「ヴァイセントラフ砦のウィリアム・リーンエスと過ごす権利」ノベル1

クレア・エクレール
はぁい、こんにちは~。え? ウィリアム王子がどうだったか? ……ふっふーん♪ 意外と素直、だったかな……なんて、ね。
ヴァイセントラフ砦にいるリーンエス王子がとても楽しんだようです。 その1、その2
ドン・ゴーフルはとても喜んだようです。 ノベル
●pillow talk
「うぅむ」
ヴァイセントラフ砦の一角、青年の唸り声に続いて、涼やかな少女の笑い声が弾む。
少女はクレア・エクレール。少しばかり無骨なソファに腰掛けたクレアは、赤い髪を揺らして目を細める。王族に向けるには悪戯の気配をしっとりと含んだ瞳は、手のひら一つ分の距離にある、ウィリアム・リーンエス第二王子の顔へと向けられていた。その向こうには少女自身の艷やかな太ももが第二王子の頭部の重みで柔らかく沈んでいる。
平民の、平民による、王子のための膝枕であった。
「これはいいね」
「さては遠慮って言葉を知らないね……?」
当然だろ?
笑い声と吐息が、二人の距離を埋める。
―・―
眼前。嘘のような近さに、無防備な王族の顔。心地よさそうに目を細めている。
その髪をなでる。膝枕と毛繕いのセット。なんと献身的なサービス! とクレアは自画自賛。もとより、戦場で肩を並べたこともあるウィリアムの気晴らしの腹づもりではいたが、心ゆくままに満喫されている。
まあ、そう悪い気はしないのだけれど。
「ウィリアム様は微妙に危なっかしいよね」
髪をなでながら、続ける。
「並の冒険者より腕は立つし、腹芸も出来るし、出来る部下も抱えてて、タダでは死なない性格してるけど――第二王子で授恵者だからってあれこれ頑張りすぎじゃない? 放蕩王子の名が泣くよ?」
「ふふ、返す言葉もないね」
目をつぶったままの男の言葉は、柔らかかった。微かな痛みの色を感じ、クレアは続きを待つ。
「……少し、張り切っているところはあるかな。彼が、あまりに不憫でね」
それが誰を指した言葉かくらいはすぐに解る。王族同士、通じ合うものあがるのだろうという推察も、少女の胸中に馴染むもの。
「じゃ、今日ぐらいは休まなきゃね。今日は年下が存分に甘やかしてあげよう!」
芝居っ気たっぷりな言葉に、どちらともなく笑みが溢れた。ふわ、とウィリアムが欠伸を一つ零し、
「そうだね」
という呟きが耳朶を打ったと同時、ウィリアムは目を開いてクレアの瞳をまっすぐに見つめた。
――甘く、絡む。
「放蕩王子の噂について、試してみるかい?」
「……つっ、疲れてるんでしょ。今日はゆっくり休んでよ!」
年上の反撃に少しだけだじろぐが、乱暴に両の手のひらで顔面を叩いて視線を遮る。
遮られた方はふふ、と笑って「冗談さ」と言い、そのまま静かになった。
寝息が響くようになるまで、数瞬。
クレアは赤らんだ顔を隠すための手のひらをゆっくりと退ける。
どれだけ、時間が経っただろうか。規則正しい寝息を聞きながら、少女は呟いた。
「ボクは君の部下でも王国に忠誠を誓う者でもないけど」
――君には、楽しく長生きして欲しいと思っているよ。
たとえこの無防備な姿が、冒険者向けのポーズだとしても。
そう思ったこの気持ちは、けして嘘ではなかった。
執筆:ムジカ・トラス
「うぅむ」
ヴァイセントラフ砦の一角、青年の唸り声に続いて、涼やかな少女の笑い声が弾む。
少女はクレア・エクレール。少しばかり無骨なソファに腰掛けたクレアは、赤い髪を揺らして目を細める。王族に向けるには悪戯の気配をしっとりと含んだ瞳は、手のひら一つ分の距離にある、ウィリアム・リーンエス第二王子の顔へと向けられていた。その向こうには少女自身の艷やかな太ももが第二王子の頭部の重みで柔らかく沈んでいる。
平民の、平民による、王子のための膝枕であった。
「これはいいね」
「さては遠慮って言葉を知らないね……?」
当然だろ?
笑い声と吐息が、二人の距離を埋める。
―・―
眼前。嘘のような近さに、無防備な王族の顔。心地よさそうに目を細めている。
その髪をなでる。膝枕と毛繕いのセット。なんと献身的なサービス! とクレアは自画自賛。もとより、戦場で肩を並べたこともあるウィリアムの気晴らしの腹づもりではいたが、心ゆくままに満喫されている。
まあ、そう悪い気はしないのだけれど。
「ウィリアム様は微妙に危なっかしいよね」
髪をなでながら、続ける。
「並の冒険者より腕は立つし、腹芸も出来るし、出来る部下も抱えてて、タダでは死なない性格してるけど――第二王子で授恵者だからってあれこれ頑張りすぎじゃない? 放蕩王子の名が泣くよ?」
「ふふ、返す言葉もないね」
目をつぶったままの男の言葉は、柔らかかった。微かな痛みの色を感じ、クレアは続きを待つ。
「……少し、張り切っているところはあるかな。彼が、あまりに不憫でね」
それが誰を指した言葉かくらいはすぐに解る。王族同士、通じ合うものあがるのだろうという推察も、少女の胸中に馴染むもの。
「じゃ、今日ぐらいは休まなきゃね。今日は年下が存分に甘やかしてあげよう!」
芝居っ気たっぷりな言葉に、どちらともなく笑みが溢れた。ふわ、とウィリアムが欠伸を一つ零し、
「そうだね」
という呟きが耳朶を打ったと同時、ウィリアムは目を開いてクレアの瞳をまっすぐに見つめた。
――甘く、絡む。
「放蕩王子の噂について、試してみるかい?」
「……つっ、疲れてるんでしょ。今日はゆっくり休んでよ!」
年上の反撃に少しだけだじろぐが、乱暴に両の手のひらで顔面を叩いて視線を遮る。
遮られた方はふふ、と笑って「冗談さ」と言い、そのまま静かになった。
寝息が響くようになるまで、数瞬。
クレアは赤らんだ顔を隠すための手のひらをゆっくりと退ける。
どれだけ、時間が経っただろうか。規則正しい寝息を聞きながら、少女は呟いた。
「ボクは君の部下でも王国に忠誠を誓う者でもないけど」
――君には、楽しく長生きして欲しいと思っているよ。
たとえこの無防備な姿が、冒険者向けのポーズだとしても。
そう思ったこの気持ちは、けして嘘ではなかった。
執筆:ムジカ・トラス