「ヴァイセントラフ砦のウィリアム・リーンエスと過ごす権利」ノベル2

レティシア・レインフィール
…………どう、しましょうか…………。
…………。
(レティシアはそのまま歩み去っていった)
ヴァイセントラフ砦にいるリーンエス王子がとても楽しんだようです。 その1、その2
ドン・ゴーフルはとても喜んだようです。 ノベル
●Rose in the ...
手元に届けられた封書は、レティシア・レインフィールに衝撃をもたらした。
「は?」
怜悧な美貌には似合わぬ少女の声が溢れ、
「ぇぇ……?」
自分が置かれた状況に思考が掻き乱される。
―・―
――状況は絶望的、ですね。
誰がこの珍妙な権利に当選したかは冒険者に公表されてしまっている。故に、レティシアは婚約者と父の正妻に知られていないことを祈ることしかできなかった。
彼女の眼前には二人。ウィリアム・リーンエス第二王子と、メルヴィン・トマス・アーチボルト辺境伯。こちらへの配慮で、嫁入り前の令嬢と王族が二人きりという状況を避けたのだろう。
微笑を湛えたウィリアムが口を開く。
「迷宮都市で会った時も思ったものだけど、相変わらずかわいいね。……小動物みたいなギャップがあって」
「……!?」
「王子。ご令嬢もお困りですよ」
「ふふ、ごめんごめん」
聴き慣れぬ言葉に混迷を極めた彼女が落ち着きを取り戻そうとする中、メルヴィンがウィリアムを窘めていた。
レティシアは咳払いを一つして、向き直る。
「……ところで、殿下はなぜ、このような機会を?」
「面白そうだったから、というのが理由の半分で、もう半分はゴーフル殿への牽制だね」
直截な物言いに、政治の香りが添えられていることに気づき、女の背に冷や汗が落ちる。
「王家としては冒険者と仲良くしたい、と?」
「ご明察。ついでに君たちともね」
実家を名指しでさされ、今度こそ絶句した。あまりにもストレートな働きかけだ。
――当主でもない私に、なぜ……?
自分で言うことでもないが、分不相応は否めない。そのことが分かっていない王族ではなかろう。
そこに。
「帝国の崩壊と授恵者の急増は、王国にとって致命的だった。じきに『狸』に『黒』も動き出すだろう」
予言が、落とされた。
「貴族たちだって一枚岩ではない。帝国の動静次第で王国は文字通りに割れて、大陸は今よりも大きな戦火に包まれることになる」
暗喩として挙げられた名よりも、その内容にレティシアは目を瞠る。知見を曝し、実を得ようとしているのかと。
「レインフィール侯は代々の中立派だ。ただの風見鶏ではなくね。だからこそ、僕たちは手を組めると思っているよ」
「……それは、私が決めることではありません」
「その通り」
家の外に出ていく者。あくまでも令嬢の立場で回答を拒んだレティシアに対して、ウィリアムは笑みを浮かべた。
嫌な予感がした。王国の未来図をあえて示したこの男は、
「でも、君にこそ、決めて欲しいんだ」
――私を、逃がす気がない!
「レティシア。薔薇の君。君には、選ぶ権利がある筈だよ」
ウィリアムはメルヴィンを見やると、涼やかな顔のまま頷きが返る。
その合意、いらないですけど……? とは言えないまま、それから、いくつかの話をした。
些細な世間話であったが、その最後に「いつか、答えを聞かせてほしいな」と添えられ、レティシアは困り果てることとなる。
――どう、しましょう。
実家や、婚約者に言えるはずもない問答だった。かといって、下手なごまかしはウィリアムの動き方一つで命取りになる。
「……」
けれど。なぜだろう。
望みが絶たれたなどとは。
決して、思い至りはしなかった。
手元に届けられた封書は、レティシア・レインフィールに衝撃をもたらした。
「は?」
怜悧な美貌には似合わぬ少女の声が溢れ、
「ぇぇ……?」
自分が置かれた状況に思考が掻き乱される。
―・―
――状況は絶望的、ですね。
誰がこの珍妙な権利に当選したかは冒険者に公表されてしまっている。故に、レティシアは婚約者と父の正妻に知られていないことを祈ることしかできなかった。
彼女の眼前には二人。ウィリアム・リーンエス第二王子と、メルヴィン・トマス・アーチボルト辺境伯。こちらへの配慮で、嫁入り前の令嬢と王族が二人きりという状況を避けたのだろう。
微笑を湛えたウィリアムが口を開く。
「迷宮都市で会った時も思ったものだけど、相変わらずかわいいね。……小動物みたいなギャップがあって」
「……!?」
「王子。ご令嬢もお困りですよ」
「ふふ、ごめんごめん」
聴き慣れぬ言葉に混迷を極めた彼女が落ち着きを取り戻そうとする中、メルヴィンがウィリアムを窘めていた。
レティシアは咳払いを一つして、向き直る。
「……ところで、殿下はなぜ、このような機会を?」
「面白そうだったから、というのが理由の半分で、もう半分はゴーフル殿への牽制だね」
直截な物言いに、政治の香りが添えられていることに気づき、女の背に冷や汗が落ちる。
「王家としては冒険者と仲良くしたい、と?」
「ご明察。ついでに君たちともね」
実家を名指しでさされ、今度こそ絶句した。あまりにもストレートな働きかけだ。
――当主でもない私に、なぜ……?
自分で言うことでもないが、分不相応は否めない。そのことが分かっていない王族ではなかろう。
そこに。
「帝国の崩壊と授恵者の急増は、王国にとって致命的だった。じきに『狸』に『黒』も動き出すだろう」
予言が、落とされた。
「貴族たちだって一枚岩ではない。帝国の動静次第で王国は文字通りに割れて、大陸は今よりも大きな戦火に包まれることになる」
暗喩として挙げられた名よりも、その内容にレティシアは目を瞠る。知見を曝し、実を得ようとしているのかと。
「レインフィール侯は代々の中立派だ。ただの風見鶏ではなくね。だからこそ、僕たちは手を組めると思っているよ」
「……それは、私が決めることではありません」
「その通り」
家の外に出ていく者。あくまでも令嬢の立場で回答を拒んだレティシアに対して、ウィリアムは笑みを浮かべた。
嫌な予感がした。王国の未来図をあえて示したこの男は、
「でも、君にこそ、決めて欲しいんだ」
――私を、逃がす気がない!
「レティシア。薔薇の君。君には、選ぶ権利がある筈だよ」
ウィリアムはメルヴィンを見やると、涼やかな顔のまま頷きが返る。
その合意、いらないですけど……? とは言えないまま、それから、いくつかの話をした。
些細な世間話であったが、その最後に「いつか、答えを聞かせてほしいな」と添えられ、レティシアは困り果てることとなる。
――どう、しましょう。
実家や、婚約者に言えるはずもない問答だった。かといって、下手なごまかしはウィリアムの動き方一つで命取りになる。
「……」
けれど。なぜだろう。
望みが絶たれたなどとは。
決して、思い至りはしなかった。