ゴーフルたちゴールディを拒んでいるのは、何よりも社会構造だと告げていた。エルゼリオはそれに返すべき言葉を持たない。事実に、他ならなかったからだ。
つと、ドンの表情が歪む。
苦笑――いや、微笑しているのだと、遅れて気づいた。
「俺たちは王国より弱いのさ、兄弟。これは摂理だ」
ドンは、これが生存戦略なのだと告げていた。どうしようもない外圧に晒されている弱者の生存戦略だと告げていた。
「摂理を歪めるとどっかに無理が出る。兄弟がそれをしようとするなら、俺ァ止めるぜ」
「……どうして、かな」
「土がねェと芽はでねェ。俺が土で……兄弟は芽だ」
ドンは手にした菓子を掲げる。それは、紛れもない配慮の証であり――だからこそ、ドンは笑ったのだと、エルゼリオは知った。
「今は無理でも、いつかって夢は見れる」
眼前にあるのは、緑色の肌にシワを浮かべた、ただの老人の笑みだった。
「それは、200年前には無かったモンなのさ、兄弟」